Mr.tang

初めまして、Mr.tangと申します。スキマ時間にサクッと読めるミニ小説&書評を書いてみようと思い、アカウントを開設しました。出来るだけ、更新していこうと思ってますので、よかったら覗いてみて下さい。

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最近の記事

400字の部屋 ♯22 「富 3」

「ご職業は?」 「庭師です」 「庭師のお仕事について教えて下さい」 「庭師は植木の剪定が仕事です。依頼主の庭、偶に別の場所の場合もあるのですが、大体は庭の樹木を剪定します。ピークは秋で九月から三ヶ月位はほぼ毎日木を切っています。私のような個人での請負いは、依頼主との信頼関係を保つのが重要ですので、この間は人の十倍仕事をしている自負があります。孫さんより仕事しています(笑)」 「孫さんよりも(笑)。個人で活動されるようになったのはいつ頃からですか?」 「訓練学校を卒業した後、学

    • 400字の部屋 ♯21 「富 2」

       激しい雷雨の後に吹いた風が夏の熱気を幾分吹き払った頃、砂倉は今日の分の原稿を書き上げ、珈琲を啜った。珈琲は冷めていたが旨かった。飲み乍らモニターに浮かぶ原稿を確認し終え、カップを持ってベランダに出た。闇の中、庭の樹々が風で戦ぎ、虫の音が響いている。息を吸って、吐いた。何度か繰り返し、砂倉は室内を振り返った。十畳一間の書斎。窓側以外の壁に設置された本棚には隙間無く本が収められている。砂倉は考える。富者とは、自分で描いた生き方を実現出来る者の事なのだろう。自分は書斎を構えて作家

      • 400字の部屋 ♯20 「富 1」

         配達人から受取った小振りの箱をカッターで丁寧に開けると、ダークグレーの緩衝材の中心が少し窪んでいて、そこに一枚の黒いカードが収まっていた。ブラックカード。込み上がる感動に任せて「よっしゃあぁ!」と叫んで躰を激しく揺さぶり、Penyはジッと漆黒のカードを眺めた。カードの真ん中に兜を被ったヘラクレスの肖像が描かれていて、下の方にゴシック大文字で「PENY TOMITA」と名前が刻印されている。遠目近目でジッと見詰める。クレジットカードの頂点。TVや雑誌で図抜けた富豪や著名人がこ

        • 400字の部屋 ♯19 「水 6」

           久方振りに帰郷したPadは縁側でお袋の作った塩を軽くまぶしたおにぎりとバターで焼いた卵焼きを食べていた。外はかなり暑いが、縁側は上の庇で影になっていて、また居間から扇風機の風が来るので寧ろ冷んやりとしていて、音を立てた扇風機の風が皮膚を撫でる感じが子供の頃から好きだった。庭の土は親父が水を撒いたらしいが、すっかり乾いていて陽炎が出ている。放飼いにしている軍鶏が西の楠木の木陰から動かず、時折甲高く鳴いているが、鳴声は揺らめく陽炎に呑み込まれてしまうかのように、余韻を残さず消え

          400字の部屋 ♯18 「水 5」

           「気は風に乗ずれば散じ、水に界てられれば即ち止まる」運転席のWatが呟いた。Watは場に関係無い事を突然云う癖がある事を、6年間の結婚生活で咲子は知っていた。危ない兆候だ。この癖が出た時、Watは何も考えていない。本当に。波止場に屯する猫達が好き勝手動くのと同じで、ただ本能で云っただけだ。そこに脳の活動は無い。この時の車は正に走る凶器となり、実際過去に人身では無いが車を塀や街路樹に当てて無駄にマイカーを破損していた。本人は自覚していない。病気では無く癖なのだ。そして、統計上

