時間は夢を見ることさえ阻んでしまうのだ
牛丼屋といえば、カネを持っていない青年たちに栄養を提供する場であり、営業先を飛び回るサラリーマンたちの憩いの地であった。
そして、この日本国に数多ある牛丼屋チェーンをすべて回りし者は、「牛丼王」という最高の名誉を与えられることから、「牛丼王に、俺はなるっ!」と叫んで会社を飛び出し、そのまま行方不明になったサラリーマンたちもいるとか、いないとか。
かつて見失った夢を取り戻すことに年齢は関係ない。しょぼくれた私も、牛丼王レースへの参加権を行使できるはずだ。そう思った翌日、牛丼王を目指してまずは近所の松屋へと足を運んだ。
しかし、そこは私の知る松屋ではなかった。松屋といえば吉野家よりも色遣いが淡泊でまろやか。夢と現実の境目に立っているような感覚に陥る、無機質な店内が特徴的だったはずだが、そんな松屋の淡い印象は一瞬にして波に浚われてしまった。
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