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出口治明『全世界史講義・古代中世編』読書感想文

ライフネット生命の会長の出口治明はるあきが著者。

経営者の本は、自画自賛を省かないといけないと思っていたら、そんなのが1行もない。

1人の歴史が好きな市民の趣味、と本人がいう立ち位置はブレない。

“ 講義 ” とはいっても堅苦しくない。
「僕たちは…」と呼びかけて、ざっくばらんな話し言葉で書かれていく。

ライターがまとめたとあるけど、豊富な知識に圧倒される。
歴史を知るというより、いかに知らないか打ちのめされた。

いや。
知る知らないよりも、当時の人々を理解できた。

ライフネット生命に入ろうかな、とも思えてくる。
もちろん、本文中にはライフネット生命などラの字も出てこないけど、そう思わせた。


サブタイトルには “ 人類5000年史 ” とある。

なぜに?
5000年前からなのか?

僕たちは西暦に慣れ親しんでいますが…と理由を明かすところからはじまる。

それによると。
西暦は、イエス・キリストの誕生を元年としている。
それ以前をBC(ビフォアー・キリスト)と遡る。

だけど、人類の歴史は、止まったことも逆流したしたこともない。
人類は古代から文字を残している。
だから文字を資料として、歴史を読み解くのもあり。

最古の文字が発見されている5000年前から、歴史を1本の流れとして見つめたい、とある。

同じようなことを、漠然と思っていたのに気がついた。

中卒レベルのイメージと限定しなければいけないけど、紀元前はよくわからない古い時代。

西暦元年のキリストの誕生から、人類の新しい歴史がはじまった。

歴史の “ ヒストリー ” の語源は、キリストを指す “ ヒズ・ストーリー ” からきているともいう。

さらにいえば、ルネサンスから人類の英知がはじまった。
大航海を経て、新しい大陸も遅れた文化も発見された。

もっといえば、ヨーロッパで近代の文化は発祥した。
ヨーロッパを中心にして現代の科学も社会も発展した、というぼんやりしたイメージがある。

しかし、昨今は、そうでもないらしい。
なにがどうなのか、漠然とした疑問になっていた。

それが、この本でスッキリとした。
知るというよりも、新たな視点が得られた。
こんな読書をしたかった。

出口治明『全世界史講義・古代中世編』読書感想文
単行本|2016年発刊|384ページ|新潮社

出口歴の採用

ただ1点。
スッキリしない部分がある。

この本では、最古の文字が発見された5000年前を、いってみれば “ 元年 ” としている。

第1千年期から第5千年期まで1000年単位で章がまとめられていて、西暦もBC3000年からAC2000年まで併記されている。

ここがスッキリしない。

読んでいくうちに、西暦の併記が邪魔になってくる。
せっかく5000年という長い1本の流れを進んでいるのに。

よって、今から5000年前。
BC3000年。

ここを、出口暦元年とする!