          400字の部屋 ♯18 「水 5」

          400字の世界 ♯17 「水 4」

           館内の中央に設置された高さ10m以上の巨大な円柱状の水槽の中は人の手の及ばない海中の世界がそのまま在り、奥の方から超水圧で悶えるように身を捩り乍らゆっくりと顕れたホオジロザメを見て、Orcaは躰の芯から興奮した。サメは水中を、静かだが濃密なエネルギーで泳いでいて、戦慄するようなエロティックを発散していた。アノマロカリスからダンクルオステウス、メガロドンへと受継がれて来た捕食者の本能は滅する事無く、目の前の王者に確実に受継がれている。Orcaは分厚い強化ガラス一枚向こうの海

          400字の世界 ♯17 「水 4」

          400字の部屋 ♯16 「水 3」

           Eraが風呂に入っている間に食器洗いを済ませようと洗剤の付いたスポンジに水道水を含ませて先程食べた生姜焼きのタレが付いた皿を手に取り洗い始める。流れ出る水は、ついこの間まで冷たく、手を休め乍ら洗い物をしていたが、桜の花が散ってからは気温も上がり、何ならずっと手を水に浸していたい気分であるので、洗い物は頗る早く食器の汚れはテンポよく洗剤で分解されて水で流されて行く。この時季は洗い物が気持ち良く出来る。水は汚れをキレイに取り除いてくれる。水は偉大だ。だが、恐ろしくもある。絶え間

          400字の部屋 ♯16 「水 3」

          400字の部屋 ♯15 「水 2」

           起き抜けにブログを1本書き、腹が減ったので近所のスーパーで夕べ買っておいたインスタントラーメンを作ろうと、鍋に水を注ぎ、IHの温度を強にして数分待っていると、鍋の中の水が底の方からゆっくりと振動を始めて、ポツポツと泡が浮かんできた。冷たい水が熱湯に変わる過程では、最初の泡が沸くまでに束の間の静寂があるが、それは津波の前の静けさのようで陽一はあまり好きではなかったので、少しでも早く沸騰させようといつも温度を強にする。小さな泡は直ぐに水の表面で大きく破裂し始め、無数の泡の生成と

          400字の部屋 ♯15 「水 2」

          400字の部屋 ♯14 「水 1」

           ハワイ島ヒロ。ダウンタウンのドミトリーに先月から滞在しているAfloは、早朝のランニングを日課にしている。コースは気ままで、今日は「虹がかかる滝」と呼ばれるレインボーフォールズまでの往復にしようと走る。不純物の無い朝日の中のランニングは最高で、じんわりと汗をかいた頃に虹の滝に着くと、その名の通り、滝から舞い上がる水飛沫が朝日を反射して、滝を囲むように七色の虹が顕れていた。Afloは足を止めて、美しい滝と虹を眺め、深く深呼吸をした。水飛沫の清涼な匂いと、周囲に無数にある巨大な

          400字の部屋 ♯14 「水 1」

          400字の部屋 ♯13 「太陽 1」

           無限と云える重さを持つ太陽が未来永劫データ化不可能な莫大なエネルギーを宇宙空間に放出し、その無尽の力のほんの僅かな幽けき量が我我の大地と大海に降り注がれて、植物が光合成により光のエネルギーを生命体の生存に必要な酸素に変換する事で我我はこの地上で生かされている。  凡ての源は天涯の太陽。  力とは太陽であり、太陽とは力であるというトートロジー。  凡ゆる事象を根底で支えているのは、宙に聳える太陽であり、目に見える太陽は目に見えない力、本当の力、を創っている。可視と不可視の一致

          400字の部屋 ♯13 「太陽 1」

          400字の部屋 ♯12 「珈琲 6」

           近所に出来たcafeは、concreteの壁にgrayを基調とした内装がとてもchic で、真一はここで挽きたてのdrip coffeeを座り心地抜群のsofaに座って店内を眺め乍ら飲むのを何よりの愉しみとしていた。  真一は手元のnoteを広げて、今週の予定を確認する。  木曜日の欄に「〆切」と赤い字で書いてある。  原稿は今日にも書き上がるので、校閲を含めても木曜の〆切には十分間に合うだろう。漸く、カタがつく。今回は最後のtrick解明でそれまでの伏線回収が難儀だったな

