春になると
桜が散って、すっかり暖かくなりました。
ようやく新革が打てる時期になったと喜んでいます。
小鼓は組み立て式の楽器で、胴と二枚の革はそれぞれ別の部品です。
胴は木をくり抜いたものを漆で補強してありますから、落として割れたとか火事で焼けたなどのアクシデントがなければ長持ちし、安土桃山時代のものも現代の舞台で普通に用いられています。
それに対して革は消耗品です。
小鼓の革は馬の腹皮ですが、かなり長命で大事に使えば100年以上持つと言われています。
しかし、江戸初期以前の物などになると現存していないはずです。
ほとんど、処分されてしまったのではないかと思います。
長期的には経年劣化がありますし、良い調子だからといってそればかり使っていると、数年で伸び切って響きが悪くなってしまうのです。
ですから、ときどき新しい革を補充しなければいけないのですが、一つ問題というのは、出来たてのものは思うような調子が出ません。
長命にはデメリットもあって、育成に時間がかかるのです。
最初は張りが強くて固くて、冬場に打とうものなら板を叩いているような音です。
これを、息をかけて暖めたり、キツめに締めたりして、なんとかゆるめながら打ち、手の脂も馴染んでくると少しずつ柔らかくなっていきます。
(馬油が薬局で売っているように、人間と馬のお肌は相性がいいのです)
そして春になると、冬はカチコチだった革が、固いなりに調子が開いてきます。
あー、やっと新調が打てる!
と、しまっていた革を出します。
鼓の家に生まれた場合は、小さい頃から打ち頃の革が身近にあるので、新革を一から育てたことがない方もいらっしゃると思います。
私はなんの所縁もないところからこの世界にいれて頂いたので、新革を打つしかないのですが、硬い新調の革に自分自身を見るようなところもあって、嫌いでないです。
新革を育てているうちは、自分にもまだ伸び代があるんじゃないか、と思っているのです。
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