ずっと歌ってた。15年前の、たそがれどき
長男も次男も、よく泣いた。良くもまあ、体力が続くねと思うくらい泣いた。ええ勿論、彼らが赤ちゃんの頃の話だ。
抱っこして、揺すりながら背中をトントン。柔らかく頼りない体をつっぱらせて泣いていた子が、だんだん静まって、いつかスゥーと眠りに落ちてゆく。
が。
世の中そんなに甘くない!!!
特に長男は寝ない子太郎で、泣き止まないキングで、育児初心者のわたしの心を折る名人だった。乳児時代はずっと抱いてトントンうろうろしていた気がする。
ただトントンでは、わたしも飽きる。
そこで編み出したのが、「延々歌う」だった。
子守唄というものが古今東西にある。落ち着く旋律、やさしい歌詞。もちろんそれを歌うのはとても良いと思う。私たちの母も歌ってくれた。母は声楽を専門に修めた人だったので、ドイツ語で「シューベルトの子守唄」「ブラームスの子守唄」だった。今でも「シュラ〜フェ〜」って思い出せるよ。妹は大人になってこう言う、「大音響で、耳元でさー。あんなんで眠れるわけない」次女とはクールで容赦ない生き物である。
子守唄はすぐ終わる。だから延々繰り返して歌う。それでは飽きる。わたしは飽きっぽい母であるようだ。そこで、「何番もある長い歌を歌えばいいじゃないか」に辿り着いた。
あるある。昔、音楽の教科書で見た曲が、いろいろ。
1)雨ふりくまの子
情景が浮かぶ可愛らしさ。物語の主人公にも共感愛着が持てる。「おかあさんといっしょ」でも雨の季節を中心に時々歌われていて、これからもずっと子供の近くにある歌なんだろうなあ。雨でお出かけできない日は、よくこれを歌っていた。
2)あわて床屋
北原白秋作詞、山田耕筰作曲。すごい。大名曲じゃないか。これはテンポが良くて、歌っててとても楽しい。美容院へ行った時、ハサミの切れ味に毎回感心してるけど、耳をスパンと切ることだって…なきにしもあらずかも。でも自慢のお耳を切られたら嫌だなあ。事故ならいざ知らず、故意、しかもジャマだからって!ところでお気づきですか、落ち着かせること、寝かせることを、諦めた選曲であることを。だって寝ないんだもん。もう一緒に遊ぼう!
3)待ちぼうけ
中国の故事、「守株」から着想された歌。これもさっきの「待ちぼうけ」と同じ、北原白秋アンド山田耕作ペアによる名曲だ。高校生の頃、漢文の先生は一切符号のない、白文で漢文を読めって言ってたなあ、とか独特の口癖があったなあとか、懐かしく思い出しながら歌っていた。それから、大学生の頃コーラスのサークルにいた時に定期演奏会のプログラムに入ったことのある曲でもある。その時は、5番を短調で物悲しく、しかもテンポを極端にゆっっくりにして切々と歌う編曲になっていた。で、今でもその通りに倣って歌っている。ノスタルジー。
はい、この歌も子のためというよりわたしのために歌っていた歌。
4)あわてんぼうの歌
わたしは飽きっぽい上にアワテモノである。ドドドと階段を駆け上がり、2階について、「はて、何しにきたんだっけ?」などということはしょっちゅうだ。だから、このアワテモノくんには「そこまでは、ないわー!」の点でとてもわたしを安心させてくれる。テンポもリズムも好き。寝かせる気は、失せています!
5)ゆりかごの歌
久々に、ゆったり可愛い曲。しかも、「ねんねこ」ですよ。子守唄ですよ。ストーリーはないかもしれないけど、ゆりかごの周りでカナリヤが歌ったり、木ねずみが来てゆすってくれたり、黄色い月がかかったり、一つ一つが絵のようにうつくしい。それにみんなが、ゆりかごで眠る子にやさしい。好きだ。今でもそっと歌ってみることがある。
ところで木ねずみって、どんなねずみ?