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二千一夜物語9

9. 図書館幻想 古代編
  想像を太古に運ぶ。
 私は書の番人になっている。この、地中海を一望する白亜の殿堂で、いつからかここに居ついた猫たちと共に、世界中から届いた書物の保管係をつとめている。
 いくつもの書庫の、いくつもの書架を私と猫たちは巡回し、いくつかの場所で巻物を床に広げる。中身が虫やネズミに食いかじられていないか調べるために。
 長く解かれていなかった封帯を解くと、黄金色の埃がぱっと舞い上がる。私の鼻孔はナイルの岸辺の匂いに満たされる。パピルスはそこに群生している葦の茎から造られる。
 紀元前三百年、時のエジプト王朝の最高権力者プトレマイオス一世は、アレキサンドリア図書館長デメトリウスに発令する。「この世のありとあらゆる書物を集めよ」と。
 特使が送られ、世界中の王国から本が届く。アレキサンドリア図書館は、すでにエジプト全土から集めていた七〇万巻のパピルス文書と、異国の言葉で綴られた詩や散文、医学、修辞学、魔術、歴史学の書物を加えて世界最大の図書館となった。
 だが、蔵書の歴史はまた焚書の歴史でもあった。

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