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マシュマロ
母は人を引き寄せる不思議な力を持っている。
先日も、病院の待合室でついさっきまで椅子にちょこんと1人で座っていたのが、ふと見ると知らない人と楽しそうにキャッキャと笑顔で喋っていた。
「あの人、知り合い?」と後でたずねたところ、「ううん、横の人に突然話しかけられたの」と母。
人見知りの母が知らない人に自分から声をかけることはまず無い。道を尋ねるだけでも相当な勇気がいるらしい。けれど、知らない人に話しかけられる分には、どうやら抵抗が無いのだろう。
そして、いきなり声をかけてきた初見の相手を、母は古くからの友人と同じように温かく迎えるのだ。
主人もまた、同じような力を持っている。
お店の店員さんに声を掛けるときは、どっちが店員だか分からないようなやさしい笑顔で接するから、はたで見ていると古い友人と話しているのかと錯覚する。
一緒に小さなイベントを見に行こうものなら、展示品を夢中で見ている私をよそに、自分は奥でスタッフさんにお茶やお菓子を頂いていたりする。
「え?、知り合いだったの?」と驚いて訪ねると、「ううん、お菓子を食べていかんねって声かけられた」とニコニコしながら答える。
彼らの力は天性としか言いようがない。日々、身近で見ているからこそ、自分にはとうてい習得できないスキルだと痛感する。私も知らない人に声をかけられるのは多いほうだけど、それはおそらく母の血のせいで、母と同じオーラをちょっとだけ身にまとっているのだろう。
でも彼らは、自分に癒しの力があるなんてこれっぽっちも思っていない。それどころか、「おかあさんは臆病で、小心者で、人に迷惑をかけてばっかりで」といつも弱音を吐いている。
臆病であることは、癒しの力を持つものに不可欠な要素なのかもしれない。
「鋭い刀のような性格だ」と皮肉まじりに例えられる私を、マシュマロのようにふわふわの二人が包んでくれている。