暦というのは天体を元にするのだろうけど、文字の誕生を元とするのは初見でもある。

提唱者の名前をとって出口暦 としてもいいのではないだろうか。

ただ、はっきり特定できないのが、最古の文字の誕生の年。
つまりは、出口暦元年が定まらない。

なので、この本が出版された西暦2016年を出口暦5000年と定める。
勝手に独断で。

とすると、キリストが生まれたのは、出口暦2984年
ちょっと彼は登場が遅いではないか。

江戸幕府が開かれたのに至っては、出口暦4587年
なんだ、家康って最近の人じゃないか。

問題点は、今後、新たに最古の文字が発見されたとき。

それについては、その発見が、現状の最古よりも仮に300年前、要は出口暦元年よりも300年前だとしたら。

そのときは出口暦前300年、表記はBD300で、読みは “ ビフォアー・デグチ300 ” となる。
なんだか、スタイリッシュなマシンみたい。

ともかく余計なことは置いといて。
感想文は ” 出口暦 ” に沿ってみた。

出口歴前7000年に

出口治明『全世界史講義・古代中世編』ネタバレレビュー

文字ができるまで、約20万年前から5000年前までがざっくりと語られる。

はじめて知ったのは “ ドメスティケーション ” 。
約12,000年前の、いや、BD7,000年の現象。

ざっくりといえば、人間の脳が進化して自然を支配しようと思いはじめた変化。
それに伴い “ 神 " という概念が誕生した。

これにより、農業、牧畜、治金という技術が発展。
狩猟と採集の生活からシフトしていく。

さすがデグチ やはり、出口氏は経営者だけある。
神の成り立ちも合理的に組み立てる。

以降も、一貫して合理的に語られていくが目線はやさしい。
無知な古代の人々が自然を畏れて神を敬った、と切って捨てない。

なにが正しい説ではなくて、古代の人々と自身を同じ人間として、自身の考えに拠って語られていく。

そのためなのか。
参考文献の列挙なども一切ない。

学者の引用も、この1冊で3名分ほどの数行しかない。
こういう、少し主観交じりの歴史の本を読みたかった。

そうして、出口暦元年に至る。

出口暦1000年まで

出口治明『全世界史講義・古代中世編』ネタバレレビュー

出口暦元年から同1000年ほどまでは、いわゆる4大文明が中心となる。

出口暦では “ グローバル ” の語句が何度も使われる。

ペルシャを語ったと思ったら、中国に飛び、インドに飛ぶ。
エジプト、ギリシャ、ローマと飛んで、それらの繋がりを示して推測もしていく。

ただ、文字を元とする出口暦では、東南アジア、南米、中米、アフリカの登場は少ない。
北米とオセアニアは、この上巻ではまったく出てこない。

中心になるのはメソポタミア。
アッカド、バビロニア、ヒリクス、ヒッタイト、アッシリア、まだまだいっぱい王国が登場。

延々の流れを重視する出口暦では、これが繰り返されます、ここが似てます、ここは同じことです、ここはまだ後年になりますと、この先の流れも示す。

王国が次から次へと勃興。
この時代、有能な王が死ぬと国も滅びる。

王国の入れ代わり立ち代りに、まずここで歴史を知らないことを打ちのめされる。

でも退屈ではない。
出来事を並べただけではない、とわかるからだった。

というのも、出口氏の本は、この『全世界史講義』で2冊目。

1冊目に『本物の教養』という新書を読んでいる。
この大読書家は、そこで自身の読書術を紹介している。

本、人、旅が賢くする。
情報は目と耳から入ってくるだけではなくて五感で入ってくる。

そんな文言が心にひかかっている。

読書と同じくらい、足で歩く旅をすすめていたし、世界の1200都市を旅したともあった。

いちいち語られてないが、この近辺の都市も当然歩いているのだろう。

五感の情報で、自分の主観で考えて、腑に落ちる事柄のみ語っているのは感じた。

出口暦2000年を過ぎると

出口治明『全世界史講義・古代中世編』ネタバレレビュー

出口暦2000年を過ぎると、各地で帝国が出現する。
行政が整ってきたから可能になった。

背景のひとつには “ 製紙技術 ” の向上がある。
文書行政ができると官僚が生まれる。

文書が普及すると試験が行われる。
となると学校もできる。
翻訳も進み、図書館もつくられて、歴史もつくられる

また税制も出来上がっていく。
政変で税制は改められもする。

さすが財界人。
産業や技術を中心にして、税制も考慮して、複合的に語られる。

圧政で人々が苦しんで、正義の人が現れて、がんばって闘って治世が変りましたという、ありきたりの枠に全てを押し込めない。

間違い探しばかりの歴史学者の本とはちょっとちがう、と何度も思わせる読書となる。

生命保険会社の創業者、も感じさせる。

たとえば、古代ギリシャやローマの民主制については。

人間は動物なので、ちゃんとご飯を食べれて、安心して眠れるというのがいちばんの望みなのです、これが民主制の実態なのですと、ずっと後年からの安全の目線で語らない。

生命を扱う仕事をしているだけある。
ありていにいえば、当時の人々に寄り添っているというのか。

こういうところが、ライフネット生命に入ろうかな…と思えたのかも。

出口暦3000年を過ぎる

出口治明『全世界史講義・古代中世編』ネタバレレビュー

西暦では、北方の遊牧民は脇役っぽい。

大草原を羊など連れてのんびりとさまよっているだけ。
チンギス・カンになって、ポッとモンゴル帝国が出現したようなイメージ。

で、小学校のころに読んだ『チンギス・カン伝記』も覚えている。

テムジンは生まれたときに、血の塊を握っていた。
氏族は1家族だけになったが戦い続けて他を従えた。

