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「デジタルマーケティング」という言葉が大嫌いだった

「デジタルマーケティング」という言葉が大嫌いだった。というか今でも好きになったわけではない。

なんて腹落ちのしない言葉なんだろう?

それが去年くらいまで思い続けてきた、正直な気持ち。でも最近、やっと自分なりの解釈とか、整理をつける事が出来てきて、せっかくなのでそれをまとめてみたいと思う。

なるべく俯瞰的な視点で、かつ丁寧に書くので、デジタル云々関わらず、マーケティングに関わる多くの人にとって少しでも役に立つようなnoteになれば嬉しいな。ちょっと長くなるけど。

デジタルマーケティングって、ツールの話?

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「デジタルマーケティング」という言葉を聞いて、何をイメージ連想するか、きっと人それぞれ違うと思う。少し前まで私の連想ワードは、こんな感じだ。

SNS、デジタル広告配信、アドテク、運用、DMP、MA、チャットBOT、AI活用、ABテスト、SEO、CTR、コンバージョン・・・

実際、デジタルマーケティング系のセミナーやカンファレンスで耳にする話というのは、こういったものが多い。何が言いたいかって、ほとんどがデジタル技術を活用した「ツール」の話をしている。

もちろんツールを否定するつもりはない。否定するつもりはないが、ツール=マーケティングではないだろう。自分の中の最大の「気持ち悪さ」はそこにあった気がする。

デジタルマーケティングは無機質で冷たい?

「デジタルマーケティング」という言葉が腹落ちしなかったもう1つの理由は、私自身がFMCG業界(食品・飲料・日用雑貨など、購買サイクルの短い業界を指す)で仕事をしてきたからかも知れない。

機能的なニーズが基本的に満たされていて、いわゆるコモディティ化した市場も多いこの業界で、マーケティング上重要なのはブランドだ。

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ブランドを愛してもらうために、お客様の声を聴き、より良い商品を作り、品質だけじゃなく、面白いとか、楽しいとか思ってもらえる企画や体験を通じて、ブランドを伝えていくのが、マーケティング部門の重要な仕事だ。

だからマーケティングって、お客様の心を動かす、すごく人間的な血の通った活動だし、常に「お客様目線で」考えなければいけないと常々思ってきた。

その一方で、デジタルマーケティングのセミナーやカンファレンスに参加して聴く話、例えば

○○社のツールを導入したらCTRが○%向上して、コンバージョンもこれだけ改善しました、やったぜ!

みたいな話はすごく「企業目線」で、人間味のない無機質で冷たいものに感じてしまう。

デジタル『時代の』マーケティング

そんな中で最近、ものすごく腹落ちした概念がある。デジタルマーケターズサミット(#webtan)というイベントのオープニングセッションだったと思うが、「デジタル時代の」マーケティングという言葉だ。


この言葉の裏にあるのは、決してマーケティングの本質は今までと変わっていないが、デジタルによって世界が大きく変化してきたから、マーケティングもアップデートしようよ、ということだと理解している。つまり、

デジタル技術でこんなことが出来るから、マーケティングに活用しようぜ

ではなく

デジタル技術で人々の生活がこう変わるから、それに合わせたマーケティング活動をしようぜ

ということだ。前者は「企業目線」だが、後者は「お客様目線」という側面もある。デジタルマーケティングはよく「デジマ」と略される。でも最近は自分の中では、デジマは

ジタル
ダイノ
ーケティング

の略だと思うようにしている。

デジタルによって「リアルの場」の役割が変わる!?

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さてここからは、現在進行形で起こりつつある、世の中の変化について書きたい。前の章でデジタル時代のマーケティングと書いたが、じゃあその「デジタル時代」とはこれまでと何が変わるのか、という話。

といっても書きたい結論は一つで、デジタルによって「リアルな場」の役割が変化する、ということ。

ピンと来ないと思うので先に例を出すと、スーパーでもデパートでもブランド旗艦店でも、リアルに存在している店舗は、商品を売る場所ではなくなり、体験を提供する場所になるかもしれない、ということ。これはマーケティングにとって、かなり重要な変化だと思う。

人々にとっての「便利・快適」こそが正義

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例えばいま、Eコマースで買い物をしたことがない人に出会うほうが難しい。ではなぜEコマースがここまで普及したかと言えば、便利で快適だからだ。デジタルに限らず、世の中は「便利・快適」に向かっていく。当たり前だが、これは真理だろう。

だからこそ、未来のことを想像には、それが生活を便利にするか、快適にするか、という視点で考えると分かりやすい。

決済と商品の引き渡しは、店舗から切り離される

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では、買い物は今後どう便利に、あるいは快適になるのか。
例えば、いちいち財布から小銭を出して払うのは面倒くさいし、重い荷物を持って家まで帰るのはしんどい。特に育ち盛りの子を持つ親や、高齢者にとっては。もっといえば、スーパーマーケットというのは基本的にセルフサービスで、買いたいものが決まってるのに、店中歩き回って商品をカゴに入れていかなきゃいけないのだって、考えてみれば不便な話だ。

だからきっと決済はオンライン化が進むし、購入したものは欲しい場所に届くようになる、と考えるのが自然だ。ここで2つほど、事例を紹介したい。


事例1 店頭で試着してアプリで買う「マルイ」
商業施設のマルイの一部店舗では、売場で靴を試着して、気に入ったらその場でQRコードを読み込んでアプリで購入でき、商品は家に届く、という買い物の仕方を提供している。

事例2 オンラインでも購入できて30分以内に配達される「フーマー」
中国でアリババが運営するスーパーマーケット「フーマー」では、リアル店舗を持つが、オンラインでも購入することができる。オンラインの注文を受けると、店員が商品棚から商品をピックし、店舗から3km圏内であれば30分以内に配送される。

2つの事例を見てもわかる通り、例えリアルな店舗であったとしても、その場で決済をする必要はないし、その場で商品を渡すこともしなくてもいい

リアルでしかできないのは、実際に手にとって体験すること

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決済と商品の引き渡し(持ち帰り→配送)がリアル店舗から切り離される一方で、リアルでないとできないことがある。それは、実際に手に取ったり、体験することだ。

先のマルイの例で言えば、靴の試着はデジタルでは出来ない。試着(や接客)の役割が店舗に残っている。また、フーマーの例が興味深いのは、店内にはなんと「いけす」があり、泳いでいる魚を店員が調理して併設のフードコートで食べられる、という体験を提供していることだ。

Eコマースが当たり前になっても、生鮮食品は新鮮さや状態が分からないので抵抗がある人も多い。しかし、一度リアル店舗でそれを体験すると、次からは「あのいけすの魚がやってくる」と分かるので、抵抗がなくなるそうだ。

こういった実際に手に取って確かめたり、体験をすることこそが、リアルの場の持つ価値であり、果たすべき役割になっていくに違いない。

この「リアルな場の価値」を体現している店舗の一つに、「ライフスタイルを売る」というコンセプトを掲げる蔦屋家電があると思う。通常の家電量販店ではテレビはテレビコーナー、エアコンはエアコンコーナーに並ぶが、蔦屋家電ではテレビとエアコンを一緒に並べている。どちらもリビングに置くものだから当然、という考え方で、顧客は家電のあるライフスタイルをイメージしやすい。

また、炊飯器で炊き比べをしたり、ミキサーでジュースを作って飲めたり、様々なイベントも開催されている。空間づくりにもこだわっており、こうした体験は、デジタルでは難しい。

デジタルだけではビジネスは成立しない

私が「デジタルマーケティング」という言葉を未だに好まないのは、もはや多くのビジネスはデジタルだけで完結しないから、ということでもある。

先のマルイの例も店舗での試着はリアルで、購入はデジタルだし、フーマーはリアルな体験を提供するからこそ、デジタルでの購入をサポートしていると言える。つまり、リアルとデジタルが組み合わさって成立している。

それに加えて、本来デジタルで完結するはずのEC企業が、リアルに進出するケースも増えてきているが、その理由の一つがデジタルだけでは「ブランドを感じてもらうこと」が難しいという面ではないかと思う。

特に、ブランドの機能的な価値(商品特徴など)は伝えることが出来ても、情緒的な価値を伝えるには、圧倒的にリアルな場やアナログな体験がモノをいうのは、今後も変わらないだろう。

補足:靴箱の形をした、アディダスのPOP UPストア。こんなワクワクする情緒的な体験はデジタルではなかなかできない。

Amazonもリアル店舗のコンビニ「AmazonGo」を展開しているし、期間限定だが日本でも「Amazon Bar」というリアルな場を作っている。Amazonがリアルな顧客接点をもつ理由の一つも「ブランド体験」なのではないかと思う。

ちなみに、このデジタルとリアル、オンラインとオフラインの垣根がなくなっていく系の話は最近OMO(Online Merges with Offline)という言葉で語られ、話題になっているが、まだ読んでいない方はぜひ『アフターデジタル(藤井保文・尾崎和啓著)』を読むことを全力でお勧めしたい。

これからのマーケティングはCX(顧客体験)の設計が鍵となる

最後になるが、先に書いたデジタル「時代の」マーケティングを、掘り下げて整理すると、

・お客様の生活が「便利・快適」になることを正義として
・デジタルとリアルを組み合わせてビジネスを進化させる

ということであって、そこで重要となるのが、

どんなCX(顧客体験)を実現するのか?

ということに尽きると思う。CX(Customer Experience)とはその言葉の通り、顧客との間にどのような接点を作り、その接点を通じて顧客がどのようなブランド体験をするのか、という事だ。

今までリアル中心でビジネスをしてきた企業が、デジタルを使ってCXをどう変えるのか、逆にデジタル中心でビジネスをしてきた企業が、どんなリアルな場でCXを作っていくのか。

それを実現しようとしたときにはじめて、MAとかDMPとかAIとか、色んな技術やツールが役に立っていくのだろうと。

このCXの設計・創造こそ、マーケターの仕事。この変化の時代に、マーケティングを仕事にできることは幸せなことだなぁ、と思う・・・。

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