おだやかな幸せについて−その7−
私は京都でフィルムで撮影できる出張写真館を営んでいる。
写真館は店舗がなく、お客さまが撮ってほしいと希望される場所まで行って撮影するというスタイルでやっている。
写真館の事業理念として、「 おだやかな幸せ 」を届けるために、日々の家族写真の撮影や、パン屋ツアーガイドの仕事を行なっている。
1.はじめに
2.おだやかな幸せとカメラマンの眼差し
3.おだやかな幸せであるために
1.はじめに
この回に至るまで、その「 おだやかな幸せ 」について、私なりの視点でそのカタチをコトバにし続けてきた。
実際に、それはカタチのないものでコトバで説明するのは難しいけれど、肩肘張らずにその人がありのままの状態で感じられる幸せという考えが浮かんできた。
今回は、カメラマンとして、実際の撮影現場でどういう目線で「 おだやかな幸せ 」を捉えようとしているのかということについて話していきたい。
2.おだやかな幸せとカメラマンの眼差し
意識的なところでは、目には見えない「 おだやかな幸せ 」の出てくる瞬間を撮影するために、撮影中は、なるべく自分が楽しんで撮影するようにしている。
「 楽しんで撮影するようにしている 」と書いたが、正確には撮影自体が楽しいので無意識のうちに楽しんで撮っていると思う。
その状態が一つの「 おだやかな幸せ 」を写す布石のようなものだ。
実践では、まずはじめに撮影場所を考える。
冒頭にも書いたが、お客さまが撮ってほしいと希望される場所まで行って撮影しているということが大切なのである。
建物など、場所感をどこまで入れて撮影するか。
建物全体を入れて撮影しようとすると人物が小さくなるし、人物を大きく入れようとすると場所感がなくなってくるので、場所感と人物をどれくらいの比率で撮るかが問題となってくる。
その場所で、絵になりそうな場所を何箇所か提案して、お客さまと打ち合わせをする。お客さまの思い出の場所までカメラマンが出張するので、撮影場所を選ぶのも大切な行為なのだ。
撮影場所が決まったら、次は人物への光の当たり方を見ていく。
時間帯によっては、どうしてもいい光が人物に当たらないことがある。そういう場合は、別の撮影場所を提案したり、臨機応変に対応する。
「 光 」というキーワードから、外でのロケーション撮影において、その日の天候によっては光の加減がコロコロと変わることがあるので、露出計でしっかりと露出をとって、お客さまの微妙な立ち位置を決めていく。
カメラ設定の微調整を行い、微妙な光の変化に気を配りながら、「 おだやかな幸せ 」のある瞬間を捉える。
「 おだやかな幸せ 」に意識を置きすぎると、カメラ操作の微妙な調節がおざなりになったり、一瞬でお子さんが動いたり、お父さんがあさっての方向を向いたり、お母さんがお子さんの方を向いていたりすることがあるので、撮影中はとにかく2つ、3つのことを同時にやっているという感覚だ。
両手でピアノを手で弾きながら、足を動かすように。
ラジオを聴きながら、この文章を書いているように。
とにかく同時に2、3個のこと意識しながらシャッターを押している。その状態は、私の中でおだやかな状態とのせめぎ合いだと思う。そのことについては、3の部分で説明しよう。
ひとまずまとめてみると、お客さまに撮影場所の提案をしてから、いい光を捉えつつ、いい構図をつくりつつ、おだやかな幸せを引き出し、シャッターを押すことがカメラマンの仕事なんじゃないかなと思う。
3.おだやかな幸せであるために
カメラマンの目線で撮影という行為を考えていくと、やっていることは同時に2、3個のことをやっている状態なので、決しておだやかではないと思う。
しかし、撮影者がおだやかな状態でないと、きっと「 おだやかな幸せ 」は届けることができない。
「 おだやかな幸せ 」を届けるためには、撮影者がおだやかな気持ちでシャッターを押すことが一番だと思う。それを可能にするのには、原点に戻って、写真を楽しむことが大切じゃないかと思う。
いい写真が撮れる時は、きっと楽しんで撮っている時だと思うから。
撮影者のそのような気持ちは、きっと写真に現れる。
カメラマンとして、カメラの設定( 光の調節や構図など )を合わせる行為や、その動作をしながら、おだやかな幸せを見逃さないようにする行為も含めて、その場で写真を撮ることを楽しむのだ。
…と、先ほどから、「 楽しむ、楽しむ 」と書いているけど、それも冷静になって読み返してみると少し窮屈な気もするし、そんな状況でほんとに楽しめてるのって思うのが正直なところ。
全く同じ条件の撮影というのは、2度とないと思うので、それなりのプレッシャーはひしひしと感じているから、それを楽しむっていうのも少し無理があるのかな。
そこでちょっと考え方を変えてみた。
数多い写真館の中から、田村寫眞館を選んで写真を撮りにきてくれるお客さまがいるということが嬉しくて、それは私にとって幸せなことである。
七五三や、お宮参りなど、大切な瞬間に写真を任せてくれるということは幸せで、おだやかを通り越してしまうかもしれないが、ありがたいなって思う。
そういった喜びや感謝の気持ちを胸のポケットにしまいつつ、シャッターを切ることが、おだやかな幸せを写すための近道なんだろうな。