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PRAGUE SPRING INTERNATIONAL MUSIC COMPETITION 2022

この度、私田中は「プラハの春音楽祭コンペティション・クラリネット部門」審査員という大役を仰せつかり、チェコ共和国プラハ市へ行ってきました。このプラハのコンペティション、数あるヨーロッパのコンペティションの中で最も歴史のある、由緒正しいコンペティションの一つに数えられています。その審査員を私が務めると言う事、こんなに光栄なことは無いと心から思っています。内心、国際コンペティションの審査とは果たしてどんな物なのか想像もつきませんでしたが、いざ現地に到着すると、大会役員の皆様の気遣い、そして大好きな審査員仲間との信頼関係に助けられ、想像以上に充実した有意義な時間を過ごす事ができました。また一つ新しいクラリネット遺伝子が私の身体の中に組み込まれたと思います。

当初、本コンペティションは2020年に開催される予定だったのですが、COVID-19の影響で延期されてしまいました。約50名が予選を通過していたのですが、開催延期など諸事情により多くの棄権者があり、最終的に29名で行われました。個人的には予選を勝ち抜いていたウクライナの奏者の演奏を聴きたかったのですが、想い叶わず残念です。

5月7日 ドバイ経由でヴァーツラフ・ハヴェル・プラハ空港到着。驚いたのが大会公式送迎車がメルセデス・ベンツだったこと。我々審査員の送迎は毎回メルセデスでした。好天に恵まれ空港からプラハ城を観ながらホテルにチェックイン、休む暇もなく審査員の集いに出席。今回の外国人審査員である私、田中正敏、ハリー・メキとミシェル・ルチエックの3人は、2017年、2019年、プラハ芸術アカデミー(HAMU)で開催された夏期講習会「クラリネット・デイズ」の講師でした。以来、お互い厚い信頼を寄せる友人です。日本風に言えば同じ釜の飯を食べた関係ですね。今思えば、その講習会時にすでに本コンペティションの審査員選考が始まっていたのではないかと思います。

公式スポンサー


第1ラウンド

8日10:00〜23:00、9日14:00〜18:00 2日間かけて29名の第1ラウンド。参加者の国籍は、韓国、中国、台湾、日本、イタリア、ロシア、ポーランド、ポルトガル、チェコ、イスラエル、フランス、デンマーク、スロバキア、計13カ国。全ての演奏が非常に興味深く、個性豊かな演奏ばかりでした。危うく鑑賞モードになるところでしたが、心を鬼にして審査させて頂き、12名の奏者を第2ラウンドへ選出しました。

審査員
審査員
田中の席
第2ラウンドへ駒を進めた若者
審査員全員でエールを送る

10日9:00〜13:00 参加者の中で希望者は審査員と個人的に話ができるフィードバック・セッション。私のところにもたくさんの若者が訪ねてきてくれました。若者たちの中には、自分の演奏は“表現よりも情熱が勝ってしまって上手く演奏できなかった”とか“自分の演奏に対する表現の根拠”など、自らの演奏を冷静に評価していました。Google翻訳に助けてもらいつつ充実したフィードバック・セッションになったと思います。Google翻訳も最近は素晴らしいです。チェコ語、ポーランド語、ロシア語、ポルトガル語、イタリア語に完璧に対応してくれました。

M.ルチエックとフィードバック・セッションする参加者

11日9:00〜23:00 第2ラウンド。第1ラウンドから選出された12名の奏者の審査でした。ブラームス、プーランク、マルティヌー、サン=サーンス。これも第1ラウンド同様、個性溢れる演奏でした。個人的にはイタリアから参加してくれたアンドレア君のサン=サーンスが最高でした!!ダイナミックで朗々と歌い上げる演奏ではなく、まるで「サン=サーンスのソナタ」と言う1冊の本を分かりやすく読み聞かせてくれているような演奏。今まで見えなかった景色を見せてもらえました。日本の若者たちに聴かせてあげたいサン=サーンスでした。ちなみにアンドレア君は「審査員特別賞」を受賞しました。課題曲の現代音楽はクラリネットで演奏可能な現代奏法を使用する”技のデパート”という感じの作品でした。

