箱根旅行記

 文芸部の旅行として、箱根に一泊二日で旅行するに至った。そこでの体験と考えたことを、可能な限り克明に記す。駄文につき。

 朝9時半ごろ、家を出る。電車の発車時刻は9:42なので、かなりギリギリの出立となった。焦って駅まで走る。無事間に合う。が、そこで偶然アカペラサークルの方の先輩方に出くわす。ライブに行くとのことだった。極めてアクティブに活動されているようで、尊敬する。ちょっとした世間話をしたのちに僕がフェードアウトしていくような形で会話を終えた。アカペラの方の先輩と話すときは何を話すべきか分からずおどおどしている。向こうも同様かもしれない。
 本を読んだりTwitterを眺めたりしながら時間をつぶし、北千住駅に到着。ここで何とかロマンスカーという列車に乗り換えをするのだが、どこが乗り場かわからない。駅員さんに聞いたら判明したが、今度は乗車券はもう出していないときた。駅員さんはほかの切符をとりあえず買って向こうで清算してくれと言うので、急ぎ買うことになる。自動券売機で前に並んでいた客が何故か操作に手間取っており、焦りが募る。ようやく購入しホームへと急ぐと、そこには良い感じの列車があった。3両目だったか4両目だったかに乗り込み、予約していた席に座る。
 さて、この乗車時間の暇をつぶすために本を一冊持ってきたのだが、私の手はスマホに伸びる。そしてTwitterをやり始める。かつてはこうではなかったのだが。私もまた、現代社会の病理に侵されていると言えるだろう。車窓も本も見ず、単純で軽薄で膨大な情報の波に自らを投じることを選ぶようになってしまった。どうしてこうなってしまったのだろう…
 ともかく、Twitterと本を往復しているうちに、箱根湯本駅に到着する。まさに温泉街といった風情の街並みが車窓から見える。かなりワクワクした。改札から出るときに、乗車券の清算をしようと窓口に向かう。大体1400円くらいしただろうか。あとで知ったが、普通列車を乗り継いでいくことができたし、その方がよっぽど安かった。だが、まあ長時間の列車の旅を確実に座って過ごすことができるのは大きい。後悔はない。
 なんやかんやで改札を出る。文芸部一同は改札近くのお土産屋さんの前にいるとのことだったが、案の定知った顔が店の前にわらわらといた。どうもーとあいさつをして状況を聞くと、とりあえずここで集まって駄弁っている、とのことだった。お土産屋には魅力的な食品がたくさんあったが、帰りに買えばいいと思い買わなかった。顔は知っているけれど特に仲がいい人というのもあまりいなかったので、だんまりを決め込んで待つ。少々居心地が悪かった。この文芸部では、俺はどうも同級生との関わりが薄い。自分自身人見知りなうえに、周りもそう積極的に俺と関わろうともしないためだ。せめて、なにか作品を書いてくれたりしたらいい話のタネになるのだが。見る専も受け入れるのが文芸部なので、致し方のないことである。そもそも俺が人見知りなのが悪いのである。自分の情けなさには辟易する。
 大方人が集まったようだが、特に誰も動き出す気配がない。俺は早いところ観光に出たかったので、商店街をぶらぶらしたい、誰か一緒に来ないかと提案する。先輩の何人かが手を挙げてくれたので、その人たちに付いていこうと決めた。意思決定は疲れる。他人に任せるのが楽だ。ちなみに、その先輩方の名前も実ははっきりとは憶えていない。単純に名前を覚えるのが苦手なのである。申し訳ない。
 ともかく、20時頃ホテルで合流しようということで全員一致し、各自で分かれて動く。ちなみにホテルに泊まるのは俺以外は全員先輩…のはずである。若干不安はあったが、持ち前の楽観で考えないことにした。今は商店街巡りである。やはり、お土産を売っている店が多い。饅頭、温泉卵、地酒などいろいろである。温泉卵を買って食うことにした。店員さんが卵を袋に包もうとしてくれたが、手を滑らせて卵が落ちかけた。なんとか店員さんがキャッチし、俺と店員さんでほっと胸をなでおろした。味はそこまで特別な感じはしなかったが、うまかった。先輩方は酒を買っていた。飲むのがお好きな方々である。
 昼飯はラーメンを食べようということになった。鯛ラーメンなるものに皆興味を惹かれたためだ。一番安い塩ラーメン900円を頼んだ。ラーメンがくるまで駄弁った。受験の話やら高校倫理の話やら哲学の話やらなんやらをした。人に歴史あり、と思った。ラーメンが来たので食べる。さっぱりした塩ラーメンの上には鯛の刺身が一切れのってあり、時間がたつと良い感じに熱が通って美味かった。あと、先輩が頼んだなにか丸い揚げ物をくれるというので頂戴した。おそらく鯛の身を丸めて揚げたものだろう。これも大変美味かった。
