Horse of born の行方
にぎやかなカニの食事会には、絶妙に外は雨だった。みんなは飽きが来るのを待つように次々とカニの身をたいらあげながら、依然と静まり切ったていた。しばらくして教授が、波平くん、ジブリパークにはもう行ったのか?と、たずねると、突然、波平は宇宙服を脱ぎ出し、カバンから折りたたみ傘を取り出して、立ち上がった。何をするのだろうと思ったが、とじたままの折り畳み傘の取っ手の先に付いているひもを、手でつかんだ波平はそれヌンチャクのごとく振りまわしはじめた。教授と他の学生はは一瞬、言葉を失ってしまい、私はやはり、オリタタミをヌンチャクに変えるほどの変狂人だったのかと思ったが、廊下で女性の運び人が何者かに狙われているのが見えた。それを見かねて波平はオリタタミをヌンチャクという武器に変えてしまう天才だったのか、と切り替わったのだ。ほかの学生と教授も、運び人の悲鳴を聞くと、のん気にカニを食べているヒマじゃないと思って席を立って、波平の高速でヌンチャクを振り回す姿と、廊下で人をおそう何者かを、戸惑いつつ交互に見ていた。何者かは、ナイフをおはこびに当て、大人しくしろ、さもないとこの野郎を切り裂くぞ、と酒気帯びだ声で叫んだ。運び人はよく見ると、メイド喫茶で出会ったメイドに似たような顔ではないか。そんなことも気にもとめずに、運び人をおそう何者かに波平は近づき、どういうカンフー映画を見せられているのか、というくらいに格闘を繰り広げるから、もはやどちらが変狂人なのか分からない。すると、教授はあわてたように、カニ攻撃だ!っと叫び、食べ切ったカニの胴体の殻を何者かに投げ付けた。すると、みんなも同じくして、カニ攻撃だ!と叫び、何者かに当ててやった。すると何者かの権威は弱まったみたいだった。何者かはいったい何者なのか。波平のヌンチャクから、何者かのコスプレの面を剥ぎ取ろうとしていた。何者とは何者なのか?にぎやかなカニの食事会を、揺るがすように突如現れた謎の珍客の正体が、ついに明らかとなった。
が、その正体を見ても、今まで出会ったことのない顔だった。私はこの顔を、1日の10分から20分の間を往来する、駅までの道から、駅からの電車で、すれ違ってきた人々の顔を重ね合わせてすらも、それは全く一致しない顔立ちをした、馬の骨であったからだ。教授も後輩もいけだも、知らない風だった。消去法でいくなら波平しか知らないはずだ。いや、波平までも知らなかったようだ。誰なんだよ?なにしに来た?どうなさいました?と、周りから口うるさくせめられても、馬の耳に念仏だった。そいつは正体不明のまま、人質に取られたて疲れたようすのメイドに謝って、その場を芝居の裏方のように中腰になって逃げて行った。それにつづいて、高身長の波平も、クラウチングスターを切った走力で、中腰の姿勢のまま追いかけて行った。
床には、置き忘れたオリタタミが落ちたままであった。それを拾いあげたのは、意外にも教授だった。すると教授は、二人のゆくえを追うように、そのヌンチャクを振りましながら突っ走って店から出て行った。
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