気軽に提供価値って言うけどさ。
こんにちは。NTTデータのデザイナー集団「Tangity」のKonominです。
サービスデザインを行う中で「提供価値」や「カスタマーバリュー」という言葉を頻繁に耳にしますが、みなさんは提供価値について深く考えたことはありますか?
私自身、サービス検討支援やワークショップのファシリテーションの中で、
「顧客提供価値を定義しましょう!」
なんて伝えているのですが、提供価値を感覚的に捉え、しっかりと考えてきませんでした。そして、アイデアシートやビジネスモデルキャンバスに記載された提供価値を見て、
「表面的な内容…これはほんとに提供価値…?」
「同じ課題を見ているのに出てくる提供価値が全然違うのは、その人の視座の高さの違いで、どうしようもないのか…?」
と長いことモヤモヤを抱えていました。
「提供価値」は「入口価値」「熱狂価値」「本質価値」の3つに分類される
そんな中、そのモヤモヤがちょっとすっきりする考え方に出会ったのでご紹介します。
まず、提供価値には顧客に「見える部分」と「見えない部分」があり、さらに以下の3つに分類されます。
【見える価値】
・入口価値
わかりやすい表面的な価値。多くの人がいいね、と言ってくれるけど、そこにお金を払ってはくれない。
・熱狂価値
人をすぐさま引き付ける価値。お金を払ってでも得たい、とある程度の人が言ってくれる。
【見えない価値】
・本質価値
体験しないとわからない深層的な価値。使ってくれた人が素晴らしい、感動したと言ってくれ、継続的に使ってくれる理由になる。
上記画像のairbnbの例で言うと、「入口価値」はわかりやすく、安く宿に泊まれる、です。ただ、それだけだとビジネスホテルやカプセルホテルもあり、airbnbを選ぶ動機としては弱い。
「熱狂価値」である多種多様な部屋は、ビジネスホテルや他の宿泊施設にはない個性的な部屋に泊まれたり、その地域の文化に触れる機会を提供してくれます。他にはないサービスの魅力的な部分です。
サービスの軸となる「本質価値」は、行き先でマブダチができる、です。部屋の貸主(ホスト)をはじめ、普通の旅行では関わらないような相手とコミュニケーションを取ることで仲良くなり、今度はその人に会いに行くようになる、といった具合です。
この考え方を知ってからは、色々な粒度の提供価値が出てきても、
「これは入口価値の話をしているから、もう一歩踏み込んで熱狂価値を
掘り下げてみよう。」
「このサービスの本質価値は何だろうか?」
と提供価値を分類しながら、俯瞰した視点で検討を進められるようになりました。
サービスの継続に繋がる「本質価値」と伝えるための「熱狂価値」
ここで、サービスの「本質価値」さえ捉えられれば、他の提供価値は考えなくて良いのでは?と思う方もいるかもしれませんが、それぞれの提供価値は用途が違います。
airbnbの例で言うと「行き先でマブダチができること」は「本質価値」ですが、「行き先でマブダチができる宿泊マッチングサービスできました!」と言われても、ちょっと良くわからないですよね。
「本質価値」は重要ですが、訴求しても多くの人は実感できません。
訴求するためには「熱狂価値」を捉える必要があります。
作り手が考える「提供価値」とユーザーが受け取る「提供価値」
私がこの3つの価値の考え方について知ったのは、今から2年くらい前。
それを今更記事にしようと思ったのは、数日前にショッピングモールでahamoの勧誘を受けた際に思うことがあったからです。
ahamoのサービス提供にあたって、弊社もパートナーの立場としてサポートをしており、たまたまプロジェクトに携わった方から話を聞く機会がありました。そこでは、ユーザーに価値を提供するために、プロジェクトメンバー全員で顧客像を理解し、ahamoが目指す世界観を徹底的に話し合った上で、一貫した顧客体験を作り上げていった話を伺いました。
一方、ahamo勧誘のお兄さんは、もちろんサービスの安定性や価格の優位性について説明はしてくれるものの、最も推してきたポイントが「今ならキャンペーンで2万円分の商品券が貰える!」という点。
さらに「とりあえず変えてみて、サービスに不満があったら、商品券を貰った後に今のキャリアに戻せばいい。というか、代理店界隈の人間はキャンペーンごとにキャリアを渡り歩いてお得に稼いでいるし、自分もそうしている。」と伝えてきました。
勧誘のお兄さん的には親切心からの情報提供だったのかもしれないですが、作り手の想いを事前に聞いていたせいか、(この人は仮にも勧める側なのに、サービス自体に興味はなく、表面的な利益しか見ていない…)と瞬間的に腹立たしく、同時に、サービスを考える側の人間として悲しく思ってしまいました。
後から冷静になって、作り手が意図した価値を直接ユーザーに伝えることはないし、サービスにかける想いだって伝わらものだよなぁ、と思い直したのですが、この出来事をきっかけに、3つの提供価値について再び考えたのでした。
おまけ
この記事を読んで、
「伝わらないなら、ユーザー像を設定することや提供価値を考えることは作り手側の独りよがりで意味がないことなのでは?」
という印象を与えたかもしれませんが、決してそんな事はありません。
ahamoを例に上げると、ahamoはシンプルに「20GBで月々2970円、5分通話無料」または「100GBで月々4950円、5分通話無料」という2つの料金プランしかありません。
従来のモバイル通信のサービスは、家族で使うことを前提に、幅広い年齢層の多様なニーズに答えるための、複数の料金プランやオプションを提供しています。しかし、それが複雑化しすぎて、ユーザー自身で必要な料金プランや適切なオプションを選ぶのが難しい、という状況にもなっています。
この状況に対してahamoは、これから社会に進出していく単身の若手世代(Z世代)に焦点を当て、徹底的なリサーチを実施した上で、情報を「隠さない・迷わせない・押し付けない」というコンセプトを立案。
Z世代が頻度高く使う機能(通信容量やテザリング機能、海外ローミング等)は惜しみなく提供するものの、Z世代が使わない機能(キャリアメール等)は割り切って提供しないという判断をし、極限までシンプルな機能提供と料金プランを実現しました。
そして、シンプルさを極めたサービスは、Z世代だけでなく30代のDINKSにも刺さり、サービスはスケールしていきました。
ahamoの成功は、ユーザー像の設定や必要な提供価値をしっかりと定義したからこそ得られたと考えられます。ユーザー像や提供価値が曖昧だと、従来通り機能を増やす方に思考が行きがちですが、作り手の中で明確な軸があったからこそ、サービスを尖らせることができ、なおかつ、それがユーザーに刺さったのではないでしょうか。
…と、これを書きながら、私はそもそもahamoのターゲットユーザー層ではないことに気がついてしまいました。
もしかしたら、ahamo勧誘のお兄さんは、最初は「入口価値」を説明したものの、私が全然ピンと来ていない=刺さらない様子を見て、表面的ではあるものの、お得さをアピールする方針に転換したのかもしれません…。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
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