一足お先に!白内障・術後記〜ワンタンスープと晴れた空
人間って、見ることで得る情報が一番大きいから、見えなかったのが見えるとそりゃあもう、すごいんですよ。わたしがそれです。白内障の手術をしたのです。
えっ、もう?
よほど進行した白内障だったんだねって?
そんな歳でもありませんのよオホホ。でも、加齢変化に加え、長年のアトピー性皮膚炎による白内障がきたため(そしてアトピー性の白内障は進行が速い)手術に踏み切った次第。
だけど、それが良かったのー!
濁った、そしてど近眼仕様の水晶体が取り去られ、目にピッタリ合った、新しい人工眼内レンズが入ったことで、人生初と言っていい、真っ当な裸眼視力を手に入れてしまったのですよ。
小学校3年生からメガネをかけていたわたしが。両目でも0.03だったわたしが。コンタクト入れてもやっとこさ0.9、そして常にものが二重に見えていたわたしが。今や裸眼でクッキリ1.0から1.2見えます。
革命だ。
見えるぞ!わたしにも〇〇が見える!となったのは、月曜日に右目、火曜日に左目を手術して、水曜日からです(それまでは眼帯で覆われていたため)。ちょうど晩秋、猛暑のため遅れていた紅葉がやっと山のふもとまで降りて来て、そこらじゅう赤や黄色に美しい時期。わたしは見慣れたはずの道端に佇んで、言葉を失っておりました。山の上の方の葉が、陽に照らされて、風に吹かれて、キラキラ光ってるのが全部見えるのですよ。風そのものすら、見えそうな勢いです。それは術後2日めの診察が済んだところで、「まだ散歩は控えてくださいね」「運転は2週間しないこと」「顔を濡らさないで。洗髪もダメです」と言われたばかり。がっちりした保護メガネもかけるよう言われて、割に少年顔のわたしは哀川翔みたいな顔になっており(夫に言ったら鼻で笑われたけど)、すれ違う人はまずびっくりしたと思います。しかしあまり世の中が明るくて美しくて、つい、足を踏み出してしまったのでした…。
まず立ち寄ったのは通り沿いの美容院。初めて入る店。もう3日洗髪をしておらず、なんとかしてこの頭をサッパリさせたい欲が抑えられませんでね。はっきりとタバコの香りがするその店は、70代らしき女性、オカアチャンの貫禄のオーナーが一人で切り盛りをしているようで「あらぁ!手術したところ?どうぞどうぞ」全部悟った上で、シャンプー台へわたしを誘ってくださいました。 ガッシガッシと熱めのお湯で力強く洗い、トリートメントを施し、入念なマッサージも追加、ふわふわにブローしてくださった、お題は2200円(後で調べたら近隣のお店の中で最安値)。店を出たら、相変わらず周囲は大変美しく、そして頭が軽くて良い匂いがすると来たもんです。嬉しくて嬉しくて、また歩く。コンビニに寄ってPayPayとICOCAにチャージ。また歩く。 時刻は11時。なんとなくお腹が空いてきて、あっ、もう少し歩いたら、お気に入りの水餃子のお店があるじゃんと気がつきました。…あと10分くらい歩く距離だなぁ。叱られるかなぁ。 なんで歩いていけないかというと、
・手術の傷は、縫われていない→衝撃を与えると傷が開いて、そこから細菌感染する
・新しく入れた人工レンズが、まだ目の中でちゃんと落ち着いてないかもしれない。わたしに入れてもらったレンズは乱視対応なので、ずれると見え方が損なわれる。
…というところかな。病院では、あまり細かく理由を説明したり、念を押したりされなかったのです(まさか注意事項に背くわけないだろう、と患者を信用してくださってる)。 しかし綺麗な明るい世界に手招きされているのですよ。今更バスに乗るとかありえない(後日バスに乗ったら乗ったで大感動したのはまた別の話)。そのまま10分歩いて、通り沿いの水餃子のお店にゆきました。ここは店主が中国の方、皮も中身も手作りの水餃子が絶品。…あ、あったかいスープものが食べたいな。でもラーメンって気分じゃないな。そうだワンタン食べよう。 ワンタンも手作り。むっちりしっかりした皮に、たっぷり中身。それが醤油ベースのスープに10個浮いていて、小鉢におかずもいろいろついてくるの。ご興味あったら、ぜひ晴れの国へ。ご案内しますよ!
