青山真治クロニクルズ展レポート(1)
〔青山真治という発見 ―「EUREKA ユリイカ」から分かること―〕
2年ほど前、配信で「東京公園」を見てから、嫌うことのできない磁力のようなのものを感じた。故・三浦春馬演じる写真が趣味の大学生のまわりで巻き起こるただのドラマなのだが、その落ち着いたストーリーや画面から伝わる静寂さに好感が持てた。それからしばらくして、青山真治の訃報を知ることになり、数々の俳優や作家たちが彼を偲んでいたのを覚えている。各地の映画館で彼の追悼上映が行われ、それを機縁に観た「EUREKA ユリイカ」は、その作品自体に抗うことのできない強い磁力を感じ、彼の作風全体を知る体験となった。上映後に彼の関係者によるトークショーの感動も、作品の延長線上にあるものとして残っている。
2000年公開の「EUREKA ユリイカ」(以下「ユリイカ」)は、当時無名だった彼の名が世界に広まるきっかけとなる作品であったと、そのトークショーでは知った。少ない台詞、映像から漂う不穏な空気、乾いた暴力などは北野映画でも共通して言えることだが、「ユリイカ」はどこか別世界へ連れていかれるような心地にいざなう。既に観た方ならお分かりだと思うが、その別世界とは作品の後半で印象的なあのバスの旅路の時間である。青山真治クロニクルズ展では、そのロケ地マップが展示されており、それが福岡から熊本まで南下していくルートだったと分かる。小説版でこの場面は、ページ数の少ない節で「果てしなき旅」と題されている。現実の旅にはいつも終わりがあるものである。しかし、ここで「果てしなき」と書かれるのは、役所広司演じる主人公・沢井真(さわい・まこと)が、現実から逃れて、果てしなき旅を望んでいたからではないだろうか。それを語るには、まず、この「ユリイカ」の前半を語りたいと思う。
冒頭のバスジャックシーンで、犯人は沢井の名前を聞く場面がある。そこで、沢井は名前の漢字を問われ、「真実の真」と答える。これは、青山真治の「真」でもあり、沢井には青山自身の気持ちが宿っていると感じられた。その後、沢井は例のバスジャックの事件(公開年に起きた西鉄バスジャック事件とは、本作の撮影後に起きているため関係はない)で、生き残った兄妹と再会し、奇妙な同居をはじめるが、それが彼の本当の目的ではなかった。沢井は、あの時の運転手だった自分からやり直し、再びバスに兄妹を乗せて旅に行くことが自然と思い立った。それが、果てしなき旅の意味である。そして、映画ならではの設定でバスが動き出し、カメラが後を追うようにして映るその光景は、役所広司初監督作品・「ガマの油」(2009)にも、オマージュする場面が用いられている。旅の果ては、映画の終着にあり、映画を観た人には沢井真のように、現実から離れた癒しの旅の臨場を味わうことができるのではないだろうか。
以上、「ユリイカ」の考えはここまでとするが、一応この作品は青山真治の北九州サーガで、「Helpless」に次ぐ2作目に位置付けられている。3作目の「サッド・ヴァケイション」は、次回に述べるとして、それには青山真治クロニクルズ展で知ったことも参考にしていきたい。
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