【佐渡市地域おこし協力隊インタビューvol.7】宿根木集落担当 菊池 猛
『地域おこし協力隊』
その名の通り、地域おこしを考える団体に "協力する" 人を指すが、全国的に見てもその存在は勘違いされがちである。
人が人を呼ぶ。
そんな現象を移住して2年半の中だけでもたくさん見てきた。そのまた逆も然り。義理人情の欠片も無い行為を間近に見て、未来を描くことなんてできるのだろうか。
「どんな人がいるの?」「何をしているの?」
このインタビューは、私から見た "地域おこし協力隊という職業を選んだ仲間" をただ知っていただきたいという自己満足の備忘録である。
私から見た、菊池 猛というヒト
今回のインタビューを終え、菊池さんはやはり燃える心の持ち主だと確信した。かなり読み応えのある記事になったため、そう感じた理由については記事本文で感じて頂きたいところではあるが、とにかく、ブレない熱量のある人だ。
菊池さんと話している際、時折、メラメラとした野心の炎に触れることがある。野心と言っても決して独りよがりのものではなく、今困っている身近な誰かから幸せにしていくという、愛を感じる野心だ。また、その野心を実現するまでの厳しい過程すらも楽しんでいるようで、堅実さを感じる背中から、夢を叶えるためには地道な努力の積み重ねが大切だと改めて学ばされた。
自然豊かなところで仕事をするのが夢だった
棚村:協力隊インタビューも6人目になりました! まずはじめに、自己紹介からお願いいたします。
菊池:宿根木集落担当の菊池 猛(きくち たけし)です。東京都東村山市出身。東京辻エコールキュリネール国立フランス料理専門カレッジを卒業後、19歳からずっとフランス料理畑で育ちました。
棚村:佐渡に移住され、佐渡市の地域おこし協力隊として働く以前は神奈川県の川崎市にお住まいだったと伺いました。
菊池:そうですね。24歳で料理長に就任してからは平塚市、川崎市と神奈川県内でシェフとして様々な活動していました。
棚村:佐渡には何をきっかけに移住されたんですか?
菊池:ちょうど新型コロナウイルスが蔓延する1年程前だったでしょうか。脳動脈乖離という病気になり、1年間の療養が必要となったんです。病気になって決心がついたというか。昔から食材がたくさんある自然豊かなところで仕事をするのが夢だったので、佐渡はぴったりな場所だと思い家族3人で移住しました。
棚村:縁の無い場所への移住はかなり思い切った決断だったと思いますが、なぜ佐渡の宿根木で地域おこし協力隊になろうと決めたのでしょうか?
菊池:協力隊という制度を調べた時、今まで自分が行なっていた地域活動そのものであり、自分の将来の夢のための良い準備期間になると思ったからです。移住者が地域に溶け込むためにも良い仕事だと思ってます。
宿根木を選んだ理由は、古民家が好きだったから。それに、自前の文化がある事、アカデミックな一面がある事、宮本常一による鬼太鼓座をはじめとする鼓童との関わり、海岸が護岸されていない事など…
移住して3年目になりましたが、今思えば宿根木集落の性格に合っていたと思いますね。
福祉の道に出会う
棚村:協力隊プロフィールページの一言にも「料理と福祉で町をもっと元気にします!」とあるように、菊池さんの活動の軸は『料理』と『福祉』からブレることが無いように感じます。この『福祉』の部分に注目した理由はなんだったのでしょうか。
菊池:料理人の僕がなぜ『福祉』を、という部分については、ふたつの体験が関係します。ひとつ目の体験は『COCOFARM & WINERY』の収穫祭です。COCOFARMさんは、栃木県足利市にある指定障害者支援施設「こころみ学園」が山奥で開墾してできたワイナリーです。既にこのワイナリーは世界レベルでも有名になっているのですが、この収穫祭への参加が料理×福祉を考えた一番の動機です。
菊池:収穫祭では畑の真ん中で障がい者の人たちも、若い人たちも、都会から来た人も、外国人も、1万人くらいの人たちがワインを飲んでいました。そのうちに、会場の舞台で地域のおかあさん達がフラメンコダンスを踊り始めたんですね。続いてコックコートの料理人や観客が踊り始めて。最初はただ楽しそうだなぁという気持ちで見ていました。
最後に障がい者の人が踊り始めた時、フラメンコダンスを真似て踊る健常者とは全く異なるものになっていたんです。僕らの思っているものの世界観に収まらない彼らの自由さと、それを認める人がいるということを瞬間的に感じた時に涙が出てきてしまって。いつかこういう人たちと、同じ価値観の元に世の中を一緒に動かしていきたいと思ったのが福祉に注目したひとつめの理由です。
棚村:お話を聞いているだけなのに、なぜかその情景と衝撃がありありと伝わってきました。ふたつめの理由もお聞かせくださいますか?
