奇跡の女子高生

それは神戸からの帰りの新幹線であった。
ちょっと事情があって、私が座っていたのは自由席だった。3人がけの窓側である。
ちなみに新幹線の座席はこの3人がけの窓側に限る。富士山が見えないというデメリットはあるものの、中央が空席でゆったり座れる確率が高いからだ。窓際ならハンガーもコンセントも使い放題である。トイレに立つときにちょっと面倒だが。

ともかく私はいつものように3人がけの窓側に座っていたわけだ。
大阪駅ではほとんど客が乗ってこなくて、ゆったりしたままだった。
次の京都駅ではそこそこ客が乗り込んできた。
するとそのうちの一人の女子高生がするすると私の方に向かってきて、3人がけ席の通路側に立ち「失礼します、こちらに座らせていただいてよろしいでしょうか」と話しかけてきたのである。

心底驚いた。
普通に空いている自由席なのだから普通にそのまま座ればいいのに。それなのにこの女子高生は、真ん中の席が一つ空いているにも関わらず、窓際に座る私に許可を求めてきたのである。

あわわわわ、ももも、もちろんどうぞ。

驚きのあまり思い切り挙動不審に答えた私であった。

なんというか、いまとき、こんな礼儀正しい女子高生がいるとは。これは奇跡である。おじさんはとにかく驚いたのだ。
そして普段の私自身の立ち振舞いを振り返り、この女子高生の足元にも及ばないなあと反省した次第である。

新幹線は約1時間後、次の名古屋駅のホームに滑り込んだ。
するとこの女子高生はすっくと立ち上がり、再び私に向かって「失礼しました、ありがとうございました」と深々と礼をして、そして立ち去ったのである。私も再び、あわわわわ、お、お疲れさまでしたと間の抜けた挨拶を返したのだった。

名古屋のいいところのお嬢様が新幹線に乗って京都のお師匠さんに踊りでも習っているのだろうか。おじさんはそんな妄想をしつつ、夜の新幹線に揺られるのだった。
なお、エクスプレス予約で指定席をちゃんと確保していたはずの私がなぜ自由席に座っていたかについては、あまりにも情けない事情のため、書きたくない。(2022.11.07)

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