高血圧と減塩生活 意外なダイエット効果と健康的な変化
(本記事は個人の体験に基づき作成しています。実際に減塩生活を始める前に医師や栄養士に相談することをおすすめします)
「これはまずいな……」
血圧計の表示をみて、そうつぶやいたのは、つい3か月前のこと。つぶやいたのはわたしではなく、かかりつけクリニックの先生です。
「今日は血液検査の結果を聞くだけだから、すぐに終わるだろう」そう思っていました。先生も『経過は良好』と仰ったので、安心して席を立とうとした時でした。先生からひとこと「ついでに血圧も測っておきましょうか」と……
40歳を過ぎた頃から、長年高血圧気味ではあったものの、自覚症状もなく特に対策をせずに過ごしていました。しかし、今回の検査結果は、これまででもっとも悪い数値だったのです。上の血圧は180超、下も110を超えていました。
先生からは「このままでは、脳卒中、心筋梗塞など、脳や心臓に重大な疾患が起こる可能性もある」と、強い口調で減塩生活を指導されました。いままでは軽く聞き流していたわたしも、今回ばかりはまじめに取り組まざるを得ませんでした。
はじめての減塩生活
減塩生活、それは想像以上の苦行でした……
減塩生活を始めて、まず痛感したのは、食べたいものが食べられないことが、これほどつらいものだということ。
もちろんいままでも「食べたいけど食べられない」ことはありました。しかしそれは「値段が高くて食べられない」ことに限定されていました。「松茸が食べたいけど、国産は高いから外国産でがまんしよう」といった類のものですね。
あとはせいぜい「これから出掛けるから餃子は食べられない」とか、「体調が悪いから生ものはやめておこう」といった、今にして思えば期間限定のがまんともいえないレベルの低いものでした。
先生からの指導では、一日に摂取してよい塩分はわずか6g。言われた当初は「6g」がどのような数字かまったく理解できていませんでした。しかし、具体的にいろいろ調べ始めると、この「6g」がいかに常軌を逸した数字なのかを理解せざるを得ませんでした。(高血圧患者に推奨される一日の塩分摂取量6グラムは、特に日本高血圧学会のガイドラインに基づいています)
この基準を守るためには、食事に対する大変厳しい制限が課されます。麺類を例に説明すると、ラーメン、うどん、そばといった麺類は、汁を飲むことができません。中でもうどんは、麺そのものに含まれる塩分が多く、選択肢からは外れます。
ラーメンは「スープを飲まず麺だけを食べる」といった食べ方自体が現実的ではありません。「ラーメンのスープを飲まず麺だけを食べる」って、一体どんな罰ゲーム?それならいっそのこと食べないほうがましでしょう。
パスタは麺自体に含まれる塩分量は少なめですが、パスタ料理に使う食材や調味料は塩分が多く含まれるものが中心です。したがって、調理法に細心の注意が必要です。
結果的に、麺類はほぼ「そば一択」になります。そばは麺自体にもほとんど塩分が含まれず、さらに、そばの「絶対的パートナー」ともいえる天ぷらも塩分量は控えめなのです。
その他、挙げればキリがないですが、お漬物や梅干し、加工食品もほとんどがアウト。外食に行っても、メニューを選ぶのに一苦労です。家で晩酌するにしても、大好きなイカの塩辛なんて言語道断、刺身類はしょうゆをつけるからダメ、鍋も汁を飲んではいけない、サラミや乾きもの類も塩分オーバーでほぼすべてNG。
「あれもダメ」「これもダメ」「それもダメ」……、これはもう「イヤイヤ期」のこどもに十分対抗できるレベルの「ダメダメ期」といえるでしょう。
今まで、何も考えずに、好きなものを好きなだけ食べていたのが、”どれほど幸せなことだったのか”身に染みてわかりました。
食事制限による、思わぬ変化
ここまで食べられるものが限られてくると、自然と食べる量も減っていきました。食事量が減ると、当然のことながらお腹がすきます。白いご飯は塩分が含まれていないため、ご飯をたくさん食べれば空腹はしのげます。しかし、塩味のない、あってもきわめて味の薄い料理では、それほど多くのご飯を食べる気にはなりません。外食時も「ごはん大盛り」を頼むことはなくなっていきました。
減塩生活を始めてから、最初の1ヶ月は、まるで修行僧のような日々でした。いつもお腹が空いた状態で、無意識のうちに食べ物のことばかり考えていました。ところが、肝心の血圧の数値は、なかなか思うように下がりません。それでも、諦めずに、つらい減塩生活を継続しました。