プラハ芸術アカデミー中庭
第2ラウンド進行表
第2ラウンド会場のマルティヌー・ホール
photo:Chiharu KUBOTA

12日9:00〜13:00 10日同様フィードバック・セッションが行われました。残念ながら、私が大好きだったサン=サーンスを演奏してくれたアンドレア君は現れず(涙)それでもたくさんの若者の考え方を聞くことができてとても勉強になりました。特にポーランドから参加してくれたヴィクトリアさんは自分の演奏表現の長所と短所を実によく分析していて、私が言おうとしたコメントを既に自分で認識していました。イスラエルから参加してくれたトメール君はクラリネット奏者とコンピュータプログラマーの二足の草鞋とのこと。若い時にたくさんクラリネットを吹いて、将来はIT系の会社を立ち上げる予定らしいです。デンマークから参加してくれたヨナス君は自分の経験した様々な音楽をもっとあらゆる場面で表現したいらしい。楽譜に書いていないことも自由に表現したいとのこと。長時間にわたり奥深い話が出来ました。その後、夜に開催されたオープニング・コンサートで事件が!!なんと私は体調不良でコンサート会場で倒れてしまいました。10分程度意識を失っていたようです。目を開けると目の前には、聴衆の中に偶然居合わせたドクターと救急隊員、両脇には審査員仲間が全員勢揃い!まるで映画のワンシーンでした。恐らく時差ボケ、開演直前のセレモニーでのシャンパン飲酒(貧乏根性でシャンパンを見るとたくさん飲んでしまう)、収容人数1,200人満席の聴衆、空調無しの会場(古いホールのため)での「酸欠」が原因だったかと思われます。

こんな感じで満席でした
シャンパーニュ

13日10:00〜11:00 日本とチェコの文化の架け橋になるため、今回の大会事務局と日本大使館文化部をつなげに大使館へ。残念ながら大使に直接お目にかかることはできませんでしたが、参事官にお会いすることができました。日本のチェコ大使館でも私のプラハ報告会が計画されています。ちなみに、大会事務局のヴェロニカさん、素敵な方でした。ヴェロニカさんと会ったその日から意気投合して話が弾んでしまいました。

大好きなヴェロニカと自撮り

12:00〜15:00 田中門下生昼食会でした。日本、ドイツ、イギリスから集まってくれて皆でチェコビールを堪能しつつ大昼食会でした!やっぱ愛弟子は最高です。

チーム田中集合

大沼:ヨーロッパでは多くの国でコロナ規制がようやく緩和されたので、ドイツ、チェコ間を行き来できるようになり、一泊二日の弾丸プラハ旅行を計画しました。コロナ渦で延期になっていたプラハの春国際音楽コンクールが今年開催され、恩師である田中正敏先生が審査員を務められるということで一目会いに行きました。プラハを訪れた日はコンクールの中休みということもあり、快晴に恵まれたプラハの午後にチーム田中と合流、ゆったりとお食事を楽しみました。田中先生とプラハでの再会は3回目になりますが、パワフルに国際的に活躍される先生の姿を見るたびに、私も世界で通用する人間になりたいと一層励みになります。この指止まれで世界各国から集まれるチーム田中、次回の再会が楽しみです。

添石:私は第2ラウンド、ファイナルと演奏を聴きました。コンクールならではの独特の緊張感に包まれたホールの雰囲気、それでいてコンクールであることを忘れるような心にぐっとくる繊細な演奏、情熱に溢れる演奏と、十人十色で演奏者たちの思いが伝わってくる演奏に終始感動の連続でした。この感動をLIVEで味わうことが出来たのは私自身の演奏活動にとって大きな収穫です。田中先生が審査員の方々と打ち解けている様子や今回の演奏者一人一人と向き合っている姿をみて、先生のお人柄を感じました。今回プラハに田中先生のチームが集ったのもそうです。世界各地で活動する仲間が、こんな風に集まることができるのは先生ならではのことだなと思いました。

