古民家の持つ力
「ふるさと回帰支援センター」では地域別の移住相談フェアを開催していました。群馬県の相談会に行ってみると、各市町村のブースがありました。私の希望した地域は群馬県の北部です。前橋や高崎では都会すぎる。スキー場が近いところが良い。それでいて首都圏や他の地域からのアクセスが良い。前から草津温泉の近くに別荘を持っていました。そこだと他の地域から訪ねるにはちょっと遠すぎます。そう考えると、沼田市、渋川市、中之条町、水上町あたりになります。それらのブースを回り、様子を聞いていたら、前橋市の移住コーディネータの鈴木に出会いました。彼は他のブースの人たちにも声をかけ、みんなで「田村さんチーム」というLINEグループを作ってくれました。
各市町村の移住コーディネーターさんたちが、「寄ってたかって」、物件を案内してくれました。沼田市が用意してくれた移住希望者のための「トライアルハウス」は比較的新しい一軒家。都会なら庶民は手の届かない、お金持ちレベルの広い家です。田舎でこんな家に住めたらいいなぁと思わせるようなお家でした。週末にそこに泊まり、沼田市ばかりでなく近隣の水上、高山、中之条、渋川、前橋などの物件を見て回りました。ここでも「オールぐんま」の精神ですね。他の市町村へ見に行く時も沼田市は快く利用させてくれました。街中には住みたくなかったので、前橋のコーディネーターの鈴木さんは、赤城山麓の斜面にある物件をいくつか案内してくれました。とても眺めが良いんですね。遠くの眼下には前橋・高崎の市街が、その奥には榛名や妙義の山々が、さらには谷川岳まで見渡せます。
どのような家が良いのですかと問われても、私自身の中でイメージがよくできていません。群馬の山の中に住みたいな、そこで仕事もしたいなというくらいで、いろいろ物件をあたりながら、どのような選択肢があり、どのようなイメージがしっくりくるのか、徐々に積み上げていこうと思っていました。それまでの中では、「うん、これだ!」というようなピンとくるような物件にはなかなか出会えませんでした。
沼田市コーディネーターの小島さんは河岸段丘を見下ろす高台の一軒家など空き物件はたくさんあるようでした。そのうちのひとつが、古民家でした。もともとは、ここをトライアルハウスにするつもりだったけど、耐震に問題ありということであきらめたそうです。築百年はあるだろう古く大きな家。庭は荒れ放題。水回り玄関など古く、壊れていて、とてもこのままでは住めそうにない物件です。しかし、間取りは広く、天井の梁は黒く太い。囲炉裏や昔の家財道具がそのまま残されています。二階は昔のお蚕さまを飼育していた広いスペースです。明治の富岡製糸場の時代に、この地域は生糸産業の中心地で、農家は養蚕が盛んであったようです。
とても古く、汚い古民家ですが、なぜか心を惹かれました。ここで代々暮らしていた人々の息吹が感じられるような。昔から人々が住み続け、ここは住みやすいよと残されて来たような。
その後、古民家にターゲットをしぼって、いくつか見て回りました。高山村は、当初、売りに出ている物件がなかったのですが、移住コーディネーターがさきちゃんに変わり、2件ほど見つけ出してくれました。どちらも広い敷地の中に、総二階建ての大きな古い家です。どちらも気に入ったのですが、そのうちひとつはまだ持ち主が手離す決心がつかず、もうひとつの物件を譲ってもらうことにしました。
その家に住み始めてもうすぐ2年です。住みやすいように、かなり手を入れました。でも、大きく黒ずんだ梁や柱は昔のまま使っています。古く、大きな古民家。そこに足を踏み入れると、なぜか気持ちが和みます。新しいもの、キレイなものを追い求めてきた生活とは異次元の、懐かしさを感じる、昔の原点に立ち戻るような感覚を得ます。その「原点」とは何のことか、よくわかりません。そのことを考えさせてくれるような家です。