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人権課題がサブに回るドラマが好き

朝ドラにハマる

法曹、特に女性法曹であれば、だいたいハマっているであろう2024年前期朝ドラの「虎に翼」ですが、私も当然のようにハマっております。
第1週を見終わったところで、「これは全話録画しなければならないやつだ」と確信し、人生初の全話録画しております。ところが、結構重要だった第1話の冒頭がないのが心残りです。

猪爪(佐田)寅子という女性の一生をなぞるドラマとしてきちんと面白さを確保しつつ、「虎に翼」の主人公は憲法14条だ、と言われるほどに、毎週様々な差別とマイノリティにフォーカスする手法に、毎週泣かされています。
事務所の壁に憲法14条の条文を筆書きしている山田轟法律事務所なんか、法曹関係者は大絶賛なのですが、一般の方が見たらどう思うんだろう、とドキドキしています。「なんとまぁ左巻きの事務所!」と思われてるんだろうなぁ。
ここで、左巻きついでに14条を引用します。

憲法14条1項
すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

主人公が青春時代を過ごした名律大学の同窓生5名は、なんとなく集まっているようでいて、14条に列挙されたそれぞれの要素による差別を体現しています。朝鮮にルーツを持つヒャンちゃん(人種)、華族制度からの転換に翻弄される涼子様(門地)、家制度からの解放のために法律の勉強を始めた梅子さん(性別、社会的身分)、「男になりたかったわけじゃない。女を捨てたかったんだ。」と言いながら男装を貫き、戦後に司法試験に合格したよねさん(性別、信条)。
公式にも、やはりこの5名は、14条を意識して造形されているとのこと。

このように、登場人物の背景とキャラが、14条とパラレルに設定されていると気づいたとき、脚本家よ、それでもよくねじ込んでくれた、と思ったのが玉ちゃんでした。玉ちゃんは、戦争で被災して車いすになっており、彼女を通して身体障害者福祉法成立の経過がわずかに触れられていました。「障害」は、14条後段列挙事由に含まれていません。2006年に障害者権利条約に署名し、批准のために国内法を整備する段になり、本来は(現在そうなっているように)障害者差別禁止法を制定するべきだったのですが、「憲法14条後段列挙事由に、『障害』を含めることで国内法整備とすればいいんじゃないか」といった意見によりお茶を濁されようとしたこともありました。学生の頃、憲法14条後段列挙事由に何が入っており、何が入っていないのかなんてで何か結論が変わるなどということがあるだろうか、と思っていました。現実に、「入っていないから「障害」を理由とする差別なんて存在しない」という議論にはならないのですが、ここに書かれていないことによって、差別の代表的トピックに上がりづらい、という側面はあるのだろうなと思います。
そうすると、虎に翼でも、14条後段列挙事由に入っていないので、「障害」は取り上げられなくても全然おかしくないのですが、ギリギリ玉ちゃんが入っていることによって「忘れられてない!」とマニアックに喜んでいたのでした。

サブテーマとしての人権課題

ところで、日本のドラマがマイノリティを扱うとき、いかにも「今からこのテーマのドラマをしますっ!」という、明確かつ単一のメインテーマとして設定されることが多いですよね。虎に翼も、(法曹を主人公にした時点で仕方がないのですが)ジェンダーの課題を幹とすることは通底したテーマとしてはっきりしています。それにしたって虎に翼は説教臭さをだいぶ落としていると思うのですが、「憲法14条」の単語が出てきた時点で、このドラマをシャットアウトする人はいるだろうなぁとも想像します。

ところで私は、常日頃、「人権」という単語に忌避感を持つ人にも人権課題を抵抗なく伝えるためには、どういう方法がありうるか、と考えています。
アカン例は、「かわいそうな病人」を持ってきて、2時間かけて完治させたり死なせたりするタイプのやつとか、ひたすら正論をまくしたてて説教臭さ全開のやつとかですね。
正面からマイノリティや差別にフォーカスしたストーリーにすると、どうしても説教臭さが出てしまうので、できればサブテーマとして差別や人権課題が取り扱われるような感じになったら、もうちょっと広く伝わるようになるのになぁと思っています。
これまで見た中では、「きのう、何食べた?」ですかね。劇場版のサイト貼っとこ。

