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AIDA原理

楽天やアマゾンなどの通販サイトを想像してみると分りやすい。

商品名がドーンとあって、商品写真がバーンとあって、あれこれ説明があって、「今なら××%引き」との価格があって、申し込みフォームへ続く。

Attention(注目)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Action(行動)の頭文字をとったAIDA原理に則っていることが分かる。

AIDAは“アイーダ”と読む。“アイダ”と読む人もいる。

AIDA原理とは、人は、Attention(注目)→Interest(興味)→Desire(欲求)→Action(行動)のプロセスに従って買うことを、米国の販売員であったセント・エルモ・ルイスが1898年に提唱した。

1898年の日本は明治時代。伊藤博文や大隈重信が内閣を組織していた年である。110年も前のことで、古い。

古いが、色あせていない。シンプルながら、人間の購買行動を鋭く突いている。現に今でもAIDAを教え説く専門家や大学教授は多い。

ついでながらAIDAの派生形としてAIDMA、AIDAS、AIDCA、AIDCASなどがある。


ダイレクト・オーダー・マーケティングの完成形とも言われる通販番組も同様にAIDA原理に則っている。たとえば、

「今日は、バリーバンドをご紹介しましょう」=Attention(注目)

「バリーバンドとは腹巻のこと。でも、この腹巻は、普通の腹巻とは違って、

(1) 100ミリテスラの永久磁石を20個も内臓しています

(2) 永久磁石が血行を促進し、腰まわりの凝りを和らげます

(3) 肌にフィットする薄手の生地。着けていても目立ちません

(4) 夏でも涼しい通気性抜群のメッシュ素材

(5) 内側ポケットは、貴重品入れにもなります。旅行に便利。

(6) 冬は、内側ポケットにカイロをいれて、お腹ポカポカ

(7) もちろん、医療機器許可番号を取得している信頼の一品


一年中使えて、腰痛の方に喜ばれています。<喜びの声>=Interest(興味)

今回は、一枚を洗濯しても代替に困らないように、春夏用2枚と、秋冬用2枚の合計4枚に加え、さらに携帯用の収納メッシュ袋まで付いて、なんと9,800円!

一枚9,800円のところ、今回だけ特別に、4枚プラス収納メッシュ袋まで付いて9,800円の大特価でご提供します。=Desire(欲求)

お買い求めは今すぐお電話で!本日だけの特別価格です。お急ぎ下さい」=Action(行動)

オオカミが出た

上記の腹巻の例は「腰痛に苦しむ人」へ向けた恐怖商品であるにもかかわらず、

「腰痛を放っておくと、とんでもないことになりますよ!」

といった“恐怖の扇情”が一切ないことをお分り頂けたであろう。

巷で見かける通販番組や通販広告を観察してもらえればわかるが、たとえ恐怖商品であっても、プロは恐怖を煽らない。

あまり恐怖を煽り立てると、イソップ寓話の「オオカミ少年」(嘘をつく子供)になるからである。

※「嘘をつく子供」とは、羊飼いの少年が退屈まぎれに、狼が出ていないにもかかわらず、「オオカミが出た」と騒いでは大人たちを騒擾させ、愉快がっていたが、いずれ本当に狼が出た時「オオカミが出た」と青くなっても、誰にも相手にされなかったという話※


恐怖に対して人は反応しやすく、動きやすく、すぐに効果が現れるため、恐怖を訴えたくなる気持ちは解る。

しかし、恐怖を煽る売り方は、短期的かつゲリラ的に注意を引くぶんには効果的であっても、長期的(戦略的)かつ基本的(王道的)なプロモーション戦略ではない。

恐怖を無闇に使えば、オオカミ少年のように「何だよ、ビックリさせんなよ」ということになり、いずれ誰にも相手にされなくなってしまう。

恐怖の訴求は、信用を失うきっかけになる。

恐怖、用いるべからず

昨今の偽装問題が記憶に新しいニュースバリューのある訴求なら問題ない。

たとえば、「そのウナギ、国産ですか?」といったヘッドラインである(これも筆者の創作)

「三河産ウナギ100%の当店のウナギは高い!出てくるのが遅い!けれど、その身は厚く、箸で持てないほど柔らかく、あぶらがたっぷり乗っていて、おいしく安全に食べられる」との期待へ転換できる。社会悪を斬るのである。

