『星を詠む人 ~朝露と天秤の日~ (天秤座) 9/23-10/23』
夏の暑さは何処へやら。
朝の空気は、どこか秋の匂いをその身に纏う。
視線の端には少し色味を失った葉っぱが揺れている。
その先端に集まった朝露が、ぽつりと地面に落ちて淡く弾けた。
何事も無理に釣り合いを取ろうとすると、いつかそれは破綻してしまう。
朝露が地面に落ちるように、
それはある日、唐突に訪れるのだ。
なぜならそれは、一見正しく秤の釣り合った天秤みたいに、
その中心はいつだって無理をしているから。
天秤がじっと耐えながら、その秤を揺らさないようにしても、
そんなに人の想いは軽くはない。
ぎしぎし・・・ぎしぎし・・・
みんなの事を想って、精一杯公平にしたくても、
天秤の真ん中だけが音を立てて軋んでしまう。
それなら思い切って何もかも手放してしまったら?
なんて思うけど・・・
それは天秤にとっては残酷な事だ。
それは天秤自身を否定してしまう事になるから。
でも・・・そんな天秤だっていつも悩んでいる。
何事も決めきれないそんな自分を、
頼り甲斐がないとか、
優柔不断だとか、
そんな風に思ってしまう。
時に誰にでも優しい天秤を、
八方美人だとか、そんな風に見る人もいるかもしれない。
それでも誰よりも調和を望む天秤は、
せめて大好きな人達が仲良くある事を望むのだ。
たとえその身を犠牲しても・・・。
そんな事を望んでいたのは、昔の私。
それではダメだと知っているのは、今の私。
人の想いは決して釣り合いなんて取れはしない。
ここはあえて、その間でゆらゆら秤を揺らしてみる。
そうやって、人の想いの合間で、
あっちにゆらゆら、こっちにゆらゆら動きながら、
大好きな人達を秤に乗せて、その中心に自分を置くのだ。
自分が犠牲になる調和なんてものはない。
自分が中心に居るからこそ、初めて物事は釣り合うのだ。
ふむふむ・・・君も私と同じで不器用なのだな。
どこまでの届きそうな風が吹いて、朝露を零した葉っぱが揺れる。
あっちにゆらゆら、こっちにゆらゆら。
今日はちょっとだけ遠回りして、歩いていこう。
星が見える時間には、まだ程遠いのだから。
ねぇ・・・たまにはそういう日だって良いでしょう?
そうして私は星を詠む。
星を詠んで、人を想うのだ。
【星を詠む人】
読み手:深文
脚本・演出;tanakan
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?