小学校~それは小さな社会~atイオンシネマ2025.1.29
先日、いま話題の映画「小学校~それは小さな社会~」を観に行ってきました。事前情報として、監督の山崎エマさんは、大阪の公立小学校を6年間通い、その後インターナショナルスクール、アメリカの大学へ進学。アメリカの同僚から「どうしてそんなちゃんとしているの?」と言われたことをきっかけに、日本の小学校を題材にするというアイディアを温めてきたそうです。
この映画は、世田谷の塚戸小学校の1年間を記録したドキュメンタリー映画です。ナレーションはなし。もちろん完全ノンフィクション。主に1年生と6年生に密着しています。監督の話では、撮影隊がいるのが当たり前という状況をつくりだすことに心を砕いていたそうです。1年生にとってみると、入学式前から入り込んでいる撮影隊は、まさに当たり前の存在だったと思います。学校のリアルが観れる貴重な映画でした。時期がちょうどコロナの流行期で、この時期の学校の窮屈な実態も記録しています。
感想
この映画のリリースに合わせ、様々な評論がされていました。特に、監督の思いである「日本の学校のすばらしさを再認識してほしい」に対して、「規律重視教育」、「管理型教育」、「行き過ぎた礼儀指導」、「同調圧力」等の肯定ととらえた方々からの批判の声が上がりました。もちろん、実際にそのような場面が多々あり、眉をひそめることもありました。しかし、映画の序盤で國學院大學の杉田洋教授(特活の第一人者)の「日本の規律を大切にした教育は、諸刃の剣です。そのことをよくよく理解して教育に当たってください。」(不正確ですが・・・)と先生方に語る場面が効いたのか、私自身はそこまで印象に残りませんでした。むしろ、先生方の熱い思いや苦悩、喜びなどの姿に心をわし掴みにされました。特に、ベテランの1年生担任の先生のきめ細やかな児童との関りには感動しました。オーディションを経て楽器演奏の役を勝ち取った女の子が、音楽の先生に練習不足を指摘され、演奏ができなくなってしまった場面。演奏に復帰して、また失敗したら怒られてしまうという不安に共感し寄り添いながらも、温かく励まし背中を押す姿勢や言葉のチョイス、声の大きさ、タイミング、表情、しぐさ・・・違和感のないやり取りに、引き込まれました。演奏後の女の子の表情と、迎える先生とのやり取りも素晴らしいものでした。他にも、このようなシーンがたくさんあり、後半はある意味マヒ状態になっていました。また、6年生担任の坊主の若手の先生も印象的でした。朝6時前に出勤し、教室を整え、情熱的にこども達と正面から向き合う。でも、どこか空回りしている。こども達からすると、怖いけどたまに面白いことをして笑わせる先生。彼の卒業式後の話が印象的でした。「何度ももうだめかもと思った。乗り越えることができたのは、仲間の先生方の支えがあったから」。教員は、体力的にも精神的にも大変な仕事です。特に、若手の経験の浅い先生ほど。この映画では、学校の美しい姿だけではなく、このような先生方の弱さやこども達の本音が垣間見えました。
上映後、監督の山崎エマさんのトーク&質問タイムがありました。トークで印象的だったのが、「この映画は、当たり前の日本の小学校を扱った映画なので、いきなり日本の人たちに観てもらっても??だと思った。なので、まず外国で公開し、その反響を見て日本で公開しようと思った。外国の反響は予想以上の大きかった。特に教育大国フィンランドでの反響が大きかった。この映画を観て、日本の教育のすばらしさを感じてもらいたい。でも、日本の教育にも課題はある。不登校の問題や発達障害への対応の問題、授業の問題、格差の問題があるのは私もわかっている。今回の映画では、それらを意図して表現しなかったわけではない。不登校や特別支援学級の姿もあったが、単純に映画に使える映像が揃わなかった。」。質問タイムでは、主にこんなやり取りが。「続編は?→考えていない」、「自分のこどもはどんな学校に通わせたいか?→日本の公立小学校」、「フィンランドで反響が大きかったとのことだが、この映画のどのような部分がフィンランドの人々に刺さったのか?→先生方とこども達との距離の近さだと思う。外国の学校はこどもと先生の間に距離がある気がする。それが新鮮だったのではないか?また、フィンランドも今教育改革がさけばれている。日本の先生方の距離の近さにヒントを得ていると思う」、「日本の学校を開かれたものにするには何が必要?→今回密着して感じたのは、先生方がリスク管理に大きなエネルギーを割いているということ。これが、教育を固くさせているし、学校を閉ざしてしまっていると思う。先生方をリスクから解放してあげてほしい」。一部ですがこんな感じでした。
私自身も、この映画を観て、改めて日本の小学校の素晴らしさを感じました。先生方の思いや温かさ、教育が暮らしとしっかりリンクしているところ、充実した設備、洗練されたカリキュラム、全国でほぼ同水準の教育が受けられる・・・。同時に、授業の問題、人権意識の問題、多様な特性への対応の問題、山積している課題との向き合う姿勢や議論の不足、若手の先生とベテランの先生をつなぐことの難しさなどの問題をどう解決していくのか道筋が見えていない現状に、改めて危機感を覚えました。地域間の格差、家庭間の格差、個人間の格差なども気になります。日本の学校の素晴らしさを残しつつ、直面する問題をどのように解決していくのか?一市民として考えていきたいと思います。