金の卵と金の鳥

(この物語は、仕事の人間関係や取引等のメタファーになっています)

北の牧場

昔々あるところに、大~きな大~きな牧場がありました。

牧場には、たくさんの『金の鳥』が、放し飼いになっていました。

『金の鳥』は『金の卵』を産みます。

『金の卵』は、魔法の卵でした。

『金の卵』へ向かって、欲しいものを唱えると、『金の卵』は、欲しいものに変わります。

「パンに変われ」

というと、『金の卵』は、パンに変わります。

「服に変われ」

というと、『金の卵』は、服に変わります。


そんな魔法の卵ですから、とても貴重で、誰も『金の卵』を欲しがりました。

北の牧場主も、『金の卵』が欲しくて、牧場を作りました。

しかし、『金の卵』は大切にしますが、『金の鳥』は大切にしませんでした。

北の牧場主は、『金の鳥』が産む『金の卵』を、持ち去っていくだけでした。

水をあげません。

鳥小屋も掃除しません。

『金の鳥』と一緒に、唄を歌うこともありません。

いつしか、北の牧場からは、一羽、また一羽と『金の鳥』が逃げていきました。

北の牧場主が気づいたころには、一羽の『金の鳥』もいなくなり、北の牧場主は、もう二度と、『金の卵』を手に入れることができませんでしたとさ。

東の牧場

『金の鳥』は『金の山』に棲んでいます。

山を取り囲むように、東の牧場と、西の牧場と、北の牧場と、南の牧場がありました。

東の牧場には、いろいろな動物たちがいました。牛も、馬も、豚も、にわとりも、アヒルもいます。

東の牧場主は、動物が大好きでしたから、いろいろな動物を飼ったのでした。

動物たちも、彼と触れ合うのが大好きでした。

すずめも、カラスも、うぐいすも、ヒツジも、犬も、カエルも、彼のまわりに集まって、一緒に唄を歌うのが大好きでした。


その、東の牧場主が、小さな小さな牧場を作ったばかりのころの話です。

東の牧場主が、道を歩いていると、一羽の『金の鳥』が、川で遊んでいるのを見かけました。

東の牧場主は、土手に座り、楽しそうに『金の鳥』を眺めていました。

すると、その『金の鳥』が近づいてきました。

いろいろな鳥たちの中でも、『金の鳥』だけは、人間の言葉を話せましたから、『金の鳥』は、

「やあ。東の牧場主さん」

と声をかけました。驚いた東の牧場主は、

「私を知っているのかい?」

と訊ねました。すると『金の鳥』は、

「もちろんさ。動物という動物たちが、みんな、東の牧場で、あなたと一緒に唄を歌いながら、幸せに暮らしたいと噂しているよ」


東の牧場主は驚きました。動物たちが噂しているなんて知らなかったからです。

「そうだったのか。もしかしたら、君も、私の牧場に来たいのかね?」

「そうさ。飼ってくれるのかい?」

「いいとも。大歓迎だよ」

こうして、東の牧場主は、一羽の『金の鳥』を飼うことになりました。

その一羽の『金の鳥』は、毎日のように「この牧場は、いいね」と鳴きました。

すると、一羽、また一羽と『金の鳥』が増えました。

『金の鳥』が増えるのですから、自然と『金の卵』も増えていきました。

そうして、東の牧場は、たちまち、大~きな大~きな牧場になりましたとさ。

西の牧場

『金の卵』は、にわとりの卵よりも割れやすく、あひるの卵よりも壊れやすく、うずらの卵よりも小さな、もろい卵でした。

『金の卵』を産む『金の鳥』も、臆病で、警戒心が強く、気分次第でどこかへ行ってしまう、せんさいな鳥でした。

ですから、鳥飼たちは『金の卵』を産む『金の鳥』を、大切に育てていました。

飲み水は、あるかな?

病気になって、いないかな?

神様が決めた安息日であっても、『金の鳥』が心配な日は、牧場へ行って様子を見たり、雪が降る夜でも、見回りを欠かしませんでした。


そんなに大切に世話していても、『金の鳥』は『金の山』へ帰ってしまったり、他の牧場へ行ってしまいます。

『金の鳥』が減ると、鳥飼たちは『金の山』へ出かけて行って、『金の鳥』をつかまえてきては、牧場へ放しました。

西の牧場には、たくさんの鳥飼と、鳥飼の見習いたちが働いていました。

『金の鳥』を世話するのは、鳥飼の役目です。

川から水を汲んできたり、鳥小屋を掃除するのは、見習いの仕事でした。

見習いたちは、いつか鳥飼になりたいと思っていました。

鳥飼になれば、もらえる『金の卵』の数が増えます。


牧場の一部を分けてもらって、自分だけの小さな牧場を作ることもできます。

いずれは、大牧場の牧場主になることもできます。

そんな鳥飼は、見習いたちの憧れでした。

しかし、西の牧場主は、なかなか鳥飼にさせてくれません。

西の牧場主が、一人前の鳥飼だと認めた見習いだけが、鳥飼になれました。

そんな牧場ですから、『金の卵』が欲しいだけの理由で働く者は、一人としていませんでした。

見習いたちは、鳥飼になろうと励み、鳥飼たちは、自分の仕事に、誇りと自信をもち、牧場や『金の鳥』のために、一生懸命に働きました。


ところで、西の牧場主は、どうやって「鳥飼にしてもいい見習いかどうか」をを決めていたのでしょう?

