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増補改訂版 相談支援の処法箋だよ!


増補改訂版を上梓することになりまして

2021年、コロナ禍まだ真っ最中だったあのころ、「市役所で受けた法律相談の『あるある』を世に広めたい!」と思い立ち、いろいろな方の支えがあって出版した「相談支援の処「法」箋ー福祉と法の連携でひらく10のケース」から約3年半。
このたび、新たに3つのケースを足した【増補改訂版】が出版されます。

いいですね。黄緑色というか、若草色というか。
個人的にブルー系が好きなので「もっと深い紫みたいな色がいい」とか思ったのですが、さすがに暗すぎるだろ、と思い直し、この色になりました。

たった3年半の間に、障害者差別解消法は改正されるわ、個人情報保護法は大改正になるわ、配偶者暴力防止法(DV法)も改正されるわで、このままだと支援に支障が出るかも、などと心配になっていました。
そこへ、
「再重版かかりそう」
とのご連絡をいただいたので、
「あのぅ、重版のタイミングで法改正に対応した大幅修正ってできますか?」
と尋ねてみました。
そうであれば、「増補改訂版」でいこうか、となり、
そんなに変えていいなら新しいケース足そう!
と調子に乗って・・・

地獄を見た

やっぱり、公務員の間に書くのと、自営業弁護士やりながら書くのとでは何かが違った・・・(つらい)
おかげで、あれもこれも詰めたかったのですが、私の負担との関係で落とさざるをえないものもありました。

というわけで、増補改訂版について著者が勝手に語るシリーズの第1回として、まず新たに加わった3つのケースに対する思い入れについて語ってまいります。

なぜこのケースを選んだのか

新ケース10 医療的ケアが必要でも最後まで地域で暮らす

重度身体障害や、筋神経難病関係者の間では、「支給量問題」と呼ばれているテーマです。
重度脳性麻痺の方や、交通事故・労災事故等で頸髄損傷になり首から下が動かない方、あるいはALS(筋萎縮性側索硬化症)に罹患し全身が動かなくなっていく方が在宅生活を希望した場合、どのように医療・介護環境を整えていくか。ということを考えるケースです。
今から十数年前、このテーマのリーディングケースとなる裁判例が出ました。重度脳性麻痺の方に関する大阪高裁判決平成23年12月14日(賃社1559号4頁)と、ALS患者に関する和歌山地裁平成24年4月25日(判タ1386号184頁)です。

いずれも、原告は在宅生活をしていたものの、ほぼ全身独力では動かず、基本的に24時間ヘルパーがそばで見守り、介助し、ALSの場合は痰吸引等の呼吸器管理もしなければなりません。ところが、居住地の市が、1日12時間(半日)程度しか公費で派遣しなかったため、24時間分の公費負担を義務づける判決を求めたのがこれらの事件です。
その後、この問題に特化した弁護士ネットワークが結成されるなどした結果、同種案件が全国で生じ、それぞれ成果をあげてきました。

これらは私がまだ、明石市役所に入庁する前の事件で、「公務員弁護士になったらいいのではないか」と思う理由の一つにになった事件でした。
というのも、訴訟まで行ってしまうと、行政訴訟になることもあり、どうしても長期化してしまいます。原告にとって死活問題なのに、判決で長時間介護を認めてもらうにしても、5年も6年もかかっていては、原告にかかる負担が重すぎます。
そこで、ヘルパーの公費負担の支給決定という行政処分に関し、もし当事者と市との間で意見の相違が出た時、私が市役所の職員であれば行政処分の段階である程度あるべき支給量になるのではないか、と思いました。

ただ、入庁したのが明石市だったので、まぁ、なんというか、あまり市に苦情を言う住民が多くなかったのと、仮にヘルパー時間数で意見の齟齬があったとしても、市の財政の都合で時間数を減らすことを絶対に許しそうにない市長だったのとで、そんな相談は全然ありませんでした・・・
なので、初版本に書くにはちょっと不適かな、と思い、載せていません。

ところが、初版本出版後に異動した保健所で、それに近いケースに遭遇しました。
盲点だった・・・
遭遇するなら、絶対に支給決定の権限を持っている障害福祉課だと思っていた・・・
だって、在野の頃に関わっていた支給量案件で、保健所が出てきたことは一度もなかったので。がんばれ、保健所のみなさま。特に難病保健。
詳細は差し支えるので省きますが、ミクロに「この住民を助けたい」と思う職員が多数を占めれば、このような問題で障害者・患者が弁護士に依頼する必要などないのだろう、と思いました。明石市の場合、難病保健はもちろん保健師が担当し、障害福祉課は福祉専門職採用で採用された係長が担当しました。お互いの方向が、「この人を何とかしなければ」という方向で一致し、私はその方針を管理職や財政に説明できそうな資料と理屈を提供しただけでした。
というわけで、「自治体の中で支給量の法律相談はありえるな」と判断し、今回新規ケースに採用したのでした。

