あとがき|彼は私 前編
『前置き』
これを書き出しているのは2022年11月13日の10時。
アーカイブ配信も今晩まで…ということであとがきをそろそろ書き出すか…てな感じです。
今回の公演に御来場頂いたお客様、配信で御覧くださいましたお客様、そしてスタッフの皆様や御協力頂いた皆様。何より膨大な時間と労力を使ってくれて僕の台本についてきてくれた春野恵さんありがとうございました。
はーーーーおわったーーー!!
7月半ばから動き出しまして、何とか無事にここまでやってこれました。SNSで大騒ぎしてお耳というかお目々を汚して申し訳ありませんでした。おかげさまで素敵な公演となりました。
このTOKYO LAUGH STORY『彼は私』のあとがきは前編中編後編に分けようかと思います。マジ?って思ったよね?マジかよっ!て僕も思ってます。
前編は全体構造について。
中編ははいわゆる中身のコントや芝居などの作品について。
後編は僕たなしゅう視点での感想という感じでしょうか。
というのも中々の情報量だったもので、語るに落ちるあとがきになること必死なんですけれども語るに落ちるぐらいでちょうどエエやんとも思ってます。なんかもうそういう内容でしたし、語るに落ちるってそんなに悪くないやんとも思ってるので。
わりと、一筆書きで書くんで変なとことかあると思いますがまぁその辺も楽しんでくれれば幸いです。ちなみに、春野さんにも伝えてない僕視点のあとがきなんでね。そのへんもね。なんかね。
ということで、今回は構造や、演出など大枠について。
ネタバレ必死。
本編観てなければあんまりおもろない。
シェアの低い記事。
どうぞお楽しみ下さい。
彼は私という公演は…
春野恵という女優、グラビアアイドル等マルチに活躍していた人が急にお笑い芸人をすると言い出した…それはなぜなのか?
芸人であり作家のたなしゅうが春野恵を新宿のカフェに呼び出し理由を聞く事から始まった物語。
臼蓋形成不全という病であったことが判明した。
春野恵が自分と向き合い始めた事実を基にたなしゅうが構成したコントと芝居とドキュメンタリーを行き来するような作品です。
『構造及びシステム』
まずは舞台袖に貼って、公演をスムーズに行うための演目簡易表を御覧ください。
✡️彼は私演目簡易表✡️
※たなしゅうは着替え基本なし、基本道具上手に用意
1.怪談オーディション(7分)
道具…なし
衣装…着物(開演時着てる)
2.SM彼女(10分)
道具…亀甲縛り週刊誌(開演時下手仕込み)、キッチンタイマー、風俗嬢のカバン(キッチンタイマー入り)、蝋燭(チョコレート蝋燭)
衣装…パンツルック(開演時着てる)
3.こかんがさ(6分)
道具…手裏剣(コートポケット)、クナイ(コートポケット)
衣装…コート、くノ一(開演時着てる)
4.瓶と紙とペン(8分)
道具…カンペ台本
衣装…パンツルック、メガネ
5.転校生(8分)
道具…なし
衣装…学生服、リボン
6.未棒人(7分)
道具…ガラス棒、風鈴
衣装…エプロン、パンツルック
7.彼は私(8分)
道具…なし
衣装…白衣(たなしゅう)、メンヘラ風制服
たぶん、本番と多少変わってたりはするかと思いますがこんな感じ。
・たなしゅうは着替えなし。
・春野恵はほぼ毎回着替えあり。
と言うことは台本や公演内容が決まる前に決めていました。
それは春野恵という人物の魅力として、やはりビジュアルイメージやそれを作り出す芸は出来る限り使いたい事。逆に僕は普段からあまり道具を使いませんので、出来る限り着替えない事で最後の表題作「彼は私」を少しでも印象を浮かせようと考えました。だから最後だけ白衣を羽織ったわけですね。白衣に関しては「私がナース着てたなしゅうさんが白衣着てるのしたい」と7月に春野さんに言われていた残骸のような形でもあります。
《着替え方とチケット料金と順番》
次に構造として考えたのが「着替え方とチケット料金と順番」でした。春野恵さんと僕は普段の《舞台の価格帯》が違います。厳密にいうと《お笑いライブの単価》と《お芝居の単価》が違うんですね。
お笑いライブは60分公演だと1000円~2500円程度でしょうか。お芝居はもう本当に差がすごくて少なくとも2000~8000円ぐらいの『何でそんなにかかってるんこれ?』みたいなのもあるし『そらこの値段になるわぁ』まで幅!幅!幅!
