GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊-アイデンティティとは
先日"GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊"のデジタルリマスター版を映画館で観てきました。
田中敦子さんが亡くなった追悼上映というのが悲しいですが、改めて劇場で見られる機会を頂けたことに感謝です。
いつもは観た映画については軽いメモ程度のレビューまがいの内容を挙げてますが、今回は思い入れのある作品なので私見エフェクトを添えて思ったことを書こうと思います。
はじめに
そもそも攻殻機動隊とは
攻殻機動隊は士郎正宗原作の漫画が原作。今回話題にする映画を含めテレビシリーズでもアニメ化され、派生作品も結構多い。
舞台は近未来(現実がもうそこに近い年になってきてるけど)、人間が自分の身体を一部ないしは殆ど「義体」と呼ばれる機械部品に置き換えることが一般的になった世界で、テロや暗殺などの犯罪に立ち向かう公安9課(通称:攻殻機動隊)、特にリーダーである草薙素子の物語。
ポイントは"電脳"とよばれる、脳にマイクロマシンを入れて機械みたいにして高速で情報が処理できたり外部記憶に自分の記憶を置いたりと生身の人間より高度なことができるようになっている、そんな人がかなり多いこと。犯罪のレベルもかなり高次で、初見では時間の経緯や犯人の犯行方法の意味がわからんこともかなりある。
もうひとつ、そんな世の中であることから、作中の人物が"ゴースト"という言葉をよく使う。これは端的に表現すると"魂"みたいな、人間と機械を分つ要素。第六感みたいな無意識的なものも含むみたい。
個人的に謎だなと思ってるのは、作中で殆ど「攻殻機動隊」という単語が使われないこと。主人公をはじめ公安9課の面々は自分たちを"9課"と呼ぶし、外の人もそう呼ぶ。通称ってなんぞ?
ちなみにこの映画を最初に見たのはたぶん公開から1-2年経ったころ、WOWOWで父親と観ました。小学校低学年頃です。
分かるわけあるか!!
大人も当時分からんかったって評価下げとるんやぞ!
でも父は理解してたのかもしれません。それについて話をしたのか、解説を求めたかは覚えてないけど、既に彼はこの世にいないので確認のしようも無く。
登場人物
・草薙素子
→めっちゃスタイルのいいゴリラ系軍人。全身を義体化している。強すぎる、頭も良すぎるうえ、滅多なことでは取り乱さないメンタルを持つ最強の人物。でも結構脳筋ゴリ押しパターンを見せることが多い。そしてキレる時はキレる。
・バトー
→ほぼ全身義体化しているが、特に眼を軍用の高性能部品にしており豆皿が埋まったような感じになっている。9課の兄貴分で落ち着いているように見えるが、困ったら即暴力で解決するバーサーカー。ドライな人間が多い攻殻機動隊の世界の中では情に脆い方。
・トグサ
→電脳化はしているがそれ以外はほぼ生身の襟足長過ぎ男。刑事上がりの妻子持ち。軽妙なやりとりを見せるが作中一番視聴者に近い反応を見せる。
・イシカワ
→ゴリラのようなゴリラ。見た目に反して謎に諜報戦や後方支援担当が主。GHOST IN THE SHELLでは出番が少ないが、他のTVアニメシリーズではめっちゃメインキャラ。意外と面倒見がいい。
GHOST IN THE SHELLのあらすじ
今回言及するのは1995年に公開された押井守監督の映画版アニメ。アニメ化はこれが初で、当時は話題になったものの世間ウケはイマイチだったらしい。
物語では序盤に"人形使い"と呼ばれる凄腕ハッカーが他人のゴーストをハッキングして事件を引き起こすところから始まる。政府関係者が狙われたことで草薙素子はじめ公安9課がその犯人確保に動き始めるが、どうも捕まえたやつは実行犯ではあるが犯人は別にいる様子で、人形使いが捜査線に上がる。
そんな中、草薙素子や公安9課の義体を作っている高級義体工場で製造ラインが勝手に動き女性の義体を製造、そいつが逃げ出して高速道路で車にはねられ、損傷した義体は9課に持ち込まれる。調べてみるとこの義体には電脳が無いのにゴーストはあるという妙ちくりんな状況。拘束して調査を進める9課の研究施設に事情を知る6課の責任者がやってきて、どうもこいつが人形使いだと言うことがわかったが、同じタイミングで謎の部隊がそこに潜入・戦闘が発生、義体を持ち去られてしまう。
潜入の兆候に気づいていた9課がすんでのところで活躍、走り去った車輌を連携して尾行し、草薙は義体が運び込まれた廃墟に到着したが、待ち伏せしていた戦車と激しい戦闘になる。草薙は腕・足を損傷し、万事休すと思われたところにバトーが加勢し何とか人形使いを確保したところで、草薙は問題の義体が回収され政治利用される前にアクセスすると言い出す。
バトーがリスク回避のためにアクセス中のモニタリングをしていたが、それも虚しく草薙がアクセスした隙に直ぐ草薙の義体が人形使いにハッキングされ、草薙素子をストーキング注視していたことを告げ、融合したいと言い出す。本人曰く生きている人間から生まれたのではなく情報の海から派生した言わばAIの暴走体みたいなものではあるものの、「私は生命体だ」と名乗り、「でも生殖出来ないから不完全だ」、「私と融合することで子孫的なものを残せる」と言い出す。
なんと草薙はこれを受け入れるが、その瞬間に6課の回し者たちが2人を狙撃、人形使いは頭脳を破壊され、草薙は首を吹き飛ばされる。
場面が変わり、バトーのセーフハウス。草薙(?)は頭を幼女の義体に移植されており、無事目覚める。バトーは目覚めた草薙(?)と話し、その中で草薙っぽさもあるけど別の存在に生まれ変わったことが本人から示唆される。バトーは車のキーを渡し、人形使いの一件が"2501"と呼ばれていたことに鑑みてそれをパスコードにしていると告げると、草薙(?)は「私たちが再開するときの合言葉にしましょう」と言い残してセーフハウスを去る。
私見
自我とは?私は誰なのか?
