インターナル・マーケティング
甚(はなは)だ心もとない記憶ではあるが、確か、ホンダ技研の創始者である本田宗一郎氏の述懐だったと記憶しています。
「会社がデカくなるとさ、社会貢献すんのが会社の使命みたいな話になるんだけどさ、最初はみんな、自分が金持ちになりたくて独立するんだよね」
得たり! と思いました。ほとんどの創業社長の本音であろう。
とはいえ、伝説の経営者は、我利ばかりを追い求めない模様。拝金主義とは違います。
やりたいこと(成し遂げたい何かが)がある。それが社会に迎え入れられた時、大成功を収めてきたように思います。
一方の社員は、私財を投げ打ってでも、カネ儲けしたいとは考えない社員さんが多いかも知れません。だから就職するのでしょう。
板前さんのように、独立へ向けた修行かも知れません。
パイロットのように、やりたい仕事に就くためかも知れません。
個々の事情はどうあれ、創業社長と従業員では、働く動機の第一目的が根本から異なります。
当然、責任感に温度差が生じる。難しくいうと、アカウンタビリティの有無。
喩えば、DMを企画するとき、失敗して責任を問われるよりは、失敗しないで済むほうを選ぶのが従業員。安定志向です。
仮に、注文が殺到して、DMが大成功したとしても、儲かるのは会社であって自分ではありませんし、仮に自分の懐が潤うとしても、せいぜい金一封が関の山。
大した見返りは期待できせません。
それなら、成功するDMより、失敗しないDMを選ぶのが人情。責任を問われて、最悪クビになるくらいなら、最初から、原因の元を断つほうが賢明と考えるのは自然。
つまり、責任を取らされる恐怖が、金一封ていどの期待に勝っています。
一方の経営者は違います。儲けなくては給料すら払えませんから、失敗しないDMではなく、注文が入るDMを目指します。
「経営者だけではない、従業員も然り」との反論があろうかと思う。
では、そういう方々へ訊ねるが、自腹を裂いて、切手代を払ってでも
DMを出すでしょうか?
切手代や印刷代が、給料から差し引かれてでも、DMを出しますか?
応ならば良し。否なら、そこが、社長と従業員の違いです。
小さな会社の経費は、社長の私財も同然。必要ならば、借金してでも
切手代を払わなくてはなりません。その責を負うのも社長一人。
初代社長(あるいはそれに準じるマネジメント層)がコミットしない
DMに限ってジャンクDMになりがちなのは、アカウンタビリティの
有無に因ります。
※ジャンクDM=開封されずにゴミ箱へ捨てられるDM
話は変わって…
どこかの書評に「なんとかマーケティングは、コトラーやドラッガー
の焼き直しに過ぎない」と書いてあって、思わず苦笑したことが。
インターナル・マーケティングも、そのうちの一つでしょう。
正統なマーケティング(?)におけるインターナル・マーケティング
は、
「従業員のモチベーションやモラルが低かったり、態度が悪かったり
する会社の従業員が、どうして、満足なサービスを顧客へ提供できる
でしょうか?
対外的な(エクスターナル)マーケティング以前に、企業が内包して
いる従業員の充実や満足が必要不可欠である。つまり、インターナル
マーケティングが重要」
というコトラーのインターナル・マーケティングを踏襲しています。
そこから発生したのが、ES(Employee's Satisfaction):従業員
満足という考え方です。
では、私の唱えるマーケティングも、コトラーの受け売りに過ぎない
のでしょうか?
若干、異なります。
プラス・マーケティングにおけるインターナル・マーケティングとは、
人は人。万人平等
顧客は大事だけど、顧客以外は大事ではない…という差別は止した方
がいい…ということです。
従業員や業者には厳しく、顧客には甘く……とすると、業者が顧客に
なったり、顧客が業者になったら、どう対応するのだろうか?手の平
を返すのでしょう?
それこそ、人間性ならぬ、企業性を疑われてしまうでしょう。
か弱き婦女子であっても、拳銃さえ持っていれば、アントニオ猪木を
射殺できるのです。
今は弱い立場だからといって、虐げてはなりません。
かといって、過保護であってもならない。ESとは、従業員をチヤホヤ
もてはやすことではありません。
(このようなこと書けばまた「小笠原は厳しい」と非難されそうだが)
こき使って良いのです。
およそ、ボンクラ従業員に限って、何とかしてサボろうと、狙っています。
こき使う…というと語弊がありますが、優秀な従業員は、活き活きと仕事したがっています。活躍させてあげて下さい。思う存分。
ただし、期待以上の「こき使われた」見返りを用意しておかなければ
なりません。それは、給料だけではなく、役職ばかりでもありません。
要するに、仕事が楽しいと思える社内環境を整えるのもインターナル
マーケティングの一つでしょう。
最後に、本田宗一郎氏の言葉から、もう一つ。
「社長なんて、偉くも何ともない。部長、課長、包丁、盲腸と同じだ。
命令系統をはっきりさせる記号に過ぎない」
偉いのは従業員。一生懸命に働く従業員が 一番 偉いのです。