駆け出しUIデザイナーにおすすめの図書リスト10選
デザイナー採用のご支援をしている会社で、わたしのおすすめ図書をシェアしてほしいとお話をいただいた。以前からリストアップはしていたが、せっかくなので「なぜおすすめなのか」の背景と併せてご紹介したく、わたしが実際に読んで役立った本をあらためてピックアップしてみた。
尚、FigmaやPhotoshopなど、ツールに関する内容は、その時のベストセラーを参照する方が手っ取り早いと思い割愛した。代わりに、UIデザイナーとしての価値観に、長期的な肥やしとなる本を選ぶよう心掛けた。
1. 誰のためのデザイン? 認知科学者のデザイン原論
使いやすさのデザインについて、認知科学の面から解説された、インダストリアルデザインの名著である。
誰しもが、何かの製品に触れて、使い方がわからずに戸惑い、悩み、怒りを覚えた経験を持っているだろう。それは、あなたに問題があったのだろうか。あるいは、あなたは機械音痴なのだろうか。ここで、本書のキーワードとなる一節を紹介する。「何か問題があるとしたら、それはあなたのせいではなく、おそらくはデザインの問題なのだ」
UIデザイナーとして、昨今のわたしたちが頻繁に扱うのはディスプレイ上のデザインだが、文脈は異なっても、本書から得られる学びは大きい。
2. デザイン思考が世界を変える イノベーションを導く新しい考え方
デザイン思考は、誤解を受けやすいワードの1つだし、当初のわたしも偏見を持っていた。デザイン思考?どうせコンサルタントが適当な理屈を付けて編み出したフレームワークでしょう?と。それは間違っていた。
少なくとも、この本で語られているのは、一貫して「人を観察し示唆を得ること」の重要性であり、小手先のテクニックやフレームワークは、本質とは関係ないと分かる。それはちょうど、アジャイル開発で重要なのが「経験からの学習」にあり、スプリントやバックログ、ふりかえりといったプラクティスが必ずしも本質ではないのと同じことだ。
イノベーションを導くために、デザインが果たせる役割や、そのために、とにかく人にフォーカスする重要性を学べる。
3. エモーショナル・デザイン 微笑を誘うモノたちのために
ソフトウェアが競争優位性の源泉となった昨今、「使いやすさのデザイン」の重要性は随分と普及した。UIデザインやユーザビリティという概念も、広く知れ渡ったように思う。一方で、審美性を蔑ろにするような風潮も見受けられた。
著者のD.A.ノーマン自身も、「誰のためのデザイン」で使いやすさのデザインを扱ったものの、それはかつての使いやすさの軽視に対するアンチテーゼであり、審美性は依然として重要と説いている。わたしの体験を振り返ってみても、「見た目の美しさより、使いやすさが重要」「見た目の美しさを追い求めるのはデザイナーのエゴ」というセリフを、何回か耳にした記憶がある。
実際には、人は情緒的な動物であり、審美性は操作性に大きな影響を与える。審美性を追い求めることは、決してデザイナーのエゴではなく、素晴らしいプロダクトを作る上で必要不可欠であると再確認でき、改めて勇気をもらえる一冊である。
4. 融けるデザイン ハード×ソフト×ネット時代の新たな設計論
優れたUIデザインとは何か、という議論がある。そして、「それ(UI)を意識させない」というワードを何度も耳にしてきたし、何となく納得できる。
例えば、日常生活ではどうだろうか。あなたはハサミを使おうとしている。この時、道具とのUIは「手」だ。そして、道具を使おうとする時、手の存在は意識から消えている。道具を自然に使えている限り、わたしたちは道具そのものを意識しない。反対に、自然に操作できない場面に出会ったとき、初めてUIに意識を向ける。ちょうど、切れ味が悪いことに気付いて、ハサミの刃を意識するように。
というような事が書かれている本なのだが、「自己帰属感」というテーマを切り口にして、UIデザイン、あるいは優れた道具のデザインについて示唆を得られ、読み物としても非常に面白い。
5. 世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?経営における「アート」と「サイエンス」
不確実性が高く、必ずしも決まった正解のない昨今では、従来のサイエンスに基づいた経営は行き詰まりを迎えようとしている。なぜなら、ロジカルな意思決定を突き詰めた先には、誰もが同じ結論に辿り着くコモディティ化が待っているからだ。そのために、今後はアートがより重要な観点になるのだと、経営の文脈から解説されている。
組織論の本として読んでも、ソニーやホンダ、そしてAppleをはじめとした、かつてイノベーションを実現した企業では、強烈なビジョンと美意識(アート)を兼ね備えた経営者の脇を、サイエンスとクラフトが固めた事例が紹介されており、非常に興味深い。
デザイナー目線で読むと、特に「アートとサイエンスとクラフトが横並びになると、アカウンタビリティの問題で、アートは常に劣勢に立たされる」という話題には共感せざるを得ず、涙なしでは読めないだろう(冗談です)
6. 美の構成学 バウハウスからフラクタルまで
デザインに限らず、何かを学ぶ上では、その構成要素を掴むのが重要だ。例えば、デザイナーをやっていると「自分にはセンスが無いから、デザインは分からない」というセリフに一度は遭遇する。それは単純に、デザインの構成要素を知らないだけ、とあなたは知っているが、説明するのは難しい。
例えば、配色の例を挙げてみる。初学者が、配色について何冊かの本を読み「目立たせたい時は、反対色を使えば良いのだな」と試してみる。しかし、なぜか格好良くならない。それは、配色を単純化しすぎているからで、先の例では「色と色の組み合わせ」という2つの変数しか扱っていない。実際には、色はもちろん、面積や質感、テクスチャなど、多くの変数の掛け算によって結果は決まる。だから、構成要素を知らなければならない。
前置きが長くなったが、タイトル通り「美しさを構成するものは何か」を要素分解し、体系的に示すことを試みた一冊である。先ほどエモーショナル・デザインを紹介した際に、審美性