その答えは『金の鳥』が知っていました。

西の牧場主は『金の鳥』たちに、次は誰を鳥飼にしたらいいかどうか、聞いてから決めていましたとさ。

南の牧場

南の牧場主は、悩んでいました。

「うちの牧場には、千羽の『金の鳥』がいるのに、どうして『金の卵』は半分の500個だけなんだろう?1,000個で当然なのに」

そんなことを考えつつ、南の牧場主が裏庭を歩いていると、倒れている『金の鳥』を見つけました。、南の牧場主は、思わず駆け寄って、

「おい!どうしたんだ?しっかりしろ!」

と声をかけました。『金の鳥』は弱々しく、何か言いたげでしたが、ガクリと首を垂れて死んでしまいました。

南の牧場主は、『金の鳥』たちを集めて、どうしたことか、聞いてみました。

すると、驚きの答えが返ってきたのです。


「仲間の『金の鳥』たちの半分が山へ帰ったり、死んだり、他の牧場へ行った」

「残っている『金の鳥』たちは、飛べない『金の鳥』だけになってしまった」

南の牧場主が驚いて「どうして?」と、その理由を訊ねると、

「鳥飼たちの世話が、おざなり」

「見習いでも出来る世話しか、しない」

「鳥飼たちは『金の卵』が欲しいだけ」

「鳥飼たちが大切なのは『金の鳥』ではなく『金の卵』なのさ」

それが本当かどうか、今度は、鳥飼たちに聞いてみました。


すると、

「ちゃんと世話していますよ。もらえる『金の卵』の個数分だけは」

「牧場には、たくさんの『金の卵』があるでしょう?」

「もらえる『金の卵』の個数が少ないんですよ。もっと増やしてくれなきゃ」

「文句がある鳥は、他の牧場へ行きゃイーんですよ」

それを聞いていた南の牧場主は、悲しくなりました。

世間で『金の鳥』を短く「鳥」と呼ぶことはあっても、牧場関係者で「鳥」と呼び捨てにするのは、入りたての見習いくらいです。


普通は『金の鳥』と呼びますし、他の牧場の鳥飼たちは「鳥さん」と呼びますし、
はるか東にあるという黄金の国では「お鳥さま」と呼び、御酉様をまつる神社や、酉の市という祭りまであるくらいです。

それほど価値が高い『金の鳥』を、自分の牧場で働く鳥飼たちは、呼び捨てにしていたなんて。

しかも「文句があるなら、他の牧場へ行け」とは、なんたる暴言でしょう。

そもそも『金の鳥』は、鳥飼たちに牧場が世話を命じた「牧場の鳥」ですから、牧場の大事な財産です。

その財産を、ぞんざいに扱って、平気な顔して「もらえる金の卵の数を増やせ」とは、なんたる恥知らずでしょう。


南の牧場主は、悲しみの涙をこらえながら、

「お前たち、鳥飼の中で、『金の鳥』が、他の牧場へ行ったり、山へ帰ったり、死んでいなくなった数を、毎日ちゃんと確認していたのは、誰がいる?」

と聞きました。

「はい!俺は、確認していました!」

と答えた鳥飼は、一人もいませんでした。南の牧場主は、ため息をつきながら、

「この牧場で、もう一度、鳥飼の見習いから始めるか、それがイヤなら、他の牧場で雇ってもらうか、どちらでも好きなほうを選ぶがいい」

と言って去っていきました。


それを聞いた鳥飼たちは「ひどい牧場主だ」「無責任だ」と口々にわめきつつ、南の牧場を去っていきました。

南の牧場を辞めた鳥飼のうち、西の牧場へ行った鳥飼たちは、鳥飼のレベルの差に驚き、逃げるように、また他の牧場へ面接に行きました。

東の牧場へ行った鳥飼たちは、『金の卵』よりも『金の鳥』を大切にする風土に馴染めず、また他の牧場へ面接に行きました。

結局、彼らを受け入れてくれたのは、『金の卵』だけを欲しがる、北の牧場主でした。

北の牧場主と、鳥飼たちの波長は、ぴったり合いました。『金の鳥』が死のうが弱ろうが、彼らの知ったこっちゃありませんでした。

北の牧場から『金の鳥』がいなくなり、牧場がなくなったあと、北の牧場主と鳥飼たちが、どこへ行ったのか、その行方を知る人は誰もいませんでしたとさ。

金の卵と金の鳥

昔々あるところに、『金の山』と呼ばれる、それはそれは大~きな大~きな山がありました。

『金の山』には『金の鳥』が棲んでいました。

『金の鳥』は『金の卵』を産みます。

『金の卵』は、魔法の卵でした。

『金の卵』へ向かって、欲しいものを唱えると、『金の卵』は、欲しいものに変わります。

その魔法の卵を獲ろうと、たくさんの人たちが、山へ登りました。

ある者は、壁のような山を登りきれずに、落ちていきました。

ある者に、『金の卵』をあげるからといえば、その者は代りに『金の山』へと登ってくれました。


ある者が、獲ってきた『金の卵』を山から下りて取り出してみると『金の卵』はつぶれていました。

みんな、みんな、『金の卵』を欲しがりました。

しかし、『金の卵』を産む『金の鳥』を欲しがる人は、誰もいませんでした。

『金の鳥』を飼う牧場主が現れるまでは。

の牧場主は、こう言ったそうです

「金の卵は、使えば無くなる。しかし、金の鳥は、金の卵を産み続ける」

西の牧場主は、こう言ったそうです

「金の卵が足りないんじゃない、金の鳥が足りないんだ」

の牧場主は、こう言ったそうです。

「金の卵が先か?金の鳥が先か?そんなの、金の鳥に決まっているじゃないか」

の牧場主は、こう言ったそうです。

「金の卵は、腐らない。いくらあっても邪魔にならない。しかし、棺桶の中に入れることは、できなんだ」

                -おわり-

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