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台湾ひとり研究室:映像編「台湾映画《周處除三害》で考える故事の昇華と善悪の境界。」

封切りの昨日、試写のお誘いをいただき、新作《周處除三害》を劇場で観てきました。開始前に主役の阮經天(イーサン・ルアン)と主演女優の王淨(ジングル・ワン)が登場し、イーサンが「これから本編始まりますが、めっちゃ走る僕をお楽しみください」と笑ってましたが、言葉通りの走りっぷりでした。

イーサンのTシャツの背中の文言、「就是○○ㄟ」肝心の2字を忘れてまった…。

さていつもは前情報なしで観るのですが、あまりによくわからないので開始前に同行の大哥に「あのさ、このタイトルってどこでどう切れるの?」と聞いて判明したのがこちら。

 周處 除  三害
 主語 述語 目的語
 人名 除く 3つの害、三悪

「周處、三悪を除く」。周處は人名ってことで、主役の名前かと思いきや、三国時代の呉の武将だそう。三国は知ってても、この名にまつわる逸話までは存じませんでした。

故事曰く——周處は手のつけれらない子どもで、村人から恐れられていた。ある年、村は豊作だったが喜びの様子が見えない。そこで周處が老人に理由を訊ねると「三悪のせいだ」という。その三悪とは虎、蛟(みずち)、そして周處自身のこと。「俺が二悪をやっつける!」と退治に向かった。ところが村では周處がいなくなって大喜び。二悪の退治を終えた彼の姿に村人の様を見て、自分を見つめ、すっかり改心して大人物になったとさ——

上の話の骨子はそのままに、現代バイオレンスアクションにきっちり昇華されていました。極道役のイーサンと刑事役の李李仁の身体能力の高さよ! きっちり(カッコよく)走れる役者さんを久しぶりに見た気がします。こういう走り続けるシーンって、あぶ刑事(さすがに古すぎか…)あたりから見てない気がします。

アクションはもちろん、ストーリー展開もしっかりしていて、何が悪で何が善なのか、その線引きはどこにあるのか、途中、グラグラに揺さぶられました。監督が香港の方というのもあってか、劇中、台湾に移民した香港人の姿(極道でしたが)が描かれ、香港の役者さんも登場しています。この、台湾と香港のコラボってあたりも「今ならでは」だなあと思わされました。

それにしても、日本なら小説や漫画を映画化する、という手法は大の得意だし、三国志のパロディーはあるわけですが、ことわざや神話、伝説の類を現代に置き換えて物語化する、という手法はそう多くないような気がします(いや、私が知らないだけか??)。こういうアプローチでの物語化って面白いなと思いました。

イーサンの役名は「陳桂林」。本作でいう周處は誰か、三悪は誰か、周處と三悪の関係、悪をどう除くのか、そして結末は?……血の苦手な方は厳しいかもしれませんが、息つく間もないスリリングな展開を楽しめる1本です。

それから本作。今年の金馬賞では7部門でノミネートされています。
・最優秀監督賞
・最優秀アクション設計賞
・最優秀ビジュアル効果賞
・最優秀映画音楽賞
・最優秀サウンド効果賞
・最優秀編集賞
・最優秀主演男優賞
来月の受賞作発表で、このうちいくつが入るのか、楽しみに発表を待ちたいと思います。

あとめちゃくちゃ細かい点ですが、刑事役李李仁の眼球は、きっと日本のドラマ『教場』のキムタクの眼を再現したんだよねー、と思いながら見てました。アレ、ほんとどうなってるんだろう。メイクシーン、早回しでいいから見てみたいです。

台湾では昨日から公開されています。連休中、お時間ある方はぜひ劇場にお運びください!


勝手口から見た台湾の姿を、さまざまにお届けすべく活動しています。2023〜24年にかけては日本で刊行予定の翻訳作業が中心ですが、24年には同書の関連イベントを開催したいと考えています。応援団、サポーターとしてご協力いただけたらうれしいです。2023.8.15