菊池:収穫祭の後、福祉について本格的に勉強をし始めた時、元自由学園の先生で、共働学舎から『新得(しんとく)農場』を始められた方の存在を知りました。今では作られたチーズが世界レベルで評価されるようになった新得農場ですが、その先生の行っている壮大な話に感銘を受けたんです。
菊池:自分が目指すべき姿はこういう姿なんじゃないかとおぼろげに思いながら、福祉の道に走り始めました。そんな話を川崎のレストランで話していたらお客様の男性に「それなら菊池さんにお願いしたい仕事がある」と名指しで話しかけられたんです。
棚村:なんだか運命の出会いの予感…!
菊池:「お店の近くにある障がい者施設の野菜やハーブを使ってよ!」と話を持ち掛けられました。後々知ったのですが、その方は農政課の局長さんで。そんな引き合わせもあって、その翌年には「農園フェス」を開催することができました。施設で採れた野菜の収穫祭というCOCOFARMさんの真似事から始め、少しずつオリジナリティも出しながら2012年から8年くらいやっていました。
棚村:菊池さんの熱量がカタチになった瞬間ですね! お話を聞いていると、福祉に出会う前から料理にかけあわせる何かをずっと探していたように感じ取れました。
菊池:フランス料理人になってから、その敷居の高いところで窮屈さを感じていたんだと思います。社会的には地位の高いフランス料理人だけれど手取りは少なく、毎日相手にしているのはお金持ち。なんだこの格差はという違和感がずっとありました。
棚村:料理人として働くことに対しての違和感と悩みを、料理×福祉という価値観が救ってくれたんですね。
菊池:そうですね。福祉に出会う前も、若い時からずっと様々な倫理観について向き合ってきました。環境問題に対して自分達料理人はなにができるんだろうという "社会に対する倫理観" や、食材の大量消費・販売をする外食産業従事者=悪い存在だと思われることから考える "自分たちの職業に対する倫理観" など…。
障がい者や福祉は、僕ら料理人の職場には関係の無い遠い存在と思われがちですが、ノーマライゼーションという考え方としては、最終的にはこういう人たちを救わないと僕らも救えない、僕らも変われないという倫理観・価値観の中で、色々活動しています。
数字として結果を出す!
棚村:森林保全活動にも参加されるなど、人に対しても自然に対しても "循環" を大切にしているように感じます。それにしても菊池さんはこの協力隊任期中、本当に色々なアクションを起こされていますよね!
菊池:元々宿根木集落は自治会から新規就農者として農業のお手伝いを募集というものだったのですが、「料理と福祉で宿根木集落を活気づけます」とプレゼンをして一番初めに断りました(笑)
棚村:自治会の方も困惑されたでしょうね(笑)
菊池:農作業のお手伝いも少ししていましたが、自治体もどうして良いか分からず宙ぶらりん状態の中、『宿根木を愛する会』を法人化しようという動きがあり、そちらにお声がけいただきました。宿根木を愛する会の会員は9割以上が高齢者。法人化と言ってもどうしたら良いか分からない、という部分を主に手伝いました。
棚村:高齢者では無い私も苦手分野の領域です…。
菊池:法人化した後も「お金が出るばっかりで法人にした意味が無いじゃないか!」という声に対して、法人化した意味や、今後のマネタイズについての説明を続けています。そうやって意見を紐解いていくと「俺はもっとこうしたほうがいい」と個人レベルの意見がようやく出てくるんですよね。元々集落の方が持っているアイディアなので、その想いを逃さず会報誌やふるさと納税返礼品などの目に見えるモノにしていることも、協力隊としての活動の一部です。
菊池:皆もそうだと思うのですが、協力隊としての3年間の任期中にできることってほんの僅かですよね。集落の受け入れとなると何をやっていたかを証明することも難しかったりします。その中で僕は、自分自身がこの期間の中で必ず証明したいことを "数字" として残せるように活動しています。
棚村:こどもレストランもそうですか?
