消えないもの
きれいに始末して立ち去る。
痕跡を残さず、思いを残さず、まるで最初からいなかったかのように。
「立つ鳥跡を濁さず」
立ち去る者は、あとが見苦しくないようにすべきであるということ。退きぎわのいさぎよいことのたとえ。
(デジタル大辞泉より)
「引き際を美しく」は、そもそも美しくない人に対して思うことであって、美しくするであろう人には「きれいにしろよ」とは言わない。
でも、惜しまれつつ去る人に限って、きれいに始末する。まるで「金輪際、さようなら」とでも言っているかのように。
気配もなにもかも、残さない。あとに残す人に忘れて欲しいかのよう。
いや、忘れられるのが嫌だから、忘れられたとしても「だよね」と強がれる余地を残すためかもしれない。
人の中に残る自分の痕跡を消し、その人を自分から開放する。
わかりにくい優しさ。
優しさであると同時に、自分を守るための仮面。
忘れられる悲しみを経験したことがあるのだろうか。
残される側は、跡を少しだけでいいから濁らせておいて欲しいと思う。
別れの寂しさに慣れるまで、事あるごとに思い出す手がかりとして。思い出して、「今はどうしてるんだろう」と思いを馳せるために。
人は思い出があれば生きていける。
悲しい思い出も、時間が経てば悲しみは消え、思い出だけが残る。
ともに思い出を共有できればいいけれど、私の中にだけでも残しておきたい。忘れたくないし、忘れられない。
立つ鳥跡を濁して。
ほんの少しだけ。
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