その軍団は、血に飢えた狼。
平和な各地は襲われて、焼かれ奪われ壊される。
あとには廃墟と死体が残った、とあった。

日本に攻めてきたときも、鎌倉武士が名乗っているところをいきなり集団で攻撃してきた卑怯な連中。

先生もそういっていたし、『マンガ・日本の歴史』でもそう描かれていた。
中卒レベルでは、悪の帝国というイメージしかなかった。

ところが出口暦では。
遊牧民は、ユーラシア大陸の主役級となっている。

ペルシャと勢力を2分する。
中国を度々配下にして、ハンガリー平原まで進出して国を建て、果てには未開の地だったパリまで遠征するという大活躍を見せる。

後の出口歴4190年に興ったモンゴル帝国は、広大な領土を統治するためダイバーシティー(多様な人材の活用)を行い、人種や宗教は問わなかった。

すでに世界地図も作成しており、それは国家機密扱い。
統一した暦も完成して、周到な準備をして、戦わずして勝つことで帝国は拡大していった。

で、関税や通行税を厳禁にして、交易を活発させた。
そこに貨幣として銀を流通させて、取引には消費税をかけて銀を回収して税収を得た。

世界初の兌換だかん紙幣も発行された。
一帯は好景気になった、とペルシャやトルコの記録にはあるという。

あれ…
殺戮と略奪と放火の軍団とは…
だいぶちがうんですけど…

これは、後の被征服者となる明の朱子学者がモンゴル帝国をわるく記録したため。

日本の学者には非はありません、と出口氏は大人の配慮も忘れない。

出口暦3700年ころ

出口治明『全世界史講義・古代中世編』ネタバレレビュー

西暦というのは、いかにヨーロッパが中心になのか。

バイキングも、辺境の蛮族。
船でやってきて、牛のような角がある兜をかぶって剣をふるって、略奪を繰り返した海賊集団。

筋肉ムキムキ、頭はからっぽ、ドクロが大好き、大酒飲み。
だけど単純で気がいいところもある、というイメージ。

ところが出口暦では。
有能で勇敢なノルマン人となっている。

それによると、出口暦3700年ころ、地球の温暖化により彼らは北方を出て定住の地を求めた。

人類で初めて議会を開いたのは、このノルマン人だという。
船に乗って移動するので、皆の意見をまとめる手法に長けていた。

収益の9割以上は交易だった。
戦って奪うよりも、交易したほうがよっぽど有益だから。

だけど取引では、だまされたり、ごまかされたりする。
公平な取引をさせるために武力は示した。

海や川沿いに進出したノルマン人は、ロシアの元となり、イギリスの支配層にもなった。

フランスの沿岸にも、イタリア南部にも王国を建てて発展させた。

同じころの出口暦3800年には。
バックダートが100万人都市となり世界の中心だった、という。
巨大都市建設の特需で、ヨーロッパが経済力をつけた。

ちなみに長安が80万人。
ローマは5万人。

このように5000年間にわたって、世界人口や都市人口という数字を挙げ続けて、経済の規模を示していくのも経営者を感じさせる。

3大宗教

出口治明『全世界史講義・古代中世編』ネタバレレビュー

■ キリスト教 ■
出口暦では、キリスト教は脇役となっているようでもある。
キリストについては半ページにも満たない。

32歳前後にエルサレムで刑死しました、と簡単に終わっている。

ローマ教皇などはいいところがない。
右往左往しているだけ。

それにしても、有名企業の会長が、歴史や宗教に触れる本を書くのはリスクがある。

いや、リスクしかないような気がする。
いつ誰に、どこでなにが反感を持たれて、本業に飛び火するのか予想がつかない。

出口暦は大丈夫なのか、と心配になる。
けっこう、さらけ出して語っているから。

たとえば、第一次十字軍。

「聖地を取り戻そう」という崇高な想いで人々は命をかけて遠征した、という理解だった。

もっと良くいえば、限りない信仰心を持っていた。
純粋で心も澄んでいたから神を敬っていた。

わるくいえば、無知な人々だった。
盲目的に神を畏れる様子には、暗さも悲壮感もある。

ところが、出口暦によると。
出口暦4070年ころのヨーロッパには、食えない若者が大勢いて問題になっていた。

東方は暖かく、食べ物も豊富で、美人もたくさんいるのも伝え聞いていた。

ローマ教皇は、イスラム勢が手薄という情報を得ていたかもしれない。

そこで「エルサレムを奪還せよ!武器を取って東方に進軍せよ!」と世紀のアジテーション演説をする。

イチかバチか。
もし死んでも天国に行けるという。
よっしゃ、やってやるか。

すぐさま部隊がつくられて、エルサレムになだれ込んで、イスラム教徒から略奪が行われた。
宗教運動ではなくて、ただの出稼ぎ集団だった。

はしょってはいるけど、本当にそのような言葉のチョイスで語られている。

キリスト教の人は怒るだろうけど、自分は当時の人々が明るく生き生きと浮かんだ。
悲壮感だってない。

■ 仏教 ■
繰り返し中卒レベルで、と念を押すけど。
西暦では、インドはよくわからない地域になっている。
いつの間にかイギリスの植民地になっているし。

もちろん、釈迦がインドで生まれたくらいは知っている。
実は釈迦族の王子で、正確にはシッタルダという名前だったとか。

菩提樹の木の下で悟りをひらいて、そのときにチーズを差し入れてくれた少女の名前がスジャータだったというウンチクだって知っている。

でも、なんだろう?
仏教が発祥したインドなのに、今では信者が少ないのか?

だいたい、菩薩とか観音とか念仏ってなんなの?
釈迦とどんな関係?
なにがどうなって大仏になった?
そもそも、釈迦と仏は同一人物でいいのか?
いや、自分は仏教徒なのに、なぜ知らない?