久保田:毎晩チェコビールを飲みながら幸せそうに笑っていた先生ですが、審査になると誰よりもメモをとり真剣な表情に。ひとりひとりの演奏に敬意を持ちながら丁寧に審査に臨む姿が印象的でした。普段の愉快な先生とのギャップをカメラ越しに見ながら、改めて2年越しに開催が叶ってよかったと心から思いました。

松浦:Na zdravi! (ナ ズドラヴィー!)チーム田中の感動の再会はチェコのピルスナービールとともに果たされました。「乾杯」の意味の他に「健康に」という意味を含むこのチェコ語はコロナ禍を乗り越えた私たちの再会にふさわしい言葉で、その味わいも格別でした。田中先生とは十年以上のお付き合いで、教育現場を中心にクラリネットサロン(音大生と地域社会を繋ぐ音楽活動)のお手伝いをさせていただきました。先生の常に革新的な姿勢は私のお手本でした。その“冒険クラリネットプレイヤー田中正敏”がついに国際コンクールの審査員に選出。参加者の方々の演奏と先生の審査員姿をこの目と耳で確かめるべくプラハに向かいました。実際、国際舞台の審査員としてのMasatoshi Tanakaはいつもと変わらない田中正敏先生で、いつもどおりの友好的な雰囲気を誰よりも醸し出されていました。それは先生が日頃からグローバルスタンダードの視点で活動されている証かもしれません。音楽という共通言語を通じて文化交流をされる先生の姿勢はこれからの日本人が指標にすべきことだと感じました。先生の今後の新たなステージがとても楽しみです。次はどの国の言葉で乾杯できるか、今からすでに楽しみでなりません。

センター3名受賞者と関係者全員集合
photo:Chiharu KUBOTA

14日18:00〜22:00 本選会。フランスからリリアン君、台湾からユン・ヤンさん、地元チェコからアンナさんの3名がドビュッシー作曲の第1狂詩曲とクビン作曲の協奏曲をオーケストラ伴奏で演奏してくれました。やはり、なんといってもチェコ共和国が誇る「ドボルザーク・ホール」で、オーケストラと一緒に演奏できることは若者にとって大きなキャリアになるのではないでしょうか。そしてオーケストラ指揮者は日本人!マエストロ岩崎宙平さん!私の審査なんてもう必要ないでしょうと思いつつも、とても冷静に審査しました。リリアン君はフランス人なのでお得意のドビュッシー、ユン・ヤンさんは持ち前の超絶技巧、アンナさんはチェコ人なのでお得意のクビンをそれぞれ立派に表現していました。クビンの協奏曲は日本でもみなさんに演奏してもらいたい作品です。少し解説すると、クビンは日本でもお馴染みのヤナーチェクと同じモラヴィア地方出身の作曲家で、モラヴィアの固有の旋律と、フリアンのリズムが彼独特の世界を表現しているので、クラリネットの表現にもピッタリな作品だと思います。

審査員カテリナと!
photo:Chiharu KUBOTA
巨匠ミシェル・ルチエック
photo:Chiharu KUBOTA
自撮りする審査員
photo:Chiharu KUBOTA
最高の審査員でした!
マエストロ岩崎宙平!
審査員仲間イゴール(右)とマルティヌー財団イルヴィン(左)
俺って小さいな!でも顔のサイズが同じ(汗)

15日帰国。旅に出てすぐにホームシックになる私も、これだけ長期間プラハにいるとホームシックは何処へやら。このままプラハに居たいと思う気持ちが芽生えていました。旅の〆には、成田で入国に3時間かかり、3日間成田市内のホテルに自主隔離、19日やっと帰宅できました。

日本の若者たちへは、どんどん海外へ行って自分の目と耳で世界のクラリネットを全身で感じて欲しいです。次世代クラリネットを担う若者を田中はこれからも全力で応援します!

最後になりましたが、このような貴重な経験をさせてくれたプラハのクラリネット仲間たち、審査員仲間たち、プラハの春音楽祭実行委員会の皆様、愛弟子、そしてドクターと救急隊員の皆様に心からお礼を申し上げます。

ありがとうプラハ
今回のホテル前




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