え、人形使いめっちゃキモくない?なんか能書き垂れてるけど結局僕と合体してくださいっていうか合体しろって何それ?と思うのが率直な所ですが、茶化しは置いといて。
草薙が人形使いの提案を受け入れたのは、電脳化・フル義体化を施している自分は"自分だ"と言えるのか、どうやって草薙素子たり得るのかを疑問に思っていたからだと思います。
明確にそれを言語として吐露するシーンもありますが、象徴的なものとして劇中に彼女が非番の日にダイビング(っていうか上を見ながらただ沈む謎のアクティビティ)をやっている場面が出てきます。義体はめっちゃ重たいので浮上装置を着けてるんだけど、これが機能しなかったら沈んでいって死を迎えることになる。その点をバトーに「やばい兆候じゃない?」と指摘されつつ、適当に流します。要はちょっと死にたがりみたいな行動をとってるわけですね。安定しているように見えてめっちゃメンヘラみたいなことをしてるわけです。人形使いが「ネットに君の痕跡を見て興味を持った」とか終始気持ち悪いことを言うのですが、多分「自我_証明_どうやって」みたいなことを検索してた感じなんでしょうね(実際はもっと高度なことだろうけど)。
そんな状況の中、人形使いの提案が入ってきて応じてしまうわけですが、「変化しても自分は自分なのか」という問いを実行に移したのだと思いました。今の限界を超えてみたらどうなるのか、人形使いと融合して残るものは何なのかを見てみたい、閉塞感を打開したい好奇心が勝った感じなのかなと感じました。
自我の証明
巷でも言われる話ですが、夜寝て朝めざめたとき、「なんで自分が誰かわかるのか」は不思議だなとずっと思っています。"記憶"とかいうものを無意識に受け入れて信じてるけど、なんでそれが信用できるのかは正直わかりませんよね。
僕は睡眠を"一つの死"だと思っていて、寝る前の自分と今日の自分が繋がっているかは怪しいと常常思っています。マトリックスよろしく、誰かに感覚なんかを操られてる可能性もある。
昔はそんなことなかったかもしれないし、同じことを考える人がいたかもしれませんが、電脳化が進んで自分の能力が高まった攻殻機動隊の世界では更にこの感覚が強まっています。公職に就いている草薙は義体を定期的にメンテナンスしなければならず、職を辞す時は記憶も消去しなければならないっぽいので更に自我への信頼性は減ります。
否定する?受け入れる?他者や自分以外の存在と価値観
自我を保つ方法として、自分以外の存在を遠ざけることで確立する方法もあるかなと思います。自分が好きではない音楽、映画、その他カルチャーを「気に食わない」で遠ざけることで、それを良しとしない自分がそれとは違う存在だとすることも出来そうです。現に思春期的なムーブではそういう否定行動によって自分を保つ行動が見られることがあります。えぇ、経験もあります。
しかし草薙素子は劇中最後に、他者との融合を受け入れることを選択します。それは「変化する自分」を受け入れる、変化しても自分は自分足りうるという発想ではないかな、と思いました。
自分も昔は排他的で、音楽はオルタナティブロックしか認めない(それもそもそも概念がフワフワしてるというのは置いといて)と思っていた、それ以外のものを絶対に入力・受信したくないと思っていた時期もありました。
でも他の音楽やカルチャーに触れても、それを良いなぁと思ったとしても自分の根っこは変わらない。触れてみた結果吸収しないこともあるけど、そう選択することを含めて"違うものを触れて、受け入れる"ことをしても自我はあんまり変わらんと今は思うし、そういう成長の話として観るのも面白いのかなと感じました。コアなファンには安っぽい理解に映るかもですが、、
つらつらと書いてきてしまいましたが、30半ばを過ぎるまでGHOST IN THE SHELLをちゃんと見なかったことを後悔しつつ、今回チャンスを貰えて良かったなと思いました。
実はこのあとイノセンスも観たので、そこでもまた違う感覚・感想がありました。それもまた時間を見つけて書こうと思います。
追伸:
イノセンス書きました。良ければご覧ください。
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