インドは混沌としている。
モヤモヤばかり。

しかし出口暦では、インドには文字があるのを見逃さない。

地勢や社会の状況も合わせて、大きな流れとしてわかりやすく語られる。
ちょいちょいと、モヤモヤが消えていく読書が続く。

たとえば密教。
どうしてできたのか、ざっくりまとめると。

出口暦3000年を過ぎたころの仏教は小難しくなっていて、ほかの宗教に信者を取られていた。

そこで「実は宇宙から来た素晴らしい教えがあったのです、それを釈迦は隠していましたが、あなただけにこっそりと教えますので」と、おいしい富裕層を取り込むための新商品のようにして密教が登場した。

そうではないと、仏教関係者はいうのかもしれない。
けど自分は、たしかに密教だ…とモヤモヤが1発で消えた。

■ イスラム教 ■
出口暦で多く語られるのはイスラム教。
えらく熱心にイスラム教の誤解を挙げていく。

あまりの熱心さに「ちょっと盛ってない?」と逆に警戒を抱かせるほど。

自分の理解としては、イスラム教というのは『戦う宗教』と呼ばれている。
武力で広めていった。

占領した地域からは『血税』として子供を拉致する。
イスラム教を叩き込んで育てて、その地を統治させた。

たしか教科書にそうあったし、新聞の解説欄でも読んだ憶えもある。

さらには公開処刑や拷問も行われて、人々を恐怖でイスラム教に改宗させた。
そういう残酷な映画も見た。

しかし出口暦では。
自分が抱くようなイメージは「嘘である」と断言する。

出口暦というのは、既存の説を強く否定しないし、どれが正しいかという解釈は控えめ。
なので、この断言はめずらしい。

出口暦によると、創始者のムハンマドは商人だった。
その宗教は、合理的と現世的を重視しているから広まった。

それにイスラム教は寛容だった。
寛容というより、無駄なことはしなかった。

出口歴4430年に、東ローマ帝国の首都のコンスタンチノーブルをイスラム軍が陥落させたときは、キリスト教会を残して信仰は自由としている。
これが逆だったらこうはなりません、とも。

さらに。
イスラム軍が強かったのは権力の空白があったから、と語る。

ローマとペルシャという両横綱が、20年以上も相撲をとり続けて、お互いにくたくたになったところに、若くて元気のある前頭が、突然土俵に上がってきて、2人の横綱を押し出したということだと思います、ということらしい。

で、この本で、つい笑ってしまった箇所がここにある。

ムハンマドは、40歳以上も若い愛妻の部屋で死んでます。
これほど幸せな人はそうはいないでしょうと、心の底からうらやましそう。

若い女性が大好きなんだな、と行間からはビシビシと読み取れる。

もし今後。
出口氏に若い愛人がいたと発覚しても、自分は驚くことはない。

ラスト

出口治明『全世界史講義・古代中世編』ネタバレレビュー

出口歴4400年を過ぎたころまで進んでスパンと終わる。
あとの600年ほどは下巻となる。

いい読書をしたなと本を閉じた。

サブタイトルには『教養に効く』ともある。
うっすらとだけど、教養の意味が分かったような気がした。

多くの知識をつけるのでもない。
なにが正しいのか求めるのでもない。
いかに人を理解するのか、ということかもしれない。

羽1枚分くらいは教養がついたようで、気持ちがいい読書だった。

5年後の感想

出口治明『全世界史講義・古代中世編』ネタバレレビュー

1回目に『全世界史講義』を読んだときは、かの施設の官本で、檻の中だった。

歴史の知識とは別に得るものがあった本、大人が再読しても再発見があるだろう本、という感想が残っていた。

2回目に読みたくなったのは、社会で生活してから2年ほど経ってから。
新たな疑問があるからだった。

読書をすると役に立つ、という。

けど本当なのか?

とはいっても読書は習慣になっていて、就寝前、起床してすぐ、あとは休日、それぞれ30分か1時間はしている。

これがモヤモヤしている。

そうではないのか?

確かに読書は役に立つ。
けど、読書以外だって役に立つことは多くあるし。

いくら読書が役に立つからって、1日中しているわけにはいかないし。

それに実社会の問題の答えを読書に求めているようでは遅すぎるし。

note の記事のほうが、本よりおもしろいときもある。

そうしてモヤモヤしながら、2回目に読んでみると。

読書をどう生かすか考える…という、ごく当たり前の感想が持ててスッキリした。
これだけでも再読してよかった。

そして。
この読書を、ひとつでも生かそうと考えるに。

とりあえず、ライフネット生命に入ろうか。
そのまえに、ネットで保険料見積りしないとだなっとCMを口ずさんで、スッキリしすぎだろっと自分を叱咤しているところ。