          400字の部屋 ♯12 「珈琲 6」

          400字の部屋 ♯11 「珈琲 5」

           窓から入り込んだ陽射しが室内を黄金色に染め、机上に置かれた珈琲から立ち昇る湯気の形を明瞭にしている。白い湯気は珈琲の表面から勢い良く沸き立つと直ぐに見えなくなる。西原は山の噴火を想像した。噴き出されたマグマは周囲の地形を溶岩で満たし生物の生命活動を高熱の中に溶かし込んでしまうが、目の前の白い湯気も周りの物に、机上には珈琲の他に読掛けの推理小説と豆菓子と靴のデザイン画がある位だが、目には視えないが纏わり付いているのだろうか。そんな事を思うが、マグマと湯気では液体と気体の違いの

          400字の部屋 ♯11 「珈琲 5」

          400字の部屋 ♯10 「珈琲 4」

           数学の講義を受けている間、仏原は締切が迫っているフランス文学のレポートの構想を練っていた。レポート作成に集中したいが、苦手な数学の方も来週がテストなので止む無く出席してみたものの、講師が話す内容が全く頭に入って来ないので、ならばレポートの方を少しでも進めようとノートを広げてみるも、まだ脳が働いていないのか、ただ時間だけが過ぎていった。ヤバイと思い、缶珈琲を一口飲んで再びノートに向き合い、バルザックやゾラといった名前を書くと言葉が繋がり出し、この機を逃すまいと缶珈琲を一気に飲

          400字の部屋 ♯10 「珈琲 4」

          400字の部屋 ♯9 「珈琲 3」

           1年振りに訪れた香港。太平山から眺める九龍島の景観は大陸の悠久なる時間が龍脈を伝って香港の地に流れ来たまま留まっているかのように何一つ変わってなく、屋台で買った珈琲を飲み乍ら山を下りトラムに乗って中心街の中環に行き街中をブラブラしている内に奇妙な違和感が徐徐に体内に積っていくような感覚になっている事に気付き、足を止めて街中を見回すが蓄積された違和感が己の内部をかなりの割合で占めている事を自覚して、倉橋は「うおっ」と声を上げた。道行く香港人達が歩道の真ん中で立ち尽くしている倉

          400字の部屋 ♯9 「珈琲 3」

          400字の部屋 ♯8 「珈琲 2」

           新橋で事務員として働いていたE・Crisは、コツコツ勉強していたプログラム言語を本格的に身に付けたいと思い、仕事を辞め、独学で8つの言語を半年でマスターし、クラウドで簡単なサイト作成の案件を請け負って以来、フリーのプログラマーとして活動を始めた。最初はクラウドの案件で手一杯だったが、スキルが上がり、案件を早くこなせるようになると時間が浮き始めたので、自分のサイトを立ち上げ、サイトからの受注も始めた。現在、クラウドとサイトからの受注比率は約8:2。先の事を思うと、サイト受注を

          400字の部屋 ♯8 「珈琲 2」

          400字の部屋 ♯7 「珈琲 1」

           L・カルロスの朝は早い。三月に入ると春の気配が近づいてきているが、L・カルロスが目覚める時間は、まだ世界は闇に包まれている。  L・カルロスは、ほんの少しお湯を沸かし始め、その後に戦士が己の武器を丁寧に磨くように、ゆっくりと、意志をもって珈琲豆を挽く。豆を挽き終る頃には、お湯が沸いているので、挽いた豆をドリッパーに落とし、細口のドリップポットのお湯を、ゆっくりと回し乍ら挽豆に注いでいく。お湯を含んだ挽豆が僅かにふっくらしたのを確認して、L・カルロスは残りのお湯を先と同じくゆ

          400字の部屋 ♯7 「珈琲 1」