女性管理職は「自然に増える」のか?
「(女性の登用について)具体的な数値目標を持つ必要はない」「平等に(男女を)評価した結果として女性管理職が自然に増えるのが望ましい」「女性登用に関する特別な施策は必要ない(特別な施策はゲタをはかせることになる)」ーー女性活躍に関する政府目標や女性管理職比率に関する最近のニュースをめぐり、こうした意見にいくつか接しました。本当にそうでしょうか?自分の考えをまとめてみたいと思います。
私たちには「バイアス」が存在する
考えなくてはならないのは、私たちが多かれ少なかれ性差による「無意識下でのバイアス(偏見)」を持っているということです。この領域の研究者として著名なギンカ・トーゲル先生の著書にさまざまな事例が詳しくのっています(↓)。
私たちのなかには「男性はこうあるべき」「女性はこうあるべき」「リーダーはこうあるべき」といった無意識の固定概念があり、その固定概念と違った行動を取る(取られる)と、嫌悪感を抱いたり、批判されたりといった反発が起きてしまいます。またそういった固定概念に女性自身も(あるいは男性自身も)無意識的にしばられて行動する場合もあります。
同じ経歴でも男女で得られる評価が違う?
無意識バイアスにもとづく具体的な事例として、たとえば同書のなかで紹介されている米イェール大学の研究があります。まったく同じプロフィールに対して男性名と女性名をそれぞれつけて採用場面でどういった評価が得られるか調査したものです。結果は「能力・適性に対する評価」「採用可能性」「年収提示額」などのすべての項目で(まったく同じプロフィールであるにもかかわらず)男性が女性を上回る高い評価を得たことが報告されています。回答者が女性であっても同様の結果で、女性に対する無意識バイアスは男女ともに保有していることがわかります。
「ゲタをはかせる」のではなく「ゆがみをただす」
同書のなかではさまざまな科学的根拠にもとづく無意識バイアスの存在が紹介されています。たった1%のバイアスでも、それが組織の各階層で繰り返されることで最終的に昇進における男女差として15%もの違いにつながるという結果も出ています。ですから女性登用をめぐる議論で「(施策によって)ゲタをはかせるということか?」と異論をとなえるご意見がありますが、さまざまなエビデンスから我々のなかにバイアスが存在するのはあきらかなわけで、「ゲタをはかせる」のではなく「ゆがみをただす」ために各種の施策が必要だと考えます。
格差を是正できなければ女性は辞める
「現在の管理職に関してはたしかに女性が少ない。しかしそれは採用当時は総合職にしめる女性比率が少なかったわけで、今の新卒採用においては女性割合が増えているので、彼女たちが自然に昇進していけば女性管理職は増えていくのでは?」というご意見もあります。
しかしながら格差を是正できなければ女性たちは組織に失望して辞めていくだけです。数年前に総合職を中心とする200名強の転職・独立希望の女性たちに対して調査をしたことがあります(↓)。
その際に「(過去もふくめて)退職・転職・独立を検討した時期は?」とたずねると27歳と35歳が数字としてきわだちました(↓)。
フリーコメントで女性たちの声に耳を傾けると、20代のうちは結婚・出産などのライフイベントを迎える前ではあるものの、「会社は自分を正しく評価してくれるか」「仕事と育児を両立しながら、やりがいを持って働けそうか」という観点で会社を見ています。30代はより具体的に子育てをしつつ、力を発揮することができるかーーという観点から会社を見ます。総合職として第一線で仕事をしてきた女性たちは、仕事選択において育児と仕事の両立に加えて、同じくらい自身の「能力発揮」すなわち仕事の質ややりがいを重視する傾向が強く見られます。
ですから、会社内において男女が平等に能力発揮できている…あるいは現状は格差があったとしても、少なくとも会社としては格差是正のための努力(具体的な施策)に取り組んでいる状況でないと、思うように力を発揮できない不満や、将来のキャリア形成への不安が要因となり女性たちはどんどん辞めていきます。
管理職になりたくない=意欲が低い?
「そんなことを言ったって、女性は管理職になりたがらないじゃないか」というご意見もあります。これについては別の記事(↓)でも書いたのですが、「管理職になりたくない」と「仕事に対する成長意欲」は別の話です。「管理職になりたくない」女性が大勢を占めるのは、現在の管理職に多様性が不足しているため(例:女性管理職が少ない、育児期の女性管理職はもっと少ない)、「管理職になる」ことが彼女たちのなかで具体的にイメージしづらく選択肢になりにくいことが背景にはあります。
進む二極化。ダイバーシティは何のため?
先日の日経新聞の記事では「女性登用を進めている」企業は42.6%との報道がありました(↓)。
これは自分の感覚値とも近いです。女性をふくめ多様性を力に変えられる企業とそうではない企業、二極化が進んでいる印象です。「女性登用=ダイバーシティか?」と問われると、もちろん考慮するべき多様性はジェンダー以外にもあります。しかしながら、人口の半数を占める女性の能力を活かしきれていないのは社会にとって大きな損失ですし、少子高齢化により労働人口が急速に減少していく日本にとっては危機的状況でもあります。
いまいちど考えたいのは「何のためのダイバーシティか?」ということです。「ダイバーシティ推進は企業が『勝つため』『成長するため』の戦略」です。そして、ダイバーシティ推進が企業業績にプラスの影響を与えることには多数のエビデンスが存在します。目標や施策なしに「女性管理職が自然と増える」のはかなり難しいですし、積極的に取り組めるかどうかで今後の企業成長がおのずと左右されていくのではないでしょうか。