400字の部屋 ♯11 「珈琲 5」

 窓から入り込んだ陽射しが室内を黄金色に染め、机上に置かれた珈琲から立ち昇る湯気の形を明瞭にしている。白い湯気は珈琲の表面から勢い良く沸き立つと直ぐに見えなくなる。西原は山の噴火を想像した。噴き出されたマグマは周囲の地形を溶岩で満たし生物の生命活動を高熱の中に溶かし込んでしまうが、目の前の白い湯気も周りの物に、机上には珈琲の他に読掛けの推理小説と豆菓子と靴のデザイン画がある位だが、目には視えないが纏わり付いているのだろうか。そんな事を思うが、マグマと湯気では液体と気体の違いのみならずそもそも構成元素が異なるのだから、てゆうか只の湯気だし、その想像が現実に投影される事は無い。
 だが、こんな風に想像と現実の間で思考を往復させるのは嫌いではなかった。小皿の上の黒い豆菓子を一つ摘んで口に含み、湯気の立つ珈琲を一口飲むと、豆菓子の甘みが珈琲の酸味で一層引き立った。西原は靴のデザインに取組み始めた。

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