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私たちの社会よりもよき社会を未来の世代につなぐー「長期主義」の思考で
施政方針演説は、次年度にどのようにまちづくりを進めていくかを明らかにする重要なもの。私は自治体経営者として理念を共有することを大切にしており、特に「はじめに」にそれが現れます。過去のものを振り返る第4弾は2024年度から。
1.はじめに
令和6年は能登半島地震という大災害から始まりました。今、地球規模の環境破壊が進み、気候変動の影響で台風や豪雨、火災が頻発し、高度な人工知能をはじめとする技術革新と社会実装が急速に進行し、新たな感染症によるパンデミックが懸念され、大国の関わる戦争が継続し、とりわけ核兵器使用のリスクが高まり、社会的・政治的な人々の分断が加速し、日本で超高齢社会化と少子化・人口減少が急速に進む中で世界人口は増加の一途をたどり、情報通信が個人と世界のつながりを容易にし、価値観の衝突あるいは融合を生み出す。不確実性がこれほど高まっている時代が、人類の歴史上あったでしょうか。
私たちが生きている現代が、未来も含めて歴史的にどのような位置にあるのか。これを捉えることが、私たちがまちづくりを進めていくうえで、何をどう判断し、行動していくか、その適正性につながるはずです。
私たち先行世代は、私たちが享受している現在の社会よりもよき社会を、より豊かな社会を、子どもたちや孫たち、さらにはその先の世代につないでいく責任があり、新たな時代を拓くうえで、自らが生きる時点の意義を理解しておくことが求められます。
「人類は、今後数百万年、さらには数十億年と存続するかもしれない。なのに、現代世界と同じ変化率は数千年ともたない。このことが意味するのは、私たちが人類の物語のなかでも特別な章を生きている、ということだ。私たちが生きるどの10年間を切り取ろうと、過去と未来の両方と比べ、きわめて異常な数の経済的・技術的変化が起きている」
世界の注目を集める新進気鋭の哲学者でオックスフォード大学哲学准教授のウィリアム・マッカスキル氏は、今年1月に邦訳版が出た『見えない未来を変える「いま」 〈長期主義〉倫理学のフレームワーク』でこう指摘しています。新たな哲学的思想である「長期主義」について「未来の世代の利益を守るために、私たちのすべきことは今よりずっとたくさんあるという考え方」と定義。この世界の道徳の変化や価値観の固定化、人類絶滅や文明崩壊、幸せな人間を生み出すことなどについて論考し、「未来を、よりよい軌道へと転換できる時代が、今だ」と訴えます。
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私たちが私たちの暮らしを向上させるとともに、社会の持続可能性を高め、グッド・アンセスター、よき祖先となれるか。
「細心の注意と先を見通す力さえあれば、私たちのひ孫たちや、そのひ孫たち、そして数百世代先の子孫たちのために、よりよい未来をつくることはできる。しかし、そうした未来を当たり前ととらえてはいけない。必然の進歩の道筋など存在しないし、文明がディストピアや忘却の彼方へと追いやられるのを食い止めてくれる救世主など現われないだろう。すべては私たちの手にかかっている。そして、成功は保証されてなどいない。それでも、成功の望みはある。少なくとも、あなたのような人々が、この難題に取り組んでくれれば」