オキュペーショナル・プレステージ(occupational prestige )
セグメント、パーソナライズ、リサーチ、プライシング、SWOT(スウォット)等々、アメリカが発祥のマーケティング用語には、当然ながら、英語が多い。
マーケティングでは、、英語の専門用語を使うが、一般の社会でも、敢えて英語を使う場合がある。
その理由の一つは、自己演出。
「バイアスがかかっている」とか「メソッドをプロポーザルする」という具合に、知的に見せる目的で、わざと英語を使う。
何のことはない、バイアスとは先入観のこと。プロポーザルは提案、メソッドは方法。なので、日本語で分りやすく、
「先入観がある」 とか 「方法を提案する」 といえば難なく通じるのだが、知的な自分を演出したい人は、敢えて英語を使って、知識人を装う。
もう一つは、日本語で表現するには若干の語弊がある場合。たとえば人材を募集する際、
清掃作業員とカストーディアル
では、ゼンゼン印象が異なることはお分かりになると思う。
清掃作業員というと、清掃作業着で掃除する人のような既成概念がある。要するに、カッコ悪い印象がある。
ところが、カストーディアルというと、なにやら、新しい仕事(ジョブ)のような雰囲気があって、いきなりカッコ良い印象になる。
むろん、ただ単に英語するだけの小手先の小技で、求人が補えるものではない。では、その先の戦略とは?
ご存知の通り、カストーディアルは、東京ディズニーリゾートの職種である。おそらく、
「今までの古い日本の職種制度とは違うんだよ?お客様の案内役、つまり接客という重要な仕事でもあるんだよ?」という意味を含めているのだろう。
掃除に、接客という仕事を付加することにより、清掃作業のみならず、園の顔である誇りを持たせられる。それには「清掃作業員」では不都合。
経営側にとっては、一人二役をこなしてくれるので、人件費が浮いて大いに助かる。
これを、オキュペーショナル・プレステージ/occupational-prestige(職業的名声)という。
東京ディズニーリゾートには、カストーディアルの他にも、英語の職種がある。
【接客】
ゲスト・コントロール…ショーやパレードでの案内・誘導
ゲスト・リレーション…ゲストへの案内・誘導
カストーディアル…清掃・ゲストの案内
セキュリティ…園内外・駐車場の警備
パーキング…車の誘導・駐車料金の受け取り
アトラクション…アトラクションでの案内・誘導
フードサービス…飲食施設での接客
ワールドバザール…チケットの販売・確認
【非接客】
カリナリー…調理業務・洗い場作業
マーチャンダイズストック…商品在庫管理
テラー…チケット・金銭管理
メンテナンス…ウエスタンリバー鉄道の運転補助
クラーク…一般事務
ディストリビューション…配送・荷物の保管
接客と非接客に別れているところが重要。たとえば
日本の「駐車場の管理人」といえば、だいたい、一日じゅう小さな箱の中にいて、華やかさも刺激もなく、単調で、誰でもでき、給料も低い、まるで定年後の老人の仕事のような既成概念がある。
が、ディズニーの「パーキング」は、日本の「駐車場の管理人」の既成概念を覆した接客係である。むろん、みすぼらしい格好は許されない。
日本でいうところの「駐車場の管理人」を「パーキング」なる呼称にし、その上、接客にまで位置付けるとは、ものすごい発想だと思わないだろうか。
接客といえば、有名なホテルの駐車場でさえ、イヤな思いをしたことがある私には、ディズニーのそれは、まったきエポック・メイキングに感じられる。
日本の遊園地の既成概念を覆したところから、東京ディズニーリゾートの躍進が始まったことを思えば、ディズニーの企業理念が、人事にまで及んでいても不思議はない。
もしかしたら、25年後の駐車場係は、接客業になっているかも知れない。
それも、ぞんざいな口をきく、くたびれた老人ではなく、見目うるわしい若い女性の仕事(P/A)として。
東京ディズニーリゾートのチラシやリーフレットがたびたびポスティングされてくる。
それを見るたび、「たぶん、こういうこと(このブログの内容)だろうな」と分析しては、「東京ディズニーリゾートって、すごいなぁ」と感心している。
余談だが、先日、「アルバイトの求人広告を作ったんですが、どうでしょう?」と相談があった。
それに対して私は、
「質の高いアルバイトが欲しいなら、時給を上げて、応募数を増やすしかない。が、その前に…」
・どうしてアルバイトの募集なのか?
・正社員じゃダメなのか?明確な理由はあるのか?
・いい人材=アルバイトの募集が、経営指針と合致した求人になっているか?
「そこから検証はどうだろう?」
とアドバイスさせて頂いた。
その後、どうなったかは知らないが、ディズニーの例を紐解くまでもなく、求人
には、経営指針や企業理念が関与することは確か。つまりは、戦略である。
英語で表記する三つ目の理由として、英語に弱い日本人は、英語で聞くと専門用語に聞こえる模様。
「清掃作業員」という日本語ではなく、「カストーディアル」という英語だと、別のイメージを持つのに似ている。
しかし、掃除の仕事に相違は無い。言霊のマジックである。
ちなみに、オキュペーショナル・プレステージ/occupational-prestige(職業的名声)は造語である。
そういう人事用語があるのかどうか知りませんので悪しからず。