ホステージ政策/hostage policy

口座維持手数料

ご存知の方も多いであろう、某銀行には口座維持手数料があり、預金額が日本円で50万円を下回ると、毎月、だいたい1,000円~2,000円の口座維持手数料が発生する。

要するに、毎月ごとに2,000円ほど減っていく。仮に、10万円を預金していると5年で残高は0円になる。

マイナスになることはないが、黙っているだけで預金が無くなる。
利息で増えるなら分るが、減るなんて、聞いたことがない


某銀行のみならず、口座維持手数料なる不思議な手数料のかかる銀行は日本にもあるが、この口座維持手数料により銀行は、

1.濡れ手に泡で預金を取り上げることができる

2.数円や数十円の残高のまま忘れているだろう口座を整理できる

3.長年接触がない(生きているかどうか分らない)預金者の口座を整理できる

4.暗に「当行は貧乏人を相手にしません」とのメッセージを発信できる

銀行の狙いは他にもあるかどうか知らないが、実にうまい仕組みを考えたもの。口座を作ってしまったが最後、預金は、人質に取られるも同然。

入るは易し 出るは難し

口座維持手数料という漢字が七文字も並ぶと、なにやら役所の必要経費らしくって、抵抗なく受け入れてしまうのかも知れないが(笑)この漢字七文字には深慮遠謀が潜んでいる。

某銀行のようにATMが使える銀行は、ATMで簡単に引き落せる。が、ATMがない銀行は「セキュリティのため」という大義名分のもと、引き落すには面倒な手続きが山積しており、ほとんど引き落としは不可能ともいえる。

預けてしまったが最後、預金は人質に取られ、あとは、人質の命が惜しければ銀行の言うなりにならなければならないのである。

実例を紹介しよう。


インターネットが普及してくると、Web上で海外取引できる銀行が重宝される。(ドルで支払う必要がある場合など)

そこで海外バンクに口座を開く。これは赤子の手を捻るより簡単。

入るのが甘く、出るのが厳しい米国の大学のように、アングロサクソンらしい考え方といえよう。

しかし、ここで作る口座は「仮口座」で、本口座へアップグレードしなければ預金を引き出すことも、口座を使って買物することもできない。

本口座へアップグレードするためには、免許証やら何やら、必要な書類を提出しなければならない。個人情報の提供である。

単に提出すればいいというものではない。


銀行のルール通りに緻密かつ忠実に作って提出しなければ審査不可の憂き目に会う。
それも、何度でも、審査に通過するまで、審査不可が続く。もちろん、その間預金は凍結されたも同然。

が、預金を人質に取られている以上、その求めに応じなければ預金は使えない。銀行のいいなりである

そして、預金してしまったが最後、前述のように、口座維持手数料が発生する。
10万円や20万円など数年で無くなってしまう。

それを回避するには、仮に最初に10万円を預けて口座を開いたとしても、指定された金額以上を追加しなければならない。

じつに巧妙である。
「手続きが面倒くさい」と諦めてしまったら最後、いずれ預金はゼロになる。

免除の罠

さらに巧妙なことに、その銀行では、口座維持手数料を数ヶ月間「免除できる方法」としてMGMを紹介している。

平たくいえば「あなたの知人を一人紹介してくれたら口座維持手数料が一ヶ月免除になりますよ」という仕組み。

預金という人質を盾に取った巧妙なプロモーションである。

「やり方が汚い」と思うのは日本人らしいウェットで真っ当な感覚で、MGMはダイレクト・マーケティングの代表格、マーケティングの化身(笑)、狡猾であっても悪辣ではない。

さらには日本の役所も真っ青の「たらいまわしの術」

本口座へ進んでしまえば自由自在に引き落せるかというと、できないのである。


引き落としは電話で申し込まなければならない。電話でのみ引き落としを受け付けているということは、英語が話せなければお終い。

それでもその電話番号へ電話すると(もちろん国際電話の通話料は預金者負担)

「ホームページからお申し込み下さい」

とのメッセージが流れるのみ。預金という人質を解放する気が無いと思われるたらいまわしが待っている。

  • ここまでやると日本では反感を買うに違いないが、

  • 預金という人質(ホステージ)を簡単に預けられる仮口座

  • 本口座を開設しなければ、引き落としも買物もできない二十構造

  • 人質政策から一時的に逃れられるMGM提案

  • 人質を解放しない「たらいまわし」

  • 引き落とすのが面倒と諦めかねない複雑な申請の連続

という「入るは易く、出るは難し」の政策になっている。

これを参考にしない手はない。 

では、人質に取る方法には、どんな方法があるのだろうか?

商品そのものを人質に

以上のケースは、銀行の預金が商品そのものである。これを人質に取られたら
預金者は弱い。
人の弱みを突くのが人質作戦の狡猾なところであり(笑)巧妙なところである。

人質作戦は、昔から、スナックやバーなどの飲み屋で定番のサービスになっている。
ボトルキープである。商品そのものを人質に取ることで、別の店で飲むというブランドスイッチを防ぎ、再来店を促す。

ならば、たとえばリフォームなら、テーブルや椅子など、運べるものは人質に取ってしまえばよい。


リニューアルの名のもとに別料金にするかどうかは別にして、商品を預かっている以上、正当な接触機会を保持できる。

百貨店ならば、買った商品を預かっておく方法がある。プレゼントなどを当日まで大事に保管しておくという大義名分があれば、再来店する機会が発生する。

買った商品を、クレジットではなく、分割払いにする方法もある。

全額を支払わなくても、商品を買うことで権利を確保しておき、受け取り当日までに分割で代金を支払う方法である。

クリーニング店の例は以前に述べた。洗ったら返さずに次のシーズンまで保管しておくサービスである。延長料金のように日割りで課金することもできる。

商品を使うためのツールを人質に

広告代理店や印刷会社なら、版下を預かっておけば良い。その版下を使う限り次の発注も確実で、労せずしてリピート受注できる。

ゴルフ場なら「ゴルフバック無料お預かりサービス」が人質政策になる。しばらく利用のないユーザーには「ゴルフバックをお預かりしております」という正当な接触理由が生まれる。

Webならば「あと一ヶ月以内にログインしないと全ポイントが無効になる」というポイント制を人質にできる。

これは、ポイント制を導入している全て業態に当てはまる。ポイントが無効になるとなれば「得したい。損したくない」という欲が働き、人は動く。

余談になるが、寺院には墓がある。神社には墓がない。仏教が神道を凌駕して日本津々浦々に広まった原因こそ墓所ではないかと筆者は考える。


墓があるということは、祖先を人質に取られているも同然。祖先を祭るために人々は寺院へ行く。が、神社へは、行く必要がない。

これが、人々の生活に根づくかどうかの決定的な違いだったのではなかろうか。

しかも仏教には、年に2回の彼岸や、年に1回の命日や、数年に1回の回忌など寺院へ参る機会を年に何度もある。

祖先を人質に取るかどうかの違いが、仏教と神道の未来を決定づけたといえるかも知れない。

人質政策は約500年前に豊臣秀吉が作り出し、徳川家康から家光にかけて参勤交代として完成したが、今でもビジネスで使える立派な政策といえよう。

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