お腹いっぱいになって店を出る。店から自宅までは、歩いて15分程度。「15分くらいの散歩なら、術後オッケーって書いてあったな?(術後二日、ではなかったと思うけど)」ここからは峠を抜ける上り坂。ちょっと寂しくなる道。しかし、道の上に差し伸べられた枝はどれも鮮やかに紅葉していて、お昼前の日差しがその表で跳ねていて、もう本当に美しくて、やっぱりバスになんか乗れなかったのでした。
結局20分歩いて無事に帰宅。薬局で渡された目薬を2本ずつ両目にさして、とりあえず、見え方に異常のないことを確認し、心配しているであろう夫に「診察の結果順調」の旨を連絡、何「食わぬ」顔で。オホホホ。
世の中、いいことばっかりじゃない。人生楽ありゃ苦もあるさ。
遠くはすごく見える。しかし、手元が見えなくなったのです。
人間のレンズ、水晶体というのはすごくて、意識しなくても膨らんだり伸びたりして、見たいものに素早くピントを合わせることができました。ローガンが来た来たとは言っても、やってくれていたのですよ、人体は素晴らしい。しかし、人工のレンズはそうはいかない。多焦点(遠方、中方、近方)のレンズもあったのだけど、わたしの目には合わないものだったので「遠い方に合わせるか、近い方に合わせるか」を悩んだのち、遠い方に合わせる決断(つまり近くを諦める決断)をしたので、冒頭のような「ニュータイプに覚醒したシャア」みたいになったわけですわたしは。
スマホの文字。PC。そして新聞。このシーズンはいつも手元にある編み物。そして、音楽が趣味の自分は楽譜。これが見えない。あと、食事をするのに、お椀のご飯粒がぼやけて見えます。
でも世の中何とかなるもので、先日夫からもらった「メガネ型ルーペ」と、何年か前の「生活のたのしみ展」で買ったzinsの老眼鏡がぴったりであることがわかりまして。割とご機嫌に過ごしております。ご飯も老眼鏡かけて食べてます。おかしい?
「白内障を治療すると、鏡を見た時に、自分の顔のシミに気がついて愕然とした」とのお姉様方の声をよく聞くのですが、わたしの場合愕然としたのは、我が家の風呂場の汚さでしたよ。ウチの家族、全員近眼。風呂に入る時、メガネを外すから全員裸眼。風呂掃除は息子たちの当番で、割としっかりやってくれてます。でも、見えない目で汚れを十分見るのは難しいものねえ。術後1週間経つのを待って、重曹とクエン酸を手に風呂へ乗り込み、小一時間かかって風呂掃除をしました。ハァスッキリ。
もう一つ、「見える!」について、先週すごく感動したのです、星がアホほど見えるようになったことでしたよ皆さん。
ふたご座流星群を見ようと、庭にシートを延べて、厚着して仰向けになったら。なったら。今まで見たことのない数の星が頭上に輝いておりましてですね。冬ですから、オリオン座、おうし座、ぎょしゃ座、それは見えます。でもそれ以外、暗い星で構成されたうさぎ座とか山羊座とかが。あと、おうし座の肩のところにある「すばる」の星々が、一つ一つちゃんと見えるのです。流星群自体は1時間に5個くらいしか見えないのだけど、星が見えすぎて、嬉しくて、全然苦にならない。退屈でもない。それどころか、うわああ、うわああ、って声にならない声をあげながらずっと空を見ていました…
夫が呆れて「まだいるの。風邪ひくよ」とわたしを叱りましたが「だって、すごく見えるんだよ…」と顔をくしゃくしゃにするわたしに、仕方ないなという顔をしつつ「よかったね手術して」と言ってくれました。
目の手術をするのは、正直怖いことであったし、術後見えなかったらどうしよう、という漠然とした不安もありました。そして、人工のレンズで生きていくのは、大げさーーーにいうと、「999の星野哲郎がついに機械の体に置き換わる決断をする」に近い、これからは見ることを人工物に頼るわたしに生まれ変わるんだという、大きな決心の伴うものでもありました。
今回はたまたま大きな有害事象に当たらずすみ、どうやら術後の合併症や感染症も避けえたようだけど、人によっては、思いもよらぬ不自由や予期せぬ不都合に当たることもおありでしょうけれど、
白内障の手術というものは、「馬には乗ってみよ、人には添うてみよ」「案ずるより産むが易し」だなあと思った次第です。ハラハラした家族や、手術日と術後にご飯を作って運んでくれた両親にしてみれば「もうええ加減にして」かもしれないけどー。(ありがとう!!)