【佐渡市地域おこし協力隊インタビューvol.9】松ヶ崎集落担当 宮嶋 麻生
『地域おこし協力隊』
その名の通り、地域おこしを考える団体に "協力する" 人を指すが、全国的に見てもその存在は勘違いされがちである。
移住者は、‟移住者” 以外の名前が欲しい。
宮嶋さんへのインタビュー後、そんなことを思った。
何かを頼みたい時、この話と言えば…。そんな時に思い出してくれたり、ちょっとした役割がコミュニティの中にあるだけで、移住者は嬉しいのではないか。佐渡市は移住者の定着支援に力を入れている。派手なものでなくていい。本当に必要とされているものは何か、見極めなければいけない。
「どんな人がいるの?」「何をしているの?」
このインタビューは、私から見た "地域おこし協力隊という職業を選んだ仲間" をただ知っていただきたいという自己満足の備忘録である。
私から見た、宮嶋 麻生というヒト
いにしえの街並みが残る湊町、松ヶ崎。
協力隊員の良いところは、隊員がいることをきっかけにさまざまな集落の魅力に触れることができることだ。失礼ながら、もし協力隊員でなかったら松ヶ崎の集落を数時間散歩することも、集落の方に生のニラをいただくこともなかっただろう。そしてこの松ヶ崎に隊員として、母として馴染み、魅力を伝えているのが麻生さんだ。
麻生さんの第一印象はどちらかというと母という印象の方が強い。協力隊の定例会議で松ヶ崎小中学校を見学した時には、家に帰りたいと泣く当時小学1年生の息子さんに手こずっていたようだった。自身の仕事、子育て、集落との関係、本当に大変だった3年間だったと思う。
麻生さんは柔和で笑顔の素敵な人だが、ここぞという時は本当に強い人だ。絶対に逃がさないぞという眼をした彼女から発せられる言葉は隙が無く、とても頼もしい。これからも、麻生さんの愛に溢れた挑戦を応援したい。
地域の中で他者と共に育ち合う
棚村:3月末をもって任期満了された宮嶋さん、まずは自己紹介をお願いします。
宮嶋:宮嶋 麻生(みやじま まい)です。台湾台北市生まれで、育ちは愛知県。両親が新潟県出身ということもあり、子どもの頃から新潟という存在が身近にありました。佐渡に移住したきっかけは息子ですね。息子のおかげで、愛知から出て佐渡に移住しよう!と勇気が出ました。
棚村:佐渡を知ったきっかけはなんだったのでしょうか。
宮嶋:新潟県内には両親の親戚があちこちにいるのですが、ある日佐渡で二拠点生活をしている叔父が遊びに誘ってくれたんです。息子と一緒に遊びにいったら、息子が「帰りたくない!」と泣くくらい佐渡を好きになってしまって。それから数回佐渡に下見をしてから移住を決めました。
棚村:多世代コミュニティの暮らしに魅力を感じる宮嶋さんにとっても、佐渡は魅力的な場所だったのでしょうね。
宮嶋:子どもを授かって『森のようちえん』で様々体験させていただき “地域の中で他者と共に育ち合いたい” 、”いろんな価値観の中で認め合ってごちゃ混ぜで暮らしたい"という気持ちが膨らみました。ごちゃ混ぜって本当に大変ですけどね…(苦笑)。 実はオーストラリアのタスマニア島も移住先の候補にあったんですよ。
棚村:タスマニア島!? すごい二択だったんですね。
宮嶋:「お醤油貸して下さいな」って声かけ合えるような田舎が良かったんです。 昔ながらの風習があって、人生の先輩や仲間と助け合って、してもらったことをお返しする循環の中で生きていく方が気持ちいいなって。コロナ渦真っただ中の2020年には渡航制限のギリギリ前に滑り込み、タスマニアで大家族とのごちゃ混ぜ農業暮らしを5か月間体験しました。
自分が体験してみたかったのありましたが、息子が小さいうちに『家族の形、暮らし方って色々あるんだよ』ということを知ってもらい、いろいろな価値観に触れることで一緒に世界を広げたかったんです。『多世代コミュニティの暮らし=個々の暮らし方を尊重しながら混じり合う生活』なので、その生活が息子にとってストレスの無い生活かどうかを試す気持ちもありました。
棚村:そんな体験をした上で、佐渡に住むことを決めたんですね。
宮嶋:タスマニアの生活ももちろん魅力的だったんですが、森のようちえんで学んだこと、タスマニアで感じた事を大切に、空気も水も綺麗な所にいたいと思って移住しました。
タスマニアで旅人と佐渡の話で盛り上がったりもしました!佐渡はlittle Japanだ!って。「麻生がいる佐渡に遊びに行くからね」と言われるのは嬉しいですね。台湾、タスマニア、佐渡...。島と何か縁があるのかもしれません。(笑)
ひとりひとりが出来ること、やりたい事を
棚村:宮嶋さんは任期途中で活動内容が変わっているんですよね。
宮嶋:入隊から1.3年は『子どもの元気は地域の元気プロジェクト』担当として、その後は『松ヶ崎街並み検討特別委員会』担当として1. 9年活動しました。
棚村:隊員としてはイレギュラーですよね。
宮嶋:そうですね。 『子どもの元気は地域の元気プロジェクト』では、松ヶ崎島留学への問い合わせの対応や、『放課後こども教室』の開催などをしていたのですが、正直 “移住者でしかない” という疎外感がずっと あって。一時期は佐渡にもういられないと考えたこともありました。
棚村:暮らしや仕事での違和感は、生活していく上での大きなストレスになりますよね。
宮嶋:そんな時に、こどもプロジェクトの方から『松ヶ崎街並み検討特別委員会』へ異動できないかという提案をしていただいたんです。その時は、もう帰ろうと決めていたのでとても驚きましたが、今となっては感謝の思いです。
棚村:松ヶ崎街並み検討特別委員会ではどんな活動をしていたのでしょうか。
宮嶋:『松ヶ崎の街並みの保存活動』をはじめ、『空き家の利活用』や『松ヶ崎小中学校移住者のフォロー』などに携わりました。松ヶ崎 島留学新聞『松の子新聞』も作成しましたね。大学生や海外ボランティア団体の受け入れも…。学びが多く、様々な体験をさせていただきました。
棚村:大変そうですが、やりがいもありそうですね。
宮嶋:移住したご家族とお話をして、地域のひとたちとの間に入って新しい関係性を作ったり… とてもやりがいがありました。ソフトな部分をケアするのは、自分の得意な部分です。地元地域の皆さんや移住した皆さんと交流させていただき、その中でやってみたい事やこうだったらいいな〜という想いを伺って実現していくプロセスも好きです!