 事前の話で俺ともう一人の先輩はユネッサンという温泉レジャー施設に行くことが決定していたので、他の先輩方と別れバスに乗る。バスの中で免許の話だったりバイトの話だったりをした。小狡く生きていくすべを学ぶのも必要なことである。到着して降りると、ユネッサンに行く予定だった他の先輩方もおりてきて、そこで初めて一緒のバスだったのだとわかった。ユネッサンは非常に大きな施設で、外観も立派だった。時間が少し早かったので、中でいろいろと見て回った。床の上を動き回る類のゲームがあり、みんなでやった。判定が厳しすぎると感じた。先輩たちは案外ノリがいいなと感じたが、よく考えてみれば夏にはセミを食べに行ったりするような方々である。当然かもしれなかった。ほかの場所に行くと記念コイン製造機があった。せっかくなので作った。作りたては熱かった。
 時間が来たので受付をすませ(といっても受付は一人の先輩が全てやってくれたのだが)、中へとはいる。水着のレンタルをしているようだったので、借りた。1500円。高いのか安いのかは知らない。ほかの先輩方は自前の水着があるようだった。うらやましい。着替えたのち、いざ温泉プールへと向かう。入る前に記念写真を撮りますとスタッフさんが言うので、なぜかアロハの…なんか…首からかける奴をして写真を撮った。1000円ほどでもらえるとの話だったが、全員別に要らないと拒否した。いらない。
 中に入ると、めちゃくちゃ広い。プールのようなところでは多くの子供がきゃっきゃと遊んでいる。さすがにそんなところに入る気は起きないので、他の場所を探しに歩き回る。なぜか床が一面足つぼマッサージのようになっており、歩くたびに鈍痛がしてひどい。健康志向は良いが、やりすぎである。外にウォータースライダーがあるということだったので、向かう。かなりでかかった。しかも、3つのコースに分かれており、グネグネの激しさが異なるようだった。俺はグネグネがない方が速いだろうと思いそのコースにしたが、普通に途中で止まってしまった。勢いが大事である。
 それからいろいろと回ってみるが、これ、お湯につかっているときはいいのだが、諸温泉プールを巡るにあたって移動がすこぶる寒い。これは屋外だからではあるが、かなり堪えた。「逆サウナ」と名付ける。本当に様々なゾーンがあった。いい景色を見ながらゆっくりできる露天風呂、洞窟のなかにある風呂、滝が落ちてくる風呂、ワイン(入浴剤)風呂、酒(日本酒)風呂、緑茶風呂、コーヒー風呂、ジェットバス、サウナ…いろいろと巡ることができなかなかに楽しかった。また、ドクターフィッシュ体験もしていた。やってみると、死ぬほどくすぐったい。ほかの人たちは割と平気そうなのに、俺だけめちゃくちゃ笑ってしまって恥ずかしいことこの上なかった。今でも思い出すと足がムズムズする。さらにフードコートもあった。先輩のおごりでポテトを食べた。移動するにしても風呂に浸かるにしても、案外汗は書いているものである。ポテトの塩味がことさら美味しく感じた。
 結局、最後にはジェットバスにおちついた。ぼこぼこと湧く泡が心地よい。いいものだった。先輩の一人がいなくなる(結局先に上がっていた)トラブルはあったものの、大変楽しめた。牛乳瓶の自販機があったので、高かったが買って飲んだ。幸福のために金を払うのは当然である。
 下にもどると、なぜかほかの文芸部の面々もそろっていた。なぜかは知らない。あとはホテルに向かうのみだが、ろくに晩御飯も食べてない上に店もないので、ユネサンス備え付けのコンビニで晩御飯を買うことになった。箱根まで来て晩御飯がコンビニご飯とは、悲しいものである。草団子とパンを買った。草団子を買ったのは良い夜だったからである。美味しかった。
 シャトルバスに乗りホテルへ向かう。品のいいホテルだという印象を受けた。部屋割りは適当だった。どうせ寝るだけだし、と全員そのことに同意であった。遊ぶなら集まればいいだけの話である。とりあえず部屋でゆっくりする時間があった。先輩の一人が、ホテルはだいたい金払えばAV見れる、といろいろと画策したが、努力は失敗に終わったようだった。最近のホテルではないものである。ほかの先輩がカードゲームを提案してくれたので、それにのっかりやろうとしたが、先に風呂に入ろうということになった。エレベータに乗ったところで、誰も浴場の場所を正確に把握していないことが判明する。が、まあノリで行けるだろうと続行。結局途中で先輩方はタオルがないことに気が付き、俺を残して部屋にそそくさともどっていった。俺は一人で先に浴場に入った。ユネサンスでお湯につかったばかりではあったが、やはりこういう、普通の浴場のほうが落ち着けるものである。風呂から出て部屋に戻ろうとすると、鍵が開かない。同室の先輩が持って行っていたのである。しょうがないので、エレベータ前のソファで待ちぼうけである。慣れない浴衣を着てボケーっと待っていた。スマホも何もないので大変退屈であった。
