観劇日記 「薔薇十字団・渋谷組」
2024/09/16/13:00
於 : アトリエQ藝術
友人の戸塚有紀さんがご出演
最近、有名戯曲を手に取り始めたお若い方々の中には勘違いをされている方が多いようですが、まず「清水邦夫」という劇作家は決して古典に分類される劇作家ではないので予めお伝えしておきます。活躍した時代は昭和になりますが、若かりし頃のかの蜷川幸雄と同時期に活躍した、割と「現代の人」です(笑)
今回拝見したのは『二人芝居』ですが、氏の二人芝居戯曲の中で有名なのはやはり「朝に死す」です。
これは多くの演劇養成所やWSでテキストとして使われ、今も巷の小劇場等で再演が重ねられている名作。私も幾度となくチャレンジした記憶があります。
しかし本日拝見したのはそれではなく、同氏の作品群の中でも割とマイナーというか「埋もれた」感のある隠れた一作。
これは楽しみだと思い、劇場に向かいました。
まず簡単にあらすじをご紹介します。
【あらすじ】
最近、妻を亡くした骨董屋を営む男(通)は、妻は家出していると思い込んでいる。その様子を気遣う小学校の同級生たちはそんな通の心身を案じ、カンパを募って「バラ戦士の会」という派遣回春クラブに男を慰めてくれるよう依頼する。
一方の通はそんなこととはつゆ知らず。趣味で集めている電気スタンドを並べた部屋に、今日も新しいアンティークのスタンドを買って帰宅する。
そこへ「バラ戦士の会」から派遣された葉子がやってくる…
↓↓↓↓↓
ここから本日観劇させていただいたお二人の「二人芝居」の感想に入ります。
↓↓↓↓↓
清水邦夫の作品って、我々世代だとやはり彷彿とするのがかの尾崎豊だったりするのですが、とにかく内面に「鬱々とした葛藤」や「報われない願望」のようなものが鬱積された登場人物が多いのです。事実、前出の「朝に死す」と並んで有名な「楽屋」などもその典型で、とにかく暗く、そして濃厚で密な劇空間を舞台上に表現することが肝となると思います。
その意味で言うと、二人芝居でその空気感を表現するにはまず自己の役作りと互いが抱く「関係性」が作品の良し悪しを二分するエッセンスになると思う。
本日、拝見した足立学さんと戸塚有紀さんのそれは、実に見事だった。
二人ともとても達者な役者さんだとお見受けしたが、お一人ずつ振り返ります。
通役の足立さんは佇まいが既に「通」である。ただそこ立っているだけで、観客はそこに「通が居る」ことを信じられる。これはかなり濃密な役作りをしたのでしょう。仮にも一応同業者としては、その仕事っぷり見ただけでもうお腹いっぱいです(笑)
とにかく窮屈、卑屈、女々しい、鬱陶しい…
個人的にこういうの大好きなんですが、それらを背中に纏って空間を縦横無尽に低空飛行する姿に感銘を受けました。
対して「葉子」役の戸塚さん。
彼女とは過去に何度か共演もさせていただいているし、その後も彼女の出演舞台は何度か見させていただいているけど、女優さんとしてその最大の魅力である「色気」は今回が一番濃厚で良かった。
それを醸し出すのに彼女は計算をしない。ただ自然と存在し、相手役と黙々と芝居を進行していくだけなのに、他の人にはない特別な「臭気」を辺りに振り撒く。その一部始終が「ああ、葉子だなぁ…」という印象。
そんな謀のない姿勢に、濃密な空気感漂う劇場内である種の清々しさを感じました。
やはり毎回、良いポジションの役に抜擢されているだけのことがありますねぇ。私も好きな女優さんです。
さて、作品としては…
観劇を終えて、少し色々と思考を巡らせたんたけど、今回の演出家は女性の方だったんですね。
観劇中に何度か手元のパンフで確認させていただいたんですが(暗がりであまりよく見えなかったんだけど…笑)、実際に戯曲を読んだことがある者からすると「あ、ここで泣くんだ…」とか「あ、ここ流すのね…」というような思いが沸くシーンが幾つかあったので気になっていました。
いや、決して悪いと言っているわけではないのです。むしろ「ああ、これで正解だよなぁ…」という印象を抱いて最後まで拝見しておりました。
途中、身の丈を語りながら目を潤ませる足立さんであるとか、ラストの「遥かなるやるせない思い」を外部に向けて完全放散しない、どこか溜め込んだまま沈んでいく戸塚さんのお芝居は、きっと稽古場で細かなバランス調律を求められた仕事であったでしょうが、その漂う哀愁、後に残る一点の苦々しさはお見事でした。物語パーツの切り取りで火事を起こし観衆に訴えるのではなく、静かにじりじりと燻り続け、やがて燃え滓となっていくような世界観。
なんと言うか、大人の嗜みですねぇ…
最後まで堪能させていただきました。
【まとめ】
同じ都内でも自宅からほど遠い成城学園前まで幾らか高い電車賃を使って向かい、二人芝居にしては割と高めの見物料で風情、情感豊かな空間に足を踏み込んだ本日。
いやー、充実しました。有難うございます。
唯一、自身の反省点を言えば、その風情豊かな劇場(アトリエQ藝術)までの道を忘れてしまい、何度も駅に戻るという失態を繰り返したこと…。
お陰で開演直後のお二人の芝居を見損なうという有様…!(ちゃんと戸塚さんが道順を教えてくれていたのに、後で気付くという…)
しかし色々と雑多はあったとしても、そんな贅沢な時間をいただいたことに心より感謝いたします。
役者のお二人と演出家、スタッフの皆さん、本日は有難うございました♪
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?