『彼は私』が何物になるかわからないことは表現としては構わないのですが《適正価格がいくら?》という問いに関しては割と頭を抱えました。安くしすぎるのも高過ぎるのも違うけれど、指標がどれなんだという。結果3000円にしたのは集客数や会場規模を考慮しつつ、何をするにしてもクオリティとして現状我々2人で届くラインだろうということ、お笑いと芝居のどちらでもギリギリそんなものか…というところに落ち着きました。
オンラインオフライン共にグッズを作りたいという春野恵さんの意向、アフタートークでなんとかスタッフ給を捻出しスタッフの仲間にちゃんと「1日アルバイトしたぐらいにはなったなぁ」と思って貰いたくて計算をしてましたね。最終的に『多分これ…配信売れた分がリアルな上積みかもしれません』と良い続けてた通りになりましておかげさまでなんとか次回へ持ち越せる予算を作ることが出来ました、ありがとうございます。
お金の話かよ!と思ったアナタ…
お金の話と作品作りというのはリンクしています。
3000円貰ったうえで「楽しかった!」「きてよかった!」「アーカイブでも楽しかった!」と言って貰いたい闘いが始まりました。
《尺》
『コントや芝居で7くだり作る』ということは当初に決まっておりました。
60分で7本となると単純に《転換を考慮する》と
7分程度の演目が7本→49分
7分程度の作品を軸にしつつショートロングのモノも差し込んで緩急をつける(ベース7分)
が単純に算出されます。
つまり春野恵が着替えに60分-11分使える
ともなります。
果たしてそれ(中身として実質49分)で3000円の価値に届くのか?ということで転換を暗転ではなくブルー転(青い照明をうっすらつけて場面転換するヤツ)にすることに僕が勝手に決めます(49分の公演を60分の公演に無理矢理する裏技)。
『ほんならじゃあ、その転換の間にもう別の演技しとくかぁ』という構成になるのもその辺りからです。
今回のテーマは境界線、、ボーダレス、シームレスになるだろうというのは7月には感じておりました。春野恵さんも僕も活動がジャンルレスというかあやふやではあるものの《個》としての理由はある。
それを表現としてこの作品群にどれだけ盛り込めるかな?のひとつが、転換や作品の継ぎ目をわざと少しわかりにくくすることでした。
《ではその転換で何をするのか?》
春野恵さんに早き着替えをして貰ったのは
『ビジュアルや美しいという価値を足す事』
『ファンサービス的な部分でもあること』
『春野恵が培ってきた芸であること』
そのための転換としての芝居パートを隙間として作った…では何をやるか?
ここで、AパートとBパートという構造を創るかぁと考え始めます。
Aパート(ブルー転換)…語り、独白、フリの役割、紹介のようなもの。
Bパート(全明転)…コント、朗読劇、芝居などの《ハッキリとした演目そのもの》
Aパートの語りで『春野恵とは何物なのか?』と『たなしゅうという存在』を伝え
Bパートは作品郡を披露する。Bパートは春野恵の今までの活動や芸や感情を軸に作成する。
というのはどうだろう?と9月ぐらいに考え出しました。
春野恵のことをたなしゅうが一人芝居で伝える方がエグさも奥行きも増すんじゃない?というアイディアは今回の大きな仕掛けの一つになりました。
その上でABABAB…という綺麗すぎる進行だと退屈なので
『AのようなB』である朗読劇「瓶と紙とペン」や『BのようなA』である「彼は私」を配置して揺らぎを作りました。構成をわざとズラして何を見せられてるかワカラナイテンポを作りたかったんです。
言うと序盤は自己紹介らしきものをたなしゅうが春野恵として、春野恵がたなしゅうとしてエロコントが始まっていきます。3本目の「こかんがさ」前も僕が春野恵として語り出すので
「交互になんか語りがブルー転でやるんやなぁ」と思ったら「瓶と紙とペン」で観ている側からするとグラッとしたかとおもいますしててくれ。
兎に角何を見せられてるかワカラナイ上で最後の彼は私までお客様の興味関心を引っ張るために僕の数少ない《投球術・構成術》を使いまくりました。
なんだかわからないけれどグッーーーとみてしまうかんじ。
序盤はエロコントで進み。語りが入ることで「あーこういうね、エロコント祭りね」で進めつつ《瓶と紙とペン》と《臼蓋形成不全になった話》でグラつく。そこから後半に向かっていく流れ。