菊池:そうですね。来場者数もそうですし、佐渡産の小麦のPRのためにピザを作っているのですが、実施数、販売数、使用量を数字として記録しています。だからこそ「協力隊レベルのPRなんてたかがしれてるでしょ」なんて言われても「1トン以上使ってますけど?」と胸を張って答えられますよ。自慢話になるので自らは言わないですけど、その分野に置いてのプロの方や地元の事業者さんに対してはプロとしての会話ができないといけないですから。
棚村:最終的な数字としての報告を楽しみにしています! 数字として見せたい目標は他にもありますか?
菊池:宿根木を愛する会で手掛けている空き家や移住者の数字もそうですし、『海苔作り体験』など観光の部分も数字を出していきたいですね。
棚村:協力隊員もお試しで体験しましたが、初めての海苔作りはワクワクしました!
菊池:体験観光やウェルネス観光にずっと着手していたのですが、佐渡観光交流機構さんとの共催で沢崎での海苔作り体験を2回開催し、今年は海苔から離れた沢崎灯台のパッケージを企画しました。海苔の時期が冬なので、来年の2月が最後のチャンス。ふるさと納税の返礼品として出す海苔の販売数なども含め、数字で表せたらと思います。
地域福祉は「学びの場所」
棚村:様々な事業を手掛けている菊池さんですが、任期中、特に記憶に残っていることは何がありますか?
菊池:やっぱり一番は『空き家掃除』ですね!あれはエグい。現在までに宿根木集落で2棟の掃除を行ったのですが、1棟あたり4トントラック3台分のゴミが平気で出るんです。いつ作ったか分からない梅酒や、化石化した漬物、布団と引き出物のミルフィーユなど…。 皆がやりたがらない理由がよく分かりましたね (笑)
棚村:聞いているだけでぐったり(笑)
菊池:ただ、また掃除の仕事を任された時にやらないかと言われたらやりますね。掃除の中で最後に住んでいた人の人生観が分かる貴重な経験であると思います。
棚村:協力隊退任後の今後の予定について教えてください。
菊池:今年立ち上げた『一般社団法人 しなしなやらんかや』を具体的な形にしながら、引き続き地域福祉活動をベースに活動していきます。大学との連携も予定中です。
棚村:菊池さんにとって "地域福祉" とはどんな存在でしょうか?
菊池:地域福祉は「学びの場所」だと思っています。学校に近い存在をつくっていきたいですね。その点において連携によって大学生が来るっていうのもドンピシャですし、子どもが働きに来るのもドンピシャ。鼓童さんとも連携して、音楽を学ぶ方に食も学んで頂ける場所を提供したいです。
棚村:宿根木集落内で菊池さんがシェフとして腕を振舞っている『お料理あなぐち』は学びの場所としてどういう風に活用されるのでしょうか?
菊池:先ほどお話した倫理観に基づき、『お料理 あなぐち』をただの大量生産・大量消費をするだけの場ではなく、たくさんの人のための研修の場になるように証明していきます。たくさんのお客様が来るということは、たくさんの人を雇用することができます。研修の場として開放することで、レストランをチャレンジができる学校のような存在にしていきたいですね。
棚村:最後に「地域の一番好きなスポット」を教えてください!
菊池:宿根木集落内を流れる『称光寺川』です! 集落の一番奥にある称光寺というお寺から流れている小川なのですが、農機具を洗ったり、畑の水として今も使われている称光寺川が大好きです。
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協力隊・個人事業主としてやりたいことの8割を達成したと話した菊池さん。夢の続きをこれからも応援します!