または、オープンオフィスの出現に対するマイクロソフトのように、

「無料だからといって、何かトラブルが発生したとき、責任の所在が明らかになっていないソフトを使って、怖くありませんか?そんなソフトを使っていて、もしも仕事を仕損じたら、あなたはどう責任を取れますか?誰もサポートしてくれませんよ?」


というように使うぶんには構わない。いわば、大手の“余裕”である。

信頼を失うことになりかねない恐怖の扇情は諸刃の剣であることをダイレクト・マーケティングのプロは知っている。

明確な理由も必要もないまま「ちょっと待て!まだ買うな」といった短期的な売り方は絶対に、しない。ヘタに使えば、信用を失いかねない。

信用を失ってしまっては、元も子もない。商売お終いである。

人は、期待より恐怖で動く。が、恐怖を煽れば危険であることを、ダイレクト・オーダー・マーケティングの実務家は知っている。

権威づけ

若干 話は逸れてしまうが(我ながら面白いケーススタディにつき)さらに分析してみよう。

「100ミリテスラの永久磁石」と知ってあなたは「お!100ミリテスラ!そりゃスゲェ」と思っただろうか?

そう思った方々は電磁気学にお詳しいと見える。が、おそらくほとんどピンと来なかったに違いない。

しかし「100ミリテスラの永久磁石」といわれると、テスラの意味を知らなくても、単なる磁石といわれるより「何やら効きそう」な気がしないだろうか?

それで良い。

ミリテスラとは磁束密度の計量単位であることなど、どうでも良い。お客さんは電磁気学を学びたいのではなく、効くかどうか知りたいだけである。


しかし、単なる「磁石」では、どれくらい効くか判らない。磁石を「永久磁石」に言い換えても、効果は分りにくい。

それを「100ミリテスラの永久磁石」と訴求することで、たとえテスラの意味を知らなくとも、専門知識が権威となって、何やら効きそうな気がしてくる。

つまり、「効きます」の代わりの「100ミリテスラ」である。
※テスラを計量法上明記しなければならないかどうかまでは不明

もう一つ「医療機器許可番号取得」について。

これも素人には「はー?何のこっちゃ?」と、にわかには理解しかねる(笑)が、要するに、医療機器を製造・輸入するにはお上の許可が必要ということである。


以上のような「学問の権威」や「お上の権威」を散りばめて信頼を高める方法を“権威づけ”という。

もっともっとマーケティングのテクニックを駆使して作った腹巻の例であるが、主題から逸れたまま長くなるため、ここまで。

買わなければ客に非ず。か?

分りやすいため通販の例に偏ってしまったが(苦笑)、ダイレクト・オーダー・マーケティングは、その名の通りオーダー(注文)を取るためのマーケティングである。

最終目的は注文。それ以降をフルフィルメントという。

AIDAも、最終段階は、アクション(購入)で終わる。売買が最終目的となる。

では“買わなければ客に非ず”なのだろうか?

“お客様は神様”であって“擬似客は神様ではない”のだろうか?

たとえば具体的に、ディズニーリゾートでパスポート(入園券)を買って園内でお金を落とすゲスト(お客さん)以外は、ゲストではないと?

ディズニーリゾートは、残念ながら(?)、そんなケチくさいことは言わない。
それどころか、無料でも楽しめるようになっている。


あるいは、昔の書店よろしく、ハタキでパタパタと立ち読みしている人を追い出す時代は終わった。

買う人は大事にするが、買わない人は大事にしない偏重の時代は終焉を告げたのである。

買わなくとも無碍にできないということは、売買は最終目的ではなくなったといっていい。
リレーションシップ・マーケティングなどの台頭を見ればわかる。

このあたりが成熟社会に即していない(100年前の)AIDAの弱点といえよう。

では次回、成熟社会に即した購買プロセスであるIiserをご紹介しよう。


Iiserは、イセアと読む。イーセアでも良い。どちらでも構わない。

Iiserは、人は商品を買うのではないという見地に立っている。よって、商品名ドーン!写真バーン!値引きガーン!では売れないと説く。

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