取り組み2か月目頃から、お腹いっぱいになるまで食べなくても、あまりつらいと感じることがなくなってきました。味付けも薄味になり、素材そのものの味を意識するようになったせいか、濃い味付けの食事が、以前ほど美味しいと感じなくなった味覚の変化もありました。最初は味がしないと思っていた薄味の料理が、だんだんと美味しく感じるようになったのです。
そんなある日、血圧とは別のある数字の変化に気づきます。そう、それは体重です。50歳になった頃から、緩やかな曲線を描き上がり続けていた数字が、右肩下がりに減り始めたのです。
私は男性なのでそもそも体重はあまり気にしていません。お風呂あがりにたまに体重計に乗るくらいのもので、それもせいぜい週に1回ほど。
これまでを振り返ると、40代は体重が一定してほとんど変わりませんでした。マラソンをやっていたこともあり、自分でも不思議なくらい変動がなかったのですが、50才を過ぎてから徐々に体重が増えるようになったのです。
加齢による体質の変化もあるのかもしれませんが、コロナ禍を機にマラソンを休止したことが大きかったと思います。気が付けば元々のベスト体重を5キロ以上も上回り、大台の70キロを超えていました。こうなるとさすがに少しは気になります。
仕方なしにジム通いを始めたものの、体重増を止めるのが精一杯で、減るまでの効果は出せず現在に至っていました。
減塩生活には、ダイエット効果があった!?
減塩生活で意図せず減り始めた体重。当初は、すぐに下げ止まるかと思っていましたが、その後も減り続け、ついに40代の頃のベスト体重を下回ってしまいました。
一番体重が増えたときと比較すると実にマイナス7.4㎏です。数字の変化以上に嬉しかったのは「歳だから仕方ない」とあきらめていた、お腹が少しぽっこり出てしまっていたのが元に戻ったことです。
まさか減塩生活がダイエットにつながるとは、予想もしていませんでした。減塩生活で食事量が減り、結果的に消費カロリーが摂取カロリーを上回ったのでしょう。
以前は、濃い味付けの食事を白米と一緒にお腹いっぱい食べていました。しかし減塩生活を始めてからは、素材の味を活かした薄味の食事を、腹八分目で済ませるようになりました。必然的に摂取カロリーが減り、その結果、体重が減ったのだと思います。
食べたいものが食べられなくなり、肝心の血圧は思うように下がらない状況ではありますが、想定外のダイエット効果を発見したことは大きな救いとなりました。
血圧はまだ目標値には達していませんが、体重が減ったことで、体が軽く感じるようになり、以前よりも体調が良くなったように感じています。”減塩生活も悪いことばかりではない”そう思えるようになりました。
中高年のメタボ対策にも…
今回の経験を通して、約3か月継続してきた減塩生活は、血圧の数値は、一定の低下傾向はあるものの150を超える日もあり、まだはっきりとした効果は表れてはいません。しかし、過剰な塩分摂取を控え、野菜や果物中心の食生活を心がけることは他の成人病予防にもなり、健康増進につながると思います。
職場の飲み会などが多く、食べすぎ、飲みすぎが原因でメタボに悩む中高年の方は、減塩を意識した生活を取り入れてみるのもよいのではないでしょうか。
全般に食事が薄味になることで食べる量が減りますし、減塩生活を理由に飲み会を断りやすくなります。飲み会が減るとそのぶん時間が有効に使えるようになり、ウォーキングやジム通いなど、運動してみようという気持ちも湧いてくるかもしれません。飲み会が減り飲み会代の出費が減れば、その分、ジムの会費に充てることもできるでしょう。
まとめ
減塩生活は決して楽ではありません。しかし、健康的な体を手に入れるためには、避けては通れない道なのかもしれません。
最近では減塩メニューのレシピ本などもたくさん出版されており、食材や調理方法、調味料の工夫などによって、ストレスを感じない魅力的な減塩メニューも紹介されています。ただガマンするだけでなく、新しい食生活を取り入れるきっかけにするのも良いかもしれません。
現在血圧に異常がない、30代、40代の人にとっても、いまから、過剰な塩分摂取に気を付けることは、将来の成人病予防になりますし、ダイエットサプリなどに頼らずに肥満防止の効果が得られると思います。
ただし、塩分は生命の維持に必要なミネラルです。無理に塩分摂取量を減らし過ぎると、倦怠感や食欲不振、頭痛などの体調不良を引き起こす可能性があるため、注意が必要です。
血圧の数値が改善されるまで、私も減塩生活を続けていきたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
この記事が、少しでも皆さんの健康に役立てば幸いです。