「長髪男子、焼き芋と共に生きる。」
気づけば私の頭髪が人生を勝手にドラマ化しはじめていた。
タイトルは「いつの間にか長髪」。
主演:自称作家たなか。
助演:謎の毛根たち。
そして監督は、どうやら時の流れらしい。
どうも、ヘアストーリーを勝手に展開される自称作家のたなかです。
さて、話は一年前に遡る。
私は床屋に行くつもりだったんだ。
ええ、あの日、財布に千円札を握りしめて家を出たんです。
けれど、駅前の焼き芋屋さんに遭遇してしまったんだ。
季節限定「塩バター焼き芋」って、聞いたことある?
この時点で床屋は彼方に吹っ飛び、焼き芋を抱えて帰宅する私。
髪のことなんて焼き芋の甘さで忘れた。
次の月、また床屋の予定日がやってきた。
その日はスーパーで「1個お買い上げごとにティッシュ5箱プレゼント」という謎のキャンペーンに遭遇してしまった。
これはもう運命。
お買い得の波に乗るしかない。
結局、家に戻った私の手にはティッシュ30箱。
髪は?
そう、髪はキャンペーン対象外だ。
その次の月、今度こそ!と意気込んで家を出たところ、雨が降り出してしまった。
濡れるのは嫌だなあと家に戻った私は、コタツに入りながら「今の世の中、長髪でもいいじゃないか」という理屈を編み出し、Netflixでドラマを一気見することに決めた。
そうして気づけば数ヶ月が経過。
鏡を見ると、なんだかモサモサしてるんですよ。
え、私の頭こんなに主張強かったっけ?
風呂上がりなんて、髪を乾かすのにタオルが二枚いるんですよ。
しかもその髪、妙に毛先がダンスしてる。
これ、毛根たちが勝手に「フラメンコでもやろうぜ!」ってノリ出したのかな?
その後、友達に会うと「なんか仙人っぽくなったね」と言われる始末。
いやいや、仙人って言うけど、私、キャンプの時しか山に籠もった覚えないから。
しかも、長髪であるがゆえに風に煽られると、隣にいる人の顔にバサッと私の髪が直撃する。
「これ、武器?」って聞かれたよね。
そんなこんなで、ようやく床屋に行く決心をしたんです。
でも、床屋の椅子に座っているとふと思う。
「あ、これ、髪って切られるたびに少しずつ自分の歴史が消えていくんだな」って。
自分の怠惰も、焼き芋の甘さも、ティッシュ30箱の無駄遣いも、この髪に染み込んでいたのに、それが今まさに床に落ちていく。
人は髪とともに生き、髪とともに成長していくのかもしれない。
いや、これはただの言い訳だ。
でもまあ、サッパリした後の自分を鏡で見て思ったんだ。
「やっぱり短髪も悪くないな」と。
次は定期的に行くぞと心に誓った私。
その夜、Amazonで「家でも簡単に焼き芋が作れる機械」をポチッとしている自分に気づいた。
起きた…
それはただの夢だった…
果たして次回、「自称作家たなかは長髪を保てるのか?」それとも「再び長髪へ?」乞うご期待。