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リベラルの変化と危機:リベラル国際主義とは何か?
バイデン氏が当選しました。早速、バイデン氏は民主党支持者に「相手を敵のように扱うのはやめねばならない。同じ米国人だ」と訴え、分断された米国の統合を訴えています。
また、産経新聞によると今後の米国の外交政策についてバイデン氏は次のように主張しています。
バイデン氏はまた、「再び米国を世界中から尊敬される国にする」と約束した上で、「米国は世界の灯台だ。模範としての力によって(世界を)導いていく」と強調した。
これは「リベラル(自由主義的)国際主義」を意識した発言です。
今回は今後バイデン氏が推進するであろう「リベラル国際主義」について投稿します。
リベラルとは何か?
「リベラル」は非常に混乱を生む言葉です。複数の意味を内包しています。今回は「リベラル(自由主義的)国際主義」の意味で投稿します。
・リベラル国際主義とは何か?
リベラル国際主義は、基本的人権、民主主義、自由貿易、法の支配を重視する国際秩序を目指す考え方です。ただ、実際の意味は時代と共に変化しています。リベラル国際主義の代表的論者であるジョン・アイケンベリーは、「リベラル国際主義」の変化を三段階で説明しています。「リベラル国際主義1.0」、「リベラル国際主義2.0」、「リベラル国際主義3.0」です。
リベラル国際主義1.0
「リベラル国際主義1.0」は第一次世界大戦後のウッドロー・ウィルソン大統領が提唱した国際秩序です。ウィルソン大統領は「集団安全保障体制」を構築し、平和の実現を試みました。国際連盟の創設です。しかし、「リベラル国際主義1.0」は第二次世界大戦の勃発に伴い、失敗に終わります。
リベラル国際主義2.0
「リベラル国際主義2.0」は第二次世界大戦後に、米国覇権が築いた多層的な国際秩序です。
・経済と安全保障
米国がドル覇権を背景にブレトンウッズ体制を構築し、又、マーシャル・プランで欧州の復興を牽引しました。さらに、米国は西側自由主義国の安全保障の核としての役割を担います。
・法の支配
リベラル国際主義は「法の支配」の発展を促進しました。2つ要素があります。第一に、「国際機関」です。国際連合やヨーロッパ連合(EU)が、第二次世界大戦後の安定に貢献しました。第二に、「二国間合意」です。多数の二国間合意が締結され、「法の支配」を強固にしました。
リベラル国際主義2.0の危機
第二次世界大戦後、米国覇権が牽引した「リベラル国際主義2.0」は西側諸国の安定と繁栄の基礎を築きました。しかし現在、「リベラル国際主義2.0」は危機に頻しています。
・冷戦の終結
冷戦が終結し、ソ連という安全保障上の脅威が消滅したことで、西側諸国の安全保障面で協力するインセンティブが一時的に低下しました。さらに、「リベラル国際主義」が西側諸国だけでなく、世界全体の国際秩序へと拡大した結果、軋轢も生んでいます。
・人権意識の向上
世界的に「人権」に対する意識が向上しました。現在の国際秩序は「国家主権」に基づいたウェストファリア体制です。国内における絶対的な権威は国家であり、他国に口出しは出来ません(内政不干渉の原則)。しかし、「人権」意識の向上により、他国の国内情勢にも注目が集まるようになりました。そして、「人権を守るためには他国への干渉も許されるのではないか」という考え方に変化しています。(「保護する責任(R2P)」です。詳しくは以前の投稿をご覧下さい。)
・アクターの多様化
多国籍企業、NGO、国際的テログループなど、今まで国家が主要なアクターだった国際秩序に、非国家のアクターが増えています。「国家」という枠組みだけで国際秩序を語ることが困難になりつつあります。
・バランス・オブ・パワーの変化
中国の台頭でバランス・オブ・パワーが変化しました。中国は野心的に新たな国際秩序の構築を模索しています。また、米国のトランプ政権はリベラル国際主義2.0を真っ向から否定しました。
今後の国際秩序の3つの可能性
今、世界は新たな国際秩序の時代に入りました。しかし、「リベラル国際主義3.0」は未だ確立されていません。新たな国際秩序には、大きく分けて3つの可能性が存在します。
1. 米国覇権の国際秩序(2.5)
米国は今後も世界最大のパワーを維持します。米国が国際秩序を立て直すことは十分に可能です。この場合は、「リベラル国際主義3.0」ではなく「2.5」と考えた方が適当です。バイデン大統領もリベラル国際主義に乗っ取った外交政策を打ち出すでしょう。他方で、米国の半数がトランプ氏に投票したことも事実です。下記の世論調査によるとアメリカ人の60%以上は国内問題に専念すべきだと考えています。また、約半数が攻撃を受けている同盟国を守るために米軍を派遣することに反対し、80%近くが貿易の余波から雇用を守るために関税の発動に賛成していると答えています。つまり、トランプの反自由主義的な外交政策は多くのアメリカ人に支持されていました。冷戦期のように米国がリベラル自由主義を牽引する時代は、終わったのかもしれません。
2. バランス型の国際秩序(3.0)
二つ目は、現在の国際秩序を、バランス型にアップデートする可能性です。米国の一極的な国際秩序ではなく、自由主義諸国によるバランスの取れた国際秩序です。「リベラル国際主義3.0」を目指すのであれば、日本、オーストラリア、インド、イギリス、EUなどが米国と協調してリベラル国際秩序を支える必要があります。また、国際連合、WTO、WHOなどの国際機関の改革も必要です。日本は現在のリベラル国際主義に最も恩恵を受けている国の一つです。この「リベラル国際主義3.0」が日本の国益に最も資するでしょう。
3. リベラル国際主義の崩落と中国覇権の国際秩序(0.0)
各国の保護主義的な政策により、自由主義的な国際秩序が崩落する可能性もあります。実際に米中貿易摩擦は第三の道への始まりを予感させるものでした。もしトランプ氏が再選していれば、リベラル国際主義は崩落していたかもしれません。バイデン氏が当選したことにより、第三の道の可能性は低下しました。しかし、依然としてリベラル国際主義は危機から脱していません。トランプ政権前から、現在のリベラル国際秩序は構造的な問題を抱えています。
アジアのリベラル国際主義
バランス型の「リベラル国際秩序3.0」を構築する鍵は「アジア」です。アジアでリベラル国際秩序を構築できるか否かが今後の国際秩序の大きな流れを作るでしょう。
・アジアの自由主義
アジアの自由主義は特殊です。アジアの自由主義圏の多くの独立国は元々「開発独裁」でした。フィリピンのマルコス大統領、インドネシアのスハルト大統領、韓国の朴正煕大統領などです。独裁政権の国でありながら、冷戦の文脈で自由主義圏に入りました。アジアにとっての「リベラル(自由主義)」は、冷戦イデオロギー対立の中で「標語」に近い意味を持っていました。80年代後半から、経済発展を遂げたアジアの国々が民主化し、本質的な意味で「リベラル国際秩序」に収斂されたのです。
・日本の役割
今後の国際秩序において、アジアでのリベラル国際秩序の構築が重要になります。その中で、日本はリベラル国際主義の旗手として期待されています。バイデン大統領と共に、日本がアジアのリベラル国際主義3.0を牽引し、新たな時代のリーダーシップを取る必要があります。
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