ラストマイルを観てきました(ネタバレあり)
2024年8月23日金曜日に公開された映画ラストマイル。
26日月曜日に1回目、28日水曜日に2回目を観てきました。
感情が新鮮なうちに感想を書き殴りたいと思います。
今回の作品は、2018年放送のアンナチュラル、2020年放送のMIU404を手がけた、脚本家 野木亜紀子と監督 塚原あゆ子をはじめとした制作チームによるシェアード・ユニバース作品です。
両作品で出演していたキャストが登場したり、世界線、設定が同じだったりします。両作品ともに熱烈なファンが多く、ラストマイルの公開を大勢の人が待っていました。わたしもそのひとりです。
アンナチュラルは法医解剖医 三澄ミコト(石原さとみ)を中心とした不自然死究明研究所(通称UDIラボ)で働くメンバーが、ご遺体と向き合いながら死因や事件の真相を究明していくドラマです。
MIU404は志摩一未(星野源)、伊吹藍(綾野剛)という対照的な気質の刑事二人が、放送当時の日本における社会問題を背景としたさまざまな事情を抱える犯人や被害者と向き合う姿を、警視庁機動捜査隊を舞台に描く刑事ドラマ。(https://ja.wikipedia.org/wiki/MIU404)
アンナチュラルが放送された2018年。第1話「名前のない毒」でMERSコロナウイルスが登場したり(新型コロナウイルス騒動の前)、第2話の「死にたがりの手紙」のシナリオを書いたのは、2017年に起こった座間9人殺害事件の以前であったことなどから、ネット上では脚本家の野木亜紀子さんの予言者っぷりがすごいなどという声があがっていました。
わたしたちが生きる上ですぐ側にある社会問題をテーマにしつつ、コメディ要素もふんだんに入れた脚本、俳優さんの演技、役柄のキャラクター、演出、音響、主題歌など、アンナチュラル、続けて放送されたMIU404に心を鷲掴みにされていたファンは少なくありません。
わたしはよく、米津玄師さんのLemonは好きだけどアンナチュラルを見たことが無いという人に対して、「アンナチュラルを見ていたら、Lemonの解像度が100倍上がるのに!」とか話していました。いや、めちゃくちゃ良い歌詞ですよね。言えずに隠してた昏い過去も、あなたがいなきゃ永遠に昏いままなんですよね。今でもあなたはわたしの光なんですよ。あ、すみません脱線しました。
ラストマイル。
流通業界最大のイベントのひとつ“ブラックフライデー”の前日、世界的なショッピングサイトDAILY FASTから配送された荷物が爆発する事件が発生する。関東センター長に着任したばかりの主人公 舟渡エレナ(満島ひかり)はチームマネージャーの梨本孔(岡田将生)とともに事態の収拾にあたる。
物語のあらすじはこんな感じ。
いや、もう本当に良かった。2.7m/s →0(70kg)というメッセージから始まって、爆発が起こってからの物語のスピード感、緊迫した映像、俳優さんの演技、音楽、衣装など。
犯人は一体誰なのか?動機は?
そもそも、どうやって爆弾を荷物の中に紛れ込ませたのか?
事態が動くたびに少しずつ真相が明らかになっていく脚本が本当に見事でした。
※以下、ネタバレを含みます。
まず、アンナチュラル、MIU404メンバーが勢揃いだったのが嬉しかったです。両作品のメンバーが映るシーンでサントラが流れたりだとか、MIU3話に出てきた勝俣くん(前田旺志郎)が機捜に入っていたり、アンナチュラル7話に出てきた白井くん(望月歩)がドライバーになっていたり、六郎(窪田正孝)が東央医大にいたり、坂本さん(飯尾和樹)が帰ってきてたり。
みんなそれぞれ相変わらずで、みんなそれぞれ各々の人生を歩んでいたんだな、と気持ちが暖かくなりました。
そして。
良いな、と思ったのは、
デイリー・ファスト・ジャパン統括本部、
デリファス(DAILY FAST)西武蔵野ロジスティクスセンター、
羊急便関東局、
羊急便・荒川区集配センター、
委託ドライバー、
荷物を待っている人たち。
全ての立場が描かれていたこと。
皆それぞれ立場や想い、抱えているものが違います。
この制作チームは最前線で戦っている人を描くのが本当に上手いので、ドライバーの佐野親子(火野正平、宇野祥平)が登場するたびに心を揺さぶられていました。
セリフや荷物を持っている時の腕の角度や、車のドアを閉めるときの仕草から、この人たちは最前線で毎日戦っているということを確かに感じる演出、演技でした。
また、物語途中、ミスリードで息子の亘が以前Hinomoto電機に勤めていたことを怪しく演出していましたが、まさか終盤の伏線になっていたなんて!