着替えの話に少し戻します。
この公演の演目順において《着替えをスムーズに出来る並び》が大事でした。
浴衣や着物は着るのに時間がかかるので一番。転換の仕組みとしてたなしゅうの紹介のために、舞台上で脱がせる(エロいし)、下に着込めるっぽいから引越の彼女のパンツルックら更に下に助平くノ一…と決めて話やコントとしての『トップバッターのコントならこういうのがええやろ』『2本目はライトでかつ笑いやすいもの』『3本目で動きとハッキリエロいものをみせて、朗読、臼蓋形成不全の話へのフリをやんわりはじめる』という思考順になりました。そう衣装先行で演目順を決めて中身を変えたのです。ここは中々苦労しました。
《彼は私全体の大きな見せ場》
この公演の構成において、2つ大きなポイントがあります。
一つ目は「全体の焦点を美桜の一つの台詞に合わせたい」
それは『彼は私↔️たなしゅうが春野恵』として語られてきた物語の最後の語り(Aパート)は春野恵演じる美桜の「イイコでいようというのが私の人生でした。私の言うイイコというのは両親や先生が求めるイイコでした」という語りからです。
兎に角ここに焦点を合わすための構成に集中してました。
・ずっと春野恵役のたなしゅうが語っていたパートを本人がやる。
・最後の最後の演目《彼は私》前にだけブルー転をせずに2分ほどの暗転をしっかりとする。
・一度も使っていないスポットライトにゆっくり美桜が出てくる
・たなしゅうが着替えている
・明らかに他の語りより短く鮮明
言うなればここまでがプロローグで『今から必殺技やるから!』という予告ホームランというか溜めをハッキリさせたかった。
そして、なんやかんやありまして、芝居が進み、照れ隠しのようなコントを必要以上に長めにやり、オチまでいく…。
そしてもう一つ…たなしゅう、春野恵が並んでお客様に『ありがとうございました』を言うくだり
たなしゅう「ありがとうございました」
春野「ありがとうございました」
たなしゅう「改めて自己紹介をさせて下さい。僕は芸人・作家をしています、たなしゅうです、ありがとうございました」
春野恵「私は春野恵a.k. a.―女神インラーンです。職業は(春野のおもうことをいう)ありがとうございました!」
春野さん自身が春野恵はナニモノなのか?を自己紹介して終わる…というのが最重要課題でした。
春野恵役のたなしゅうの自己紹介から始まり春野恵の『私は○○です』で終わる公演。私が私を受け入れて受け止めて進み始める人間讃歌。
誰にとっても応援歌と感じられるような作品にしたかった。
そのためには最後の最後は春野恵本人から出てきた台詞でなければならなかった。
たった一言。それを客前で言うことで言うプレッシャーはとんでもないものだったとおもう。残酷な台本だなと、書いておいて思います。
自分を変えたい壊したいと言うのであればまずは根拠なくでいいから言葉として掲げることだと思うんです。
公演の大半を私と言うモノを紹介して。こんなことがあって。私はそれでもこうありたい、私はナニモノです!のココを兎に角本人の言葉を引きずり出したかった。
エンターテイナーという答えは僕も本番に初めて聴いた。練習でも春野恵さんは一度も言わずに本番に残してた。それは覚悟を熟成していたんだと思う。僕はとてもなんだか嬉しかった。明日の自己紹介はまた変わったって良い人は変わるから。でも変わるためには今が指標として必要だ。今をとらえられたのだから次にいけるしココにも居られる。
春野さんはずっと他者評価やジャンル名にこだわっていました。
肩書きが異様に増えてきた人生。
それは彼女の器用さや柔軟さ、他者へのリスペクトから来るモノであり…異様なまでにない自信。それをかばうための数字やジャンル。
ジャンルがはっきりするメリットはたくさんあるけれど、春野さんはもう春野さんでいいのになって7月に思いました。
何故ならばそれで生きてこれる程に魅力的なんだから。春野恵になればええやんって7月に言った時になんか喜んでたので、それを話の中核にした節はあります
『誰がなんと言おうと私は私だ。他人に委ねるな。私があって初めて他人や世界との距離が生まれる』
そんなことを話した気がします。
やはり、長くなりましたね…。
前編終了です。
次は一つ一つの演目について。
それではまた。