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「コインランドリー人間」

コインランドリー。

そう、あの小さな町の片隅にひっそりと佇む、近未来的かつ昭和レトロのハイブリッド空間。

そこに、ある種の人間模様が浮かび上がることを知っているだろうか。

いや、知るはずもない。

私も、つい先日まではコインランドリーというものはただの「洗濯場」と思っていた。

そう、何も考えず、ただ回して乾かして、それで終わりだと思っていたのだ。

しかし、ある日を境に、私はコインランドリーの深淵に足を踏み入れた。

まず、扉を開けた瞬間に気づく。

あの独特な空気感。

洗濯機と乾燥機が一斉に回る音が、まるで地球の自転を耳元で聞いているかのように「ゴォォォ」と響いてくる。

なんとも言えない、時間が凍ったかのような空間だ。

そして、その空間に集まる人々も、また異様だ。コインランドリーの住民、いや「コインランドリー人間」とでも呼ぼうか。

まず出会ったのは、あの「待機族」だ。

彼らはいつも洗濯が終わるまでの時間を無駄にすることなく、スマホ片手に立ち尽くす。

その姿はただの暇つぶしではなく、まるで世界を救うための重要なミッションを遂行しているかのような、真剣そのもの。

彼らは本当に洗濯をしているのか?

いや、それはもはやどうでもいい。  

もしかしたら彼らは、実はこの世の秩序を守るために、時間を操作する特殊能力を持つ「時間操作系ヒーロー」なのではないかと、私の中で妄想が膨らむ。

そして次に目にしたのは「ベテラン洗濯士」だ。

彼は、洗剤や柔軟剤をあたかも錬金術師のように巧みに操る。

彼の手つきはまさに職人のそれであり、洗濯機に投入するタイミング、乾燥機の温度調整、すべてが完璧だ。

あまりにも完璧すぎて、乾燥が終わったタオルを取り出す瞬間、まるで高級ホテルの部屋に入り込んだかのような香りが漂ってくる。

あの瞬間は、彼が真の意味で「洗濯の神」と化すのだ。

だが、私が最も驚いたのは「洗濯機との一体化族」だ。

彼らは洗濯物を詰め込み、自らも洗濯機の前に座り込み、まるで瞑想しているかのようにその動きをじっと見つめ続ける。

最初は「何をしているのだろう」と疑問に思ったが、次第にその意味が分かってきた。
 
彼らは、洗濯機とシンクロし、その動きに合わせて自らの心の中の乱れを整えているのだ。

それは、心を清め、魂を洗い流す「禅」のようなものなのだ。

こうして、私はコインランドリーという異次元の世界に足を踏み入れた。

もはや洗濯機はただの機械ではない。

そこには、人生の縮図が広がっている。

私は今や、コインランドリーに行くたびに、彼ら「コインランドリー人間」との出会いを楽しみにしている。

次はどんなヒーローが現れるのか。

それを考えるだけで、私の心はワクワクする。

そして、そんな私もまた、気づけば「コインランドリー人間」の一員となっているのだろうか。

いや、それはないだろう。

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