洗濯乾燥機でボロ泣きしたのはおそらく初めてです。
「良い洗濯機使ってますね」
佐野親子幸せになってほしい。切実に。
あと語りたいのはどうしたって山崎佑(中村倫也)と筧まりか(仁村紗和)の2人。
終盤で1件目の事件で亡くなったのが、里中浩司ではなく筧まりかだと分かったシーン。UDIの中堂さん(井浦新)が指輪をつけた薬指に触れながら、「見上げた根性だ」と呟き、ミコトが「そんな根性なら無い方が良かった」と言ったシーンが印象的でした。
山崎佑がロッカーに残した2.7m/s →0(70kg)のメッセージ。2.7m/sはベルトコンベアの速度。70kgは耐荷重。速度は0へ。
山崎佑はベルトコンベアを止めたかったのだろうと解釈しました。
いや…たぶんそんなシンプルなことではなくて。
ブラックフライデーで勢いよく流れる物流業界のみならず、前線で必死に動いている、一部の誰かが必ず無理をしている、この社会全体へのストップをかけたかったのも少なからず背景にあるのではないかと思いました。
でもベルトコンベアは止まらなかった。彼が頭から大量の血を流していても、そのすぐ後に荷物は動き出し、稼働率は元へ戻っていく。そのシーンが切なくて、本当に切なくてどうしようもなかったです。
しかし最終的にデリファスは羊急便との交渉へ向かいます。今回の事件とエレナの動きによって、もしかしたら少しは業界が変わっていくようになるのかもしれません。
そして、米津玄師さんによる主題歌のがらくた。1回目を観た後に、サビの部分、筧まりかの心情を書いているみたいだというツイートを見つけまして。
歌詞を読んで、わたしも
筧まりかから山崎佑へのメッセージとも取れるなと思いました。
5年間植物状態のまま眠り続けている恋人。
筧まりかの、「世界は罪を贖ってくれますか?」というセリフが心に刺さりました。
ラスト、エレナがサラに言った「爆弾はもう一個ある」というセリフ。
山崎佑が万が一目を覚ました時(植物状態とのことなのでおそらく無いでしょうが)、恋人の死を知って彼がどういった行動を取るのかを考えてのセリフなんじゃ無いかと思ったりしました。
ちょっと杞憂な見方かな。
もしくは…
山崎佑のような、昔のエレナのような、精神的、肉体的にも限界スレスレの誰かが他にもたくさん居るということ。それは、物流業界のみならず、この国で生きている誰にでも起こり得るということ。
それを伝えたかったのかな、なんて。
そして、物語のエンドロール。
この物語はフィクションで、実在の団体・人物とはーというお馴染みの文の後に、おそらく製作陣が伝えたかったであろう一文が載っていました。
これもTwitterで見かけたのですが、
筧まりかが購入した商品は、アロマデュヒューザーや安眠できる枕など。
エレナが倉庫に配属になって、1年目は「やり甲斐を感じた」、2年目は「順調」、3年目は「眠れなくなった」。
がらくたの歌詞「眠れない夜でも鳴り止まないスヌーズ」。
エレナの、「無駄に日本人で嫌になる」というセリフ。
この国で頑張るすべての人へのメッセージなのかもしれないなと思いました。
みんな働きすぎ。頑張りすぎ。たまにはゆっくりしましょう。
羊急便の佐野親子の日常感、
センターで大勢の人が働いている様子を映す演出、
階層や社会構造。
満島ひかりさんの、アメリカ帰りっぽい発音をする演技とか、岡田将生さんの目の動きの演技とか。
関東の11月を感じられる衣装、ベルトコンベアが動く効果音、心に訴えかける主題歌とエンドロール。
映画として見応えのあるエンターテインメント性と、同じくらい強さを持ったメッセージ性。それらを両立させて、でも説教くさくもなく、身近にいそうな等身大の登場人物と緊迫したストーリーを描き切っているのが本当にすごいと思いました。
アンナチュラルの時も野木さんがぽろっと言っていましたが、例えばこれが一昔前の感性の映画だったら、エレナと孔の二人でちょっと恋愛要素を足しちゃったりとか、余計なことをしそうじゃないですか。でもこの制作チームは絶対にそんなことしない。
わたしたちもそれを知っているから、安心してこのリアリティのある世界観に身を委ねることができるのだと思います。
最後に。
わたしは映画を鑑賞して感動しただけのただの個人だけど、わたしは何ができるのだろうと思ったりしました。
この生きづらい国でこれから生きていくのにどうしたら良いのだろうと考えて、結局、優しくなりたいと思いました。
配達員のひと。お店の店員さん。専門職のひととか、もしくはただすれ違った見ず知らずの人とか。
そういうすべての人たちに優しくありたい。
その人たちが、夜眠るときに、明日を生きることを諦めないように。
わたしもたぶん、ギリギリを生きていた時期があったので。
それがたまたまこの国で生まれたわたしにできる一つのことかなと思います。
長くなってしまいました。
同じ映画を連続で観たのは初めてだったのですが、伏線が張り巡らされているので、何回でも観たい作品でした。
映画に関わったすべての関係者の方に敬意を表します。
最後まで読んでいただきありがとうございました。