 先輩方がかえってきたので無事部屋にもどり、カードゲームを始めた…のだが、そこで俺は原神のデイリーをまだやっていないことを思い出す。幸い四人ゲームでその場には五人いたので、離脱して原神をした。だいぶ原神にずっぽりである。いい時間になったので、一つの部屋に集まろうということになった。要は飲み会である。俺は飲まない。机の上にずらりと並ぶ酒は壮観であった。部長が乾杯の音頭を取り、皆さん飲み始める。俺はポカリで乾杯した。これも先輩が買ったものだ。自分で何かしら買っておけばよかったと少し後悔した。
 酒が入った先輩方は賑やかである。ある年長の先輩が女いるやついないのかと聞くが、誰も答えない。俺は正直答えるかまよったが、やめておいた。後が怖いからである。色っぽい話題はそこで潰え、話は哲学談義、倫理談義に移る。当然酒が入っているのであまりあてにならない話だが、どうもそういう方向に話題が行くところが某春日宿舎勢の深夜談義と近いものを感じ、なんとなく親近感を覚えた。俺は先輩の倫理についての話を聞きながら、同調したり突っ込んだりしていた。もちろん先輩は酒が入っている。どこからともなく現れたトランプでババ抜きが始まる。二回やったが、俺は運よく両方早々に抜けることができた。うれしい。そのあとはウミガメのスープだか水がめの卵だかという名前のゲームが始まって少ししたところで俺は寝落ち寸前になり、自室へと引っ込んで眠った。1:30頃だった。ポケモンスリープの起動は忘れなかった。
 起床。7:00頃だったと記憶している。いい朝だった。カーテンを開けると、箱根の山々が朝日に照らされて輝いている。昨夜はお楽しみだったので(飲み会楽しかったね、の意)、皆さん目覚めが悪い。寝ぼけ眼を覚まそうと、ボカロイントロクイズやら歌詞クイズやらをした。知っている曲は基本すぐわかった。
 朝食はバイキング形式だった。鮭の切り身やらごぼうやらぱんやら味噌汁やらかなり充実していた。お腹いっぱい食べることができ幸福であった。食事中、この後どうするかという話になり。ある先輩が彫刻の森美術館に行くというのでついていくことに決めた。チェックアウトの際、お土産の饅頭を買った。美味しそうだったので。
 歩くことおよそ20分、美術館についた。チケットを買い、入場。屋外での展示だったが、さっそくよくわからない彫像が目に入る。人間の像だったり幾何学的な形だったりいろいろとあって面白い。あるところにはキリストが吊られている状態になるまでの遷移をえがいたものがあった。珍しいと思った。自然も豊かなのが良い。池がありそこには鯉がいたのだが、そのうち一匹の頭がひどくえぐれており痛々しかった。でかい金の玉や銀の玉、様々な色のひし形が連なるオブジェなどがあり目に楽しいものだった。ピカソ館というピカソの作品のみを展示しているところもあった。よくわからない。あとナントカの塔に登った。遠くに臨む山岳がよく見える素晴らしい景色だった。電車の時間が不安だったので先輩たちを置いて先に出る。お土産コーナーではよくわからないむにむにしたモノと美術館のアートブックを買った。こういうところに来ると買いたくなるものである。むにむにが意外と高く、二つで6000円もしておどろいた。アートブックも含めると計9000円の高い買い物となった。
 列車に乗ってまた箱根湯本駅へ。商店街を一人でぶらついた。アワビ焼きというのが目に入る。俺はアワビを食べたことが一度もなかったので、ここいらでアワビ童貞を卒業しようと購入。二つで1750円。高いが、アワビは高級なので妥当だろう。あと、ソフトクリームも買った。こちらは450円だった。アワビは焼きたてで熱かったので先にソフトクリームをいただく。これにはあんみつだかがかかっており、蜜の香ばしさとソフトクリームのバニラの香りが相まって大変美味だった。いよいよアワビを食す。一口口に含むと柔らかい肉が若干の抵抗を見せるが、少し強く噛むとあっけなく食いちぎることができた。クニクニとした食感と磯のかおりのする醤油ダレがたまらない。なるほど、これがアワビか。高級食材足るおいしさだと独りごちた。今後も、機会があれば食べたいものである。
 あとはお土産をぽかぽか買った。工芸品を売ってるところになぜかマウスパッドがあり、ちょうどほしかったので買った。模様が素敵なマウスパッドである。
 駅で、美術館で別れた先輩と合流した。先輩は普通列車の方で帰るらしい。俺は行きとおなじである。この時の俺は、先輩とつくばエクスプレスにて同じ車両に乗り合わせることをまだ知らない。

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