邪教・さらシベ
「ボクはアーティストなんだ」とイキがって「リぃぃぃー」とか叫んでいた頃から打って変わり、郷ひろみが「そうか、オレは大衆のおもちゃでいいんだ」と気づいたのは「あーちち、あーちち」と歌ったときだそうだ。
それはそれでなかなかに好感の持てるエピソードではあるのだが、だからといって「じゃんけんぽん」はないだろう。やりすぎだ。置きに行って、思い切り外した感がハンパない。
そんなことを言いながらNHKの「うたコン」を観る。次は誰だ。
読売新聞のテレビ欄には「布施は君バラ」とあったから、布施明が「君はバラより美しい」を歌うのは間違いないようだ。ところがこれががっかり。スウィングのへんてこなアレンジにずっこける。
余計なことをしないでもらいたい。普通のアレンジで普通に歌えばいいのだ。それなのに布施明もヘンテコな振り付けをしながらへんてこに歌う。スウィングのアレンジなのに歌がシャッフルしてなくてズレてるし、何よりも音程が外れている。途中、一度、歌詞が飛んでしまったし。布施明も遂に衰えたか。
続けて狩人が「あずさ2号」を昔のアレンジで昔の通りに歌う。いいんだよ、こういうので。歌番組は。こういうのが聴きたいんだよ、大衆は。思い切り振り切ったヅラを笑いつつも、つい一緒に「はーちじちょおっどっのおー」を口ずさんでしまった。
ところがその後、すべてを破壊するハルマゲドンがやって来たのである。
「さらばシベリア鉄道」だ。
大滝詠一の名曲をカバーするのは、名前も聞いたことのないお姉さん。そのボーカルが酷くて、ピッチは外れるわ、意味もなく絶叫するわ。これは朗々と歌い上げちゃだめな曲だろう。歌の世界観が台無しである。
いや、最大のハルマゲドンはそこではない。バックダンサーたちだ。全身黒ずくめの異様な風体をしたダンサー2人が、これまた異様で奇っ怪な舞いを見せるのである。
列車の歌だからというので、両手をロコモーションでぐるぐる回転させるのだ。汽車ぽっぽである。
そうか、機関車だから真っ黒なのか、ポン、と膝を打つオレ。
その破壊力は凄まじく、娘は呆然と口を開けて「ひどい…」と一言。儀式か、これは。邪教の。放送事故だろう、これ。
なお、これは太田裕美の「シベ鉄」のカバーということになっているが、オリジナルは大滝詠一。とにかくギターワークが見事で、間奏は「ツンドラのように」という大滝詠一のリクエストに応えて鈴木茂が創り出した奇跡の名演奏である。このオリジナルを聴いた太田裕美が「あら、よくできたデモテープね」とにっこりつぶやいたというのは有名なエピソードだ。
そんな記憶も消し飛ぶほどの衝撃の汽車ぽっぽダンサーズであった。
あまりの衝撃に我が家では黙ってテレビを消し、そしてTVerで「イッテQ!」を観ることにしたのである。
「イッテQ!」はいうまでもなく日曜の夜の番組である。だが先日は見逃してしまったので、火曜日の今夜、観ることになった。TVerは大変に便利である。録画しなくていいし、CMもほんのちょっとだ。
今では「最初に観るチャンネル」「TVerさえあればテレビはいらない」といわれており、カニバリズムの最たるケーススタディである。
今週の「イッテQ!」は、お待たせの出川哲朗と河北麻友子の英語おつかいだ。相変わらず出川哲朗のコミュニケーション力は凄まじく、汽車ぽっぽとは別の意味での破壊力である。もはや次元が違う。
オレたちは腹を抱えて大笑いして、そして、よーし今週もがんばろう、いやいや今週はもう始まってるよというお約束のボケをかますのだった。(2022.10.11)