このテーマは、当事者にとっては死活問題ですし、裁判例の蓄積もあるので、これ一つでいくらでも本が書けるテーマです。ところが、「介護保障」という表現があまりにマニアックで、まったく関心のない人にわざわざ手に取っていただくのが大変難しいのがネックでした。
一方で、私は、本書の想定読者を「地域包括職員あたりかな」と思っていたところ、ケアマネジャーや訪問看護ステーションからも大きな反響をいただきました。
そうであれば、まず、ALSのような介護保険法特定疾病該当疾患で重度障害者になった時、最初に出会う支援者であるケアマネジャー、訪問看護師に手に取っていただける書籍の中で、普通にこのテーマを差し込み、「介護支給量が少なくても諦めないで」というメッセージを届けるのが夢でした。
本書にはあきらめなくてもよい根拠と、困った時の相談先をふんだんに盛りこみました。
また、13個のテーマの中で、ここだけ異様に法律面でも詳細に書いてしまいましたので、ケース10だけは、弁護士に読んでいただいても大丈夫だと思います。

新ケース11 迷惑行為をする隣人を病院へ入れろ?

このテーマは、保健所にいた時に毎日のように聞いていたテーマです。そして、正直なところ、保健所に対する異動前と異動後のイメージが180度変わったテーマでした。
かつて、自宅のベランダで布団を叩きながら、「ひっこーし!ひっこーし!さっさとひっこーし!しばくぞ!」と叫んでいる女性がニュースになりましたよね。あの時、「なんとかこの人を病院へ連れて行って治療できないのだろうか」と思った人もいたのではないでしょうか。私もその一人でした。
保健所異動前にいたのが社会福祉協議会でしたが、そこでも、隣家に衛生面で支障が出るほどのごみ屋敷にしている人や、大声をあげながら散歩する人などの相談が寄せられたり、「保健所で病院へ連れて行ってくれないかな」と頭をよぎるケースはたくさんありました。私も、よぎっていました。
しかし、保健所には必ず言われるのです。
保健所は、住民を強制入院させる機関ではない、と。

保健所へ異動し、精神保健に接するようになって、それまで保健所に断られた理由を深く理解したのでした。
弁護士として本当に情けないことですが、精神保健福祉法をよく読めばそう書いてあります。
じゃあ条文ちゃんと読めよ、と自分にツッコみたくなりますが、条文と、現場実体が、私の中でまったくリンクしていなかったのです。
あるいは、かつてハンセン病の隔離政策の最前線の担当したのも保健所であり、「保健所に見つかったら療養所へ連れていかれる」「保健所は、隔離を担当する機関だ」というイメージが、「保健所なら隔離する権限がある」というイメージにつながっているような気もします。それはそれで、現在の保健所に対して失礼だったな、と思います。
その深い反省と共に送りだすケースが、このケース11です。

このケースを執筆するに際し、「迷惑行為対応マニュアル」系の書籍に複数あたりました。ところが、「役所の福祉課に相談しよう」と書かれてあるだけで、その福祉課(福祉課、っつったって何の福祉よ。生活保護?障害福祉?高齢福祉?)が、どのような権限でどうすることを想定しているのかは書かれていませんでした。
これじゃあ、自治体職員も、社協職員も困るわ。

人が死にそうなくらいの暴れ方をしていない限り、その人を地域から強制退場させることはできない。
この前提から逃げずに、どうやって地域づくりをしていくか。
そこには精神疾患への理解や、精神科医療の地域へのアウトリーチ、一方で患者の精神症状によって傷つく人へのフォローなど、インクルーシブ社会への最もシビアな面と向き合う覚悟が問われます。

新ケース12 カスタマーハラスメントに対応する

東京都が、カスタマーハラスメント対応の条例を制定したあたりから、世間ではカスハラへ毅然とした対応をとる方向へ一気に流れています。
自治体も、苦情を言いに窓口に来られて5時間お帰りいただけなかったり、土下座を迫られたり、電話が切れなかったりいろいろあります。ただ、民間と大きく異なるのが、出入り禁止ができない事。
この点、最もシビアなのが自治体ですが、同じく公益的サービスの特性を持つ医療、福祉も、一定程度サービス提供拒否を制限される性質上、東京都のカスハラ条例をもとに策定されたガイドラインの記載に加え、医師法の応召義務や、介護保険法、障害者総合支援法等に基づく設置基準上の「サービス提供拒否の禁止」の考え方を十分に踏まえる必要があります。

あ、そういえば、2025年2月1日(土)午前10時から、こんなテーマでオンラインセミナーをします。私が講師ではありませんが、私よりもハラスメントに詳しい弁護士が担当するので、もし興味があればぜひ。

さらにもう1冊

さて、別にタイミングを合わせたわけではないのですが、さらにもう1冊、現代書館様から刊行される本に、コラムを寄せております。

こちらの書籍の「多機関」には、医師と弁護士が入っております。
本書の模擬ケース会議と、コラムにおいて、若干出演させていただいております。
ケース会議に弁護士を入れるとどのようないいことがあるのか。裏を返せばケース会議に参加する弁護士は、どのようなことに留意して臨むとよいかについて書かせていただきました。
今も、「弁護士は、お金を払ってきてもらっても、しこたまダメ出しして帰っていく」と言われるため、「最後の最後、ケースワークが行き詰ったときの最後の手段として呼ぶ人」という位置づけになりがちです。ただ、弁護士が、「次の一手」を示せる場面もありますし、できたら参加する弁護士も「次の一手」を示すつもりで参加してもらえたら、と思うのでした。

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