台湾ひとり研究室:映像編「徐漢強監督《鬼才之道》に見るコメディホラーの最高峰。」
映画のジャンルとしては「コメディホラー」というらしい。「らしい」というのは、私自身が映画の専門家でもなければ単なる観客の一人に過ぎないから。画面としてはホラーなんだけども、内容は全くコメディで、四六時中、笑っていた。時に笑い泣きするほどに。
今回観た《鬼才之道》、「Dead Talents Society」という英題のついた本作は、今月7日に台湾で、15日には香港マカオ、来月にはマレーシアで劇場公開する1本だ。直訳すれば、死後の社会、向こうの社会、といったところだけれど、そうねえ…「私があの世で生きる道」といったところ。
まずもって、旧暦で1年が進んでいく中華圏では、旧暦の7月、現在「鬼月」のまっただ中なんである(ちなみに今年は8/4-9/2)。タイトルでいう「鬼」は日本の鬼とは違っていて、幽霊と解釈するのがわかりやすいのだけれど、ここでは鬼としておきたい。鬼が帰ってくるわけだから、日本のお盆にちょっと似ているものの、台湾にはこの鬼月のタブー、禁忌がいろいろある。タブーの趣旨としては向こう側に連れていかれないように、ということらしい。たとえば「水場に近寄るな」は、このシーズンならではのタブーだ。
そんな鬼月に鬼の世を魅せる1本、である。
ストーリーは、鬼の世界に君臨する2人のトップ女優がテレビ番組のインタビューを受けるシーンから始まる。鬼の世界には、現世の人々をどれほど震え上がらせたかが採点され、その点数によって鬼の世界の就業ビザが発行されてとどまるか、あるいは鬼の世界からも消されるかがシビアに判断される世界だ。そこへ新人としてやってきた鬼がいろんな壁にぶち当たりながら、向こうの世界で生きていく道を模索していく。
話が進むにつれて、鬼のタレントオーディションやマネージャーなど、現世と同じ構造をもった社会であることがじわじわと理解できていくあたり、結構周到な場面展開でぐいーんと惹きつけられた。そうやって、鬼の世界として観せながら、観る人たちはきっと現世の価値観をぐるっと客観視させられるのだ。その仕掛けは、目に見える世界だけだと思ってしまっている現世の人の滑稽さを笑うものなのかもしれない。
ところで真正面からのホラーはもともと苦手で、ここでこっそり告白すると、本作の徐漢強監督によるヒット作《返校》は未踏破だった。にもかかわらず予告で王淨(ワン・ジン)、陳柏霖(チェン・ボーリン)、張榕容(サンドリーヌ・ピンナ)という布陣にオッ!と思ったのに加えて、コメディなら観ておきたい、と心動いてしまい、いそいそと劇場へと足を運んだのでありました。本当に観てよかった。
絵面は完全にホラーなんだけれども、血やらなんやらが一幅の絵画のように綺麗で、喜劇としてのストーリーの描き方が本当に素晴らしい。嫉妬あり、競争あり、笑いあり、それでいて作品を通じたメッセージが、きちんと、ある。他者のいる社会でどうやって生きていけばよいか迷う人/迷ったことがある人に、きっと効くはず。
ちなみに、本作、台北電影節で上映されたもの。どうやら受賞はならなかったようだけれど、ひと言でいって、ワタクシ的には過去イチでした。こういう台湾のユーモアセンス、喜劇のセンスは、単に泣かせることしか狙ってない作品に比べたら、もっともっと認められていいと真剣に思う。だってね、人を泣かせるより笑わせるほうが圧倒的に難しいのだから。
いやあ、この台湾のユーモアセンス、ぜひとも日本へ届いてほしい。