私が、西島秀俊さん好きであることを割引いてもおもしろいです。
あまりにもおいしそう&簡単に作れそうな晩御飯がいっぱい出てくるので、料理をしない私がこのドラマのレシピBookを全部買いそろえるくらいでした。映画を見に行ったときは、映画の冒頭に出てきた「りんごのカラメルソース煮」の作り方を必死で覚えて帰って、その日のうちに再現して失敗しました!
もはや私が拙い説明をするのもおこがましいですが、何かあったらおいしそうな晩御飯を作っていろいろ解決してしまう2人暮らしの男性のお話です。男性2人暮らしなので、”夫夫(ふうふ)”という設定ですが、それ以外はただの(あえて「ただの」と言うぞ)、おいしそう&作れそうな料理がいっぱい出てくるだけのホームドラマです。たまに、ゲイカップルに本質的について回る葛藤が描かれることがありますが、基本はホームドラマです。

で、「人権課題はサブ」になっているドラマで、「これ、最強だな」と感動して大好きだったのが、米国ドラマの「glee」です。私、米国ドラマは「24」と「glee」しか見たことがない、という勢いで大好きでした。
虎に翼の新潟編が終わったあたりで「明律大同窓生=憲法14条説」に気づいたところで、「そういえば、gleeに近づいているよなぁ」と思い出すことが増えました。
話の大きな筋は、「田舎の高校の合唱部(Show Choir)が、努力して地方大会を突破して全国大会を目指す」というもの。
ところが、主人公が集う高校のShow Choir部の部員も、対戦相手の高校の部員も、なんなら教員も、出てくる人ほとんど全員が深刻なマイノリティとしての当事者性を抱えています。今、パッと思い出せるだけでも、

  • 人種(アジア/ユダヤ)

  • 障害(知的/下半身不随/頸髄損傷/アスペルガー/強迫性障害)

  • 若年出産

  • 性的マイノリティ(ゲイ/レズビアン)

  • 合唱部差別(合唱部って、洋の東西を問わずにめちゃくちゃ差別されるのねw@合唱部出身)

私はseason3くらいまでしか見ていない(NHKでそこまでしかやってくれなかったのよぅ)ですし、2009年から2015年までという若干古いドラマですし、私は過去のドラマはきれいさっぱり忘れるタイプなので、多分もっといろいろな背景を持ったキャラがいたと思います。これだけいろいろあるキャラがそろって歌う「Born This Way」の何と説得力のあること。

このドラマに関するエピソードの中で一番すげぇなと思ったのが、体育の鬼教師が、年の離れた恒例の知的障害の姉を溺愛している、という設定。しかも、この姉役を演じていたのがアルツハイマー型認知症当事者で、ドラマ放映中に役者本人の認知症が進行しすぎて演技続行不可になったため、ドラマの中で突然亡くなったことにされていたことでした。
こんな感じでぶっ飛んだキャラクターばかりなのですが、こうしたマイノリティ性はあくまで「サブテーマ」です。メインは、スポ根ならぬ、芸術根性ドラマなので、毎回歌を聞いてるだけで「はぁぁぁぁぁああぁ(≧∇≦)♬」となります。「アナと雪の女王」で、原語版エルサを(歌唱も含めて)担当したIdina Menzelさんも、そこそこの役で歌ってくれます。

今から15年近く前のドラマでこの設定であることにも驚きますが、今であっても、日本でここまでぶっ飛んだことはできなさそうです。虎に翼は、この点惜しいところまで行っているのですが、でも「憲法14条」と明示している点で、人権課題はサブとは言えないよなぁ。

ところで、虎に翼は、あと1か月少々で終わりそうです。最近になり、「ちょっと毎週詰めすぎではないか」という意見も見るようになってきました。なんとなく、そんな気持ちもしなくもないですが、このgleeを3シーズン見た経験から言うと、「人類みなマイノリティ」です。生きていれば、毎日多様な問題にさらされるのであり、朝の15分に毎日いろいろ降ってくる話を見るくらいでおなか一杯になっている場合ではありません。

最後に、gleeで一番好きな歌を置いておきます。


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