三毛猫ミーのクリスマス 第18話 猫ヶ島の喧嘩いうたら二つしかありゃせんのニャ

https://note.com/tanaka4040/n/nf4629274450eからつづく


筆 者 注
16話から23話は、猫同士の戦闘シーンが苦手でしたら、読まないほうが無難です。

24話までお進み下さい。
24話から御覧になっても(7話分とばしても)繋がるストーリーになっています。
では、どうぞ、お進みください


「まーた、喧嘩《けんか》の相談してんじゃないだろうね?お前たち」
と、女医が、一匹のブチ猫を抱いて入ってきた。
 太い眉毛のシールを貼ったのか?と見紛《みまご》うほどクッキリした極太眉《ごくぶとまゆ》だった。
 抱きかかえられているブチ猫ブーは、牙をむき出しにして、キティ組のボス猫ハローへ、
「てめえ。よくも、オレ様の縄張りを、荒らしやがったな」
と食ってかかると、ライバル関係にあるらしいボス猫ハローも、
「猫ヶ島《ねこがしま》に、大将は、二匹も、要《い》りゃせんのじゃあ」
「だったら、てめえが子分になりやがれ」
「ゴロ売るなら、もちっとマシな売り方せえや」
「余裕かましやがって。退院したら、ブッ殺してやる」
「殺《や》るんなら、今ここで殺りないや。能書《のうが》きは要《い》らんよ」
「こちとら忙しいんだよ。これから避妊《ひにん》手術でな」
「避妊?ふん。おまえみたいな馬鹿とは、話しする気もせん」
と罵《ののし》り合っている。すると、白衣の女医が、
「ニャーニャーうるさーい」
と叱《しか》った。



 小柄で若い女医だが、言動が粗暴《そぼう》で、男まさりで、汚れた白衣をだらしなくはだけ、そのくせ、化粧は完璧だった。
「ほらほら、ボス猫ハローたちは出て行きな。これからブチ猫ブーを手術するんだ。どけ」
と、足で蹴散らす真似をした。その足を避けながら、あたしは黒猫クーに、
「誰だい?あいつ」
と訊いた。

「ゲーだよ。ドクトル・ゲー」
「ドクトル?ドイツの獣医?」
「ううん。普通の獣医」
「じゃあ、どうしてドクトルなの?」
「わかんない」

「だったら、何もドイツ語じゃなくたって、ドクターじーで、いいじゃない」
「Gは、ドイツ語で、ゲーでしょ?」
「そうだね」
「ゲーだから、ドクトルなの」
「意味わかんない」
「だから、名前がゲーなの。眉《《毛》》のゲー」
 ゲーは呼び易いが、呼び捨てるわけにもいかないので、ドクトル・ゲーと呼んでいるらしい。
 とても本名とは思えないが、何となく腑に落ちるくらいインパクトが強い眉毛の持ち主だった。
 病院を追い出されたあたしたち千匹は、貨客船の猫丸《ねこまる》が停泊している港へ向かった。

 埠頭には、船内で一泊した乗客が、大勢いる。ここにいれば、敵も手出しできまい。そこで作戦会議することにした。
「三毛猫の」
と、ボス猫ハローが口火を切った。
「力になると言った以上、二言はない。わしと、千匹の手下の命は、あんたに預けるけぇ、好きぃに使いなや」
「いいの?さっき会ったばかりのメス猫に采配《さいはい》を預けちゃって」
「わしも格好つけにゃぁ、ならんですけぇ」
「全員が、無事に済むとは限らないよ?」
「猫ヶ島《ねこがしま》のケンカいうたら、殺るか?殺られるか?の二つしかありゃせんのでぇ」

 彼の目を見つめながら、あたしは頷《うなず》いた。
「わかった。必ず勝つから」
 そう約束して、戦略を発表した。
「強みで戦う!猫ヶ原《ねこがはら》で野外《やがい》決戦だ」
と宣言し、
「誰か、船の出港時間を調べて来て」
と頼んだ。
 すかさず、ボス猫ハローが傍《かたわ》らを振り向き、
「行って来い」
と指図するように顎《あご》をしゃくると、子分の一匹が走り出した。
「なんで猫ヶ原《ねこがはら》を選ぶんじゃ?」
「人間は、狭い隙間《すきま》を認識《にんしき》できるけど、猫は、狭い隙間を認識できないからさ」
「できんのう」
「木々が鬱蒼《うっそう》と茂る猫ヶ森《ねこがもり》や、墓木《ぼぼく》が並び立つネコロポリスじゃ、強みを発揮できない」
「強みって、何なら?」
「こっちには、千匹の猫がいる。だだっ広い猫ヶ原《ねこがはら》で野戦さ」

「それは強みだね」
と黒猫クーが言った。「強みを活かして戦わなくちゃ」
「そう。猫対人間とはいえ、千対三。この強みを活かして、敵を知り、己を知り、有利に戦える猫ヶ原《ねこがはら》へ誘い、勝って然《しか》るべく戦う」
「天下分け目の関ケ原せきがはらならぬ、猫ヶ原《ねこがはら》の戦いだね」
 ボス猫ハローが「応《おう》」と応《こた》えた。
「先んずれば制すじゃ。いっぺん後手に回ったら、死ぬまで先手は取れんのじゃけん。先制攻撃じゃ」
 しかし、敵の顔が分からなくては、攻撃しようがない。
「大丈夫。探さなくても、向こうから探しに来てくれる」
「どういうことだい?」
と、カシラのジロチョーが訊ねた。

「やつらが、猫狩りに来ていることは確かだね?」
「ああ」
「猫を殺しに来たのが目的ならば、この埠頭や、温泉で、まったりしているはずがない」
「そうか。観光目的じゃないんだったら、今も、どこかで、いじめる猫を探しているはず」
「だから、千匹の猫が伝令になって、島の猫すべてに、猫殺しが来ていることを伝えてあげて」
「よし。特に、クロスボウには注意するよう言っとく」
「注意を呼びかけ終わっても、戻って来ないで、そのまま、島のあちこちに散らばって、猫殺しを探して」

「すぐに見つかる。あっちだって、こっちを探しているはずだから」
「不意打ちを喰らわないよう、できるだけ、二匹一組で動いて。一匹づつ、離れ離れにならないで」
「一匹に何かあっても、もう一匹が復命《ふくめい》できるように」
「何が動きがあったら、情報を伝えに戻ってきて」
「わかった。他には?」
「伝令部隊のリーダーを決めておいて」
「よっしゃ。伝令のリーダーはハンゾーじゃ」
と、カシラのジロチョーは立ち上がって、千匹の猫へ、
「てめえら!分かったか?」
と問うと、千匹の猫が一斉に、
「応!」
と答えた。

 観光客たちが目を丸くしている。それもそのはず、千匹もの猫が一斉に、
「ニャア」
と大合唱して、一斉に散らばって行ったものだから、驚くのも無理はない。


https://note.com/tanaka4040/n/nf4629274450eへ続く


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