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台湾ひとり研究室:台所編「伝統家屋で開かれる教室に伝統の味を学ぶ:雙口呂。」

そうか、これが違っていたのか——。

長い間、ずっと疑問に思っていたことがあった。それは台湾で食べる大根餅に使われいてる粉の正体である。片栗粉のような粘り気はなく、かといって小麦粉の香りとも違う。口当たりは軽めで、でもぷるんと弾力がある。「材料って何?」誰に聞いても腹落ちする答えが返ってこない。ようやく、この長年の疑問を解いてくれたのが、今回参加した教室だった。

伝統と向き合う取り組み

教室は、台北から南下する高速3号線の、インターにほど近い場所にある。私は今回、台北の自宅からMRT景安駅で降りて高速バスに乗り換えて現地へ向かった。

国際空港を抱える桃園の大溪という街は、老街と呼ばれる煉瓦造りの古い街並みが残る。他のエリアで老街といえば、大きな通り1本を指すことが多いけれども、大溪にはそんな通りが3本もあって、古い建築物を活用しながら街づくりに力を入れる。ここには、在台の大先輩で地域アンバサダーを務める近藤香子さんがいる。香子さんは、3本の老街のうちの1本にあるセレクトショップ「新南12」で、週に1回、お手製のランチを提供している。地元の食材を使った日本人の手料理が味わえることで、各地から香子さんのランチを目指して大渓に人が来る。丁寧に作られたその食事は、主菜と野菜がバランスよく見た目にもワクワクする。そして美味しい。

大渓アンバサダーの近藤香子さんとお手製のランチプレート(撮影筆者)

長年の謎が解けた

「大溪の三合院で台湾の伝統的な料理教室を教わる会があるのですが、行きませんか」

三合院とは、三つの辺でできたコの字型の、平家の煉瓦造りの建物で、清朝時代に建てられたものが多い。ということはつまり、築100年を軽く越える古民家だ。元は主宰者のおばあちゃん家として親しんできた三合院で開かれる教室の名は「雙口呂」。古くから伝わる蒸し料理「粿」を教える。

雙口呂のある三合院。地域の文化拠点になっている(撮影筆者)

粿の核になる材料は米粉。教室は、その米の品種と台湾での生産状況の説明からスタートした。

台湾で使われる米は、日本で食べるジャポニカ米だけではない。インディカ米も使用する。そのなかで粿に使われる品種はさらに下位分類され、「硬秈」という種類になる。

たとえば「大根餅/蘿蔔糕」というと、作り方も含めて、日本でもかなり知られてきた料理だが、台湾の大根餅と違う点があります。それは、日本では小麦粉や片栗粉、白玉粉を使うことが多いのに対して、台湾では米粉を使う。

「米粉」というと、日本ではパンの原料にも使われるほど一般化したが、日本の米粉の原料は、ジャポニカ米のもち米とうるち米であることが多いのに対して、台湾で使われる米粉はインディカ米を親にする品種なんだそう。

夜市や朝ごはん屋さんで提供される料理にいろいろと使われている。初めて食べた時から(なーんかこれまで食べきた粉とは違うなあ、何を使ってるんだろう)とずっと疑問に思っていた。今回の料理教室で、インディカ米系統の米粉だったとわかって、めっちゃすっきりした。そうか、だからあの口当たりになるんだな。

碗粿と九層炊

この日は、教室で新たに開発した碗粿ぅわーぐぇ(台湾式ライスプリン)と九層炊がおざっつぇー(台湾式ういろう)のお試し授業で、私たちはコースのテスト参加者という立場だった。

にもかかわらず、丁寧に準備された教室に入って(うわあ!)と感動していた。一人ずつに器具と材料が並べられ、作るのは初めて、という人が参加してワイワイ言いながら作っていった。

碗粿も九層炊も、ものすごーくギュギュッとまとめれば、米粉を溶かした生地を蒸したもの。その基本は同じなのに、味も手順もまるで違う。碗粿はしょっぱい系。タロイモが入っているから色も単なる米粉の色ではなく、さらにほんのりとした甘みを感じさせるライスプリンで、その上に醤油ベースのそぼろあんをかけていただく。一方の九層炊は、米粉を溶かした生地に黒糖を混ぜ込んだ蒸し菓子である。

蒸し上がった碗粿のそぼろあんを準備(撮影筆者)
九層炊が蒸し上がった瞬間。黒糖の入った生地と入っていない生地を交互に重ねる(撮影筆者)

食感がいちばん近いのは、プリンというよりういろうだ。ちなみに、五十路を越えて初めてういろうが蒸し菓子だと知ったのだが、もしかしたら起源を辿ると似たような地に行き着くのじゃなかろうか。

料理教室もいいなあ

午後1時にスタートして終了したのは夕方5時を回っていた。生地になる部分の下準備が終わっている状態で始まったのに、である。実際に体験してみて、一人で材料から揃えて作るのは難易度が高い、というのが率直な感想だったのだけれど、収穫は非常に大きかった。

長年の謎が解けたこと。さらには、街で売られている商品がどのようにしてできるものだったのかわかったこと。これまで教室に参加したことは一度だけ。あとは義母がほとんどだったので、いろんな先生を訪ねてみるのもよさそうだ。

さて、大渓の雙口呂は予約制の料理教室。いろいろなメニューがあるので、公式サイトであれこれ眺めてみてほしい。

お誘いくださった香子さん、そして雙口呂のおふたり、一緒に参加した皆さん、ありがとうございました。上了這次的課程後,已經做了一次碗粿上面的素食醬,非常感謝老師和同學們!祝這一門好好發展!


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田中美帆|『高雄港の娘』春秋社アジア文芸ライブラリー
勝手口から見た台湾の姿を、さまざまにお届けすべく活動しています。2023〜24年にかけては日本で刊行予定の翻訳作業が中心ですが、24年には同書の関連イベントを開催したいと考えています。応援団、サポーターとしてご協力いただけたらうれしいです。2023.8.15