また、子どもと保護者、地域の方や学校の先生が自然に行き交う場として放課後子ども教室が生きてきています! 放課後の子どもたちの居場所がある、またその場所を自らが守っている、共に作っていると思うと、移住して地域の方にしてもらうばかりではなく、少しは役に立っているのかな…と感じたり、「いつもありがとう!ご苦労様」なんて言葉をいただけると、皆さん笑顔が溢れています!
移住希望者増! でも住宅が足りていません!
棚村:そもそも『松ヶ崎街並み検討特別委員会』とはどんな団体なのでしょうか?
宮嶋:簡潔に言えば “今いる暮らしを保存していきたい団体” です。松ヶ崎集落は観光客にいっぱい来て欲しい!というよりも、今ある暮らしがずっと続くよいいよねという気持ちの方が多く、そのためSNSなどでの発信も積極的にはしていません。現在は主に『空き家の利活用』に注力していて、家の価値を家主さんに伝えて、改修し、島留学で来られたご家族が住むところに困らないようにと活動しています。
棚村:宮嶋さんから聞いているだけでも、松ヶ崎への移住者はかなり増えたように感じます。
宮嶋:松ヶ崎集落への移住者は2024年現在、5家庭11人の子どもたちで賑わっています。ただ、注目される機会も増えていく中で、集落に移住を希望された方が住む家が無かったり、選べないという問題も出ています。
地道な話し合いや、ガイドブック(お手紙)の作成などを続け、2024年までにリフォーム必須だった5軒の空き家を改修から入居まで完了させたことは、街並み検討特別委員会の皆さんのこれまでの関わりの強さ、地道な声掛け、また、行政に頼らず、「自分たちで出来る事は自分たちで動き、自分たちで守るんだ!」という街並みを守りたいという熱意があってこその賜物だと感じます。
棚村:5家庭はすごい! 松ヶ崎がそういった取組みに協力的な集落だということが伝わってきました。ここ近年で、かつて地域活性化の交流拠点として集落の有志で立ち上げた場所を、移住者が借りてお店をオープン(継承)しましたし、これからも移住者が増えていく予感がしますね。
子育てにおすすめの松ヶ崎を
『行きつけの田舎』に
棚村:息子さんの子育てのために、という理由から選んだ佐渡での生活ですが、3年経った今、どう思われますか?
宮嶋:佐渡での子育ても生活も、おすすめです! 空気や水がきれいで自然が豊かというのはもちろんですが、佐渡には面白い人がいっぱいいます! 小さそうで大きいこの島に佐渡が大好き!最高!という理由で集い合い、のびのびと暮らしていることが気持ちが良い。
「ココに幸せを感じるんだ~!」という新しい価値観との触れ合いが毎日のようにあるのに、それぞれが邪魔をしていないこの感じが楽しいです。また、そんな外からの人を受け入れてきた佐渡の人たちの市民性、広さ、あたたかさに感謝感謝です! 子育てとか生き方に少しモヤモヤしている方はぜひ一回遊びに来て欲しいですね。
棚村:3月末で退任されましたが、今後はどのようなことを計画されているのでしょうか。
宮嶋:街並み検討特別委員会に協力者として関わっていくことと並行して、民宿業を計画しています。人って関わりがあるから幸せを何倍も感じられると思うんです。子育てにおいても、「〇〇くんは△△な子だったよねー」「あの時はよく頑張ったねー!」と何年経ってもおしゃべりできる人が1人でもできると、1人で抱え込まずにいられる。嬉しいことも悲しい事もそんな風にできるといいなぁって思います。
両親と子ども…そこに祖父母やママ友。近所のおじさんおばさん…お兄ちゃん、お姉ちゃん。お店のおっちゃん…。みんなで子どもを見守っている感じがとても幸せです。本当に感謝の想いでいーっぱい!
近所の人や学校のママ友とも少し違う私たちに会いに、佐渡に『行きつけの田舎』として遊びに行く。そんな家族・地域・自然が混じりあう場所で、佐渡や松ヶ崎の魅力を提供していきたいです。
棚村:『行きつけの田舎』、とっても良いワードですね! 最後に、地域の一番好きなスポットを教えてください。
宮嶋:たくさん好きなスポットがあるから迷っちゃいますが… 冨井ファーム!とっても素敵なご夫婦が経営させていて柿も幸せそう!そして冨井ファームから見える新潟と海! 景色と併せてお気に入りスポットです♡