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デザイナーの言語化とネガティブケイパビリティ


デザイナーは、なにかと「言語化すること」を求められる。

例えば、デザインレビューでは「なぜそのデザインが良いのか/悪いのか」を言葉にする。

プレゼンでは、コンセプトを簡潔に述べ、共感させなければいけない。

チームでは、暗黙知を言葉にして伝える必要がある。

そういう世界でずっと生きていると、すばやく・簡潔に言葉にすることは、無条件で良いことだという意識が芽吹く。

自分の性に合うなと思う一方で、「すばやく簡潔な言語化=善」という世界にどっぷり浸かるのも怖いな、ということをたまーーーに考える。


⛓ 言葉には力がある

言葉と概念(アイデア)密接に繋がっている。

概念はやっかいで、人の意識に居座って、日常のあちこちに顔を出し始める。

たとえば、美容や消費財の世界では、概念を作ることがマーケットを作ることに直結する。

まずはコンプレックスを刺激させる言葉を生み出す。例えば「包茎」や「加齢臭」。どちらも医学用語にない言葉だ。
こういった新しい言葉は、「私は変かも」「人を不快にさせてるかも」という意識を植え付けるパワーがある。

概念を擦り込んだらすかさず「そんなあなたに!」と、解呪のための自社製品を手渡すのが大切。それは香水だったり、サプリメントだったりする。レオ10世もびっくりの商売だ。


🧭 言葉がデザインのブレを減らす

言葉の良い面によって、デザインが進んでいくこともある。

ふわふわしていたデザインコンセプトが、すばらしい言葉選びによって結晶化される。チームの足並みがそろって、アウトプットのブレがなくなる。
そういった経験を一度は体験したことがあるはずだ。

他人同士が共通のゴールに向かうとき、言葉はすばらしい羅針盤になってくれる。


🤲 言葉は取りこぼす

一方で、言語化したり、名付けをすることで取りこぼすものがある。

例えばデプスインタビューの場面。ユーザーと話をしているときは、

67歳の男、所沢在住、釣りとキャンプが好き、
こだわりが強く、犬小屋をDIYしたときは、
図面を引くところから始めた

......といったウェットな情報をたくさん知ることができる。

しかし、リサーチサマリーで簡潔に言語化したとき「アウトドア好きなアクティブシニア」に丸め込まれている可能性がある。手触りや温度が失われるが、抽象化によって理解しやすい・扱いやすい形になるというメリットがある。


💭 抽象と捨象を意識する

情報を丸め込んで言葉にするのは大事なことだ。(抽象)

ただ、「言葉を与えたことによって切り捨てられた(捨象)ものがある」ということを意識しておくことも同じように大事なのかなと思う。

デプスインタビューの例であれば、切り捨ててしまった情報に実は重要なインサイトがあったという可能性も考えられる。

KJ法でラベリングするときのように、抽象化しすぎないよう意識する、または、抽象化するけれども、切り捨てた情報も頭に留めておく。みたいなことはやってもいいのかもしれない。

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また別のアプローチとして、切り捨てた情報を感じさせるように言葉を選ぶ、という道もある。

たとえば、俳句や短歌は好例だ。5-7-5に削ぎ落とされた記述は、しかし、その周縁、余白に膨大な情報がある。

非常に難易度の高いことだが、コンセプトステートメントを作るとき、その言葉の余白まで考えて言葉を選ぶことができれば、大きな武器になる。


⏳ 言語化に時間をおく

場合によっては、すぐさま言語化するのではなく、自分の中で熟成させてみることも有効だと思う。

人は未知を嫌うため、新しいことやわからないことに出会うと、いままでの経験に当てはめて、勝手に納得してしまう。

コンセプトを言葉にしたり、KJ法のラベリングでも、自分の引出しから既製の言葉や概念を取り出してきて、さっとレッテルを貼ってしまいがち。

イギリスの詩人が作った概念に「ネガティブケイパビリティ」というものがある。「もやもやした曖昧なもの、答えの出ないものを明らかにするのではなく、それをそのまま受け入れる」能力らしい。

すぐさまレッテルを用意するのではなく、ファジーな状態で向き合うという姿勢は大事だと思う。

小さな灰色の脳細胞に任せるのではなく、ゆっくり「未知」と向き合い、言葉を紡ぐことで、言語化によるとりこぼしが減るかもしれない。、

おしまい。


ネガティブケイパビリティ
サピア=ウォーフ仮説(言語相対性理論)

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