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ちょっと!お父さん!!⑦
父は晩年不整脈を患っていた。
何度か死にかけたらしく、ペースメーカーを入れる手術を受けた。
術後父はまるで生き帰ったかのような元気を取り戻した。
手術後一ヶ月くらい経った時、夏休みに家族で旅行に出かけることになった。
父旅赤面記❷
姉が計画してくれた旅行で、家族4人と姉の夫、甥っ子(3歳)を含めた6人で行く事になった。
一度このメンバーで旅行したのだが、父のいびきと寝っ屁のアンサンブルがうるさすぎて父以外全く眠れなかった。
みんなの睡眠を奪った当の本人は、「よう寝れたわ〜!!」と清々しい朝を迎えていたのを覚えている。
それがトラウマだと姉に伝えると、賢者の姉はこう言った。
「大丈夫。お父さんだけ別部屋とってある。」
なんと。
家族旅行で父だけ別部屋。
何という除け者VIP待遇。
ほっとした私は、それならと家族旅行へ行く事にした。
行き先は日本海側のそれはそれは綺麗な海🏖
ペースメーカーの手術をしたばかりの父は、主治医に海に行ってもいいかと聞き、あまり激しく泳がなければ問題ないと言われたらしい。
海岸沿いの駐車場に車を止め、
クーラーボックスやらパラソルやら大荷物を運ぶ。
3歳の甥っ子から目が離せないのでてんやわんやする中、
車を1番に降りた父は術後間もないとはいえ、軽い荷物を運ぶ事もなくとっとと行ってしまった。
あのクソジジイ、、、と私たち姉妹はぼやきながら大荷物を持って父の後を追うと
父は最初に見つけた売店でアイスクリームを買い、
一人美味しそうに食べていた。
長距離運転お疲れ様会をたった一人で開催している。
孫にもアイスを買ってやるわけでもなく。
孫の相手になるわけでもなく。
ちょっと!お父さん!!とはこういう事である。
私も姉もムカついていた。
父はせっかちである。
無人島に向かう船にも、荷物を持たない身軽な父は一人で、さっさと乗船して、大きな声でココや!ココや!!と手を振っていた。
荷物を運ぶ私たちからすると、そんなに急いで乗られて場所取りされてしまっては、他に待っている人たちに申し訳ない。
大急ぎで謝りながら乗り込まなくてはならない。
そのまま船に一人乗せて、私たちは別の場所に行ってしまおうかという思いすら頭によぎった。
(どうか、島流しの刑に、、、。)
帰りも全く同じ事をされて、本当に迷惑だった。
その日は民宿に泊まった。
姉の言っていた通り、
父は一人部屋。残りの5人は同室だった。
少し冷たい様に思われるかもしれないが、父にはノーダメージ。むしろハッピー。
少しは寂しがるかと思ったが、
「一人でこんな広い部屋ええのか?!天国やのぅ!!」
と喜び、好きなテレビ番組を大音量で見ながらいつの間にか大いびきをかきながら眠っていた。
そして、今回は私たちもぐっすり眠る事ができた。
姉の仕事はいつも華麗である。
翌日、父は海でもはしゃいでいた。
甥っ子には小さい子供用の足を通すタイプの浮き輪を持っていった。
何を思ったか父は甥っ子が別の遊びをしている隙にその子供用の浮き輪に足を通そうとしていた。
「いや、お父さん。それは無理やろ!!」
と注意を促すが、
「お父さん病気でちょっと痩せたで大丈夫や!!」
と言って
本気でソレに乗ろうとし、悪戦苦闘の末、足首だけ通った状態で転覆した。
足首が引っかかっているので地面に足がつけなくてバシャバシャ水飛沫をあげている。
それもそうだろう、どう考えても乗れて4.5歳までが限界なハズだ。
やっぱりな。と心の中で思いながらしばらく見物したが、
あれは紛れもなく溺れていた。
浅瀬だったので大事にいたらず、その後も元気にはしゃいでいた。術後にはヘビーな溺れっぷりだった。
他にも3歳児と同じような事ばかりしようとするので、持って行ったビーチボールも父のせいで波にさらわれてしまい、愛する孫に怒られていたのを、おぼえている。
帰り道、水産物がたくさん売っているお土産屋さんで昼食をとった。
みんな丼ものなどささっと食べられるものを食べていたのだが、父は帆立やら海老などの浜焼きを注文していた。
私たちが食べ終わっても父の浜焼きはなかなかやきあがらなかった。
食べ終わった家族は全員お土産を見に行くと席を立った。甥っ子もまだ小さいのでじっと待っていられない。
私は父が食べ終わるのを待つつもりだった。
大人しく待っていれば良いものを、
せっかちな父は痺れを切らして席を立ち、
店員さんが焼いている方へ行き指をさしながら、
コレはどうや!?もう食べれるんとちゃうか?!
あかんのか、、、(違う人が注文した物だった)
ほならコッチはどうや!?などとウザい客になっていたので、恥ずかしすぎて私も席を立ちお土産屋さんにむかった。
私たち姉妹は決して冷たい人間では無い。
どちらかと言うと愛のある人間だと思う。
だけど、父はそんな私たちにも手に負えないくせ者である事に違いない。
父との旅行はこの旅行が最後になった。
とても楽しい良い思い出だ。