祈り。
馬鹿みたいだけど、大ボリュームで君の名前を呼んだら振り返ってくれるような気がしたんだ。
「ねえ」と話しかければ、「なに?」と優しい目で問いかけるそんな君が好きだった。
わたしは君に恋をしていた。
そして、きっと君もわたしに恋をしていた。
馬鹿みたいだね。
そんなの永遠に続くはずなんてないのに。
君から、いつからか「仕事で遅くなる」という連絡が頻繁に届くようになった。
君から、いつからか甘いタバコの匂いがするようになった。
君から、いつからか温かい眼差しを送られることはなくなった。
もう、いい加減気づけばいいのにね。
いや、もうとっくの昔に気づいてた。
他に好きな人ができたんだね。
わたしにとっては、それが君の運命の人なのか分からない。
けれど、君にとっての運命の人は少なくともわたしではなかったんだね。
わたしが勝手に舞い上がって、運命の出会いだったって、運命の人だって、舞い上がっていただけだったんだね。
ひとつだけ、女々しいことを言うよ。
最後の最後に。
わたし、君と出会ったあの海辺で君の名前を呼ぶよ。
君とわたしが旅先で初めて出会ったあの砂浜。
それが、最後のチャンスだからね。
わたしは愛おしい君の名前を身体から出る最大限の声でフルネームで叫ぶ。
そしたら、もしかしたら、君がまたわたしをあの優しい眼差しで見つめ返してくれる気がしたんだ。
馬鹿みたいだけど、大ボリュームで君の名前を呼んだら振り返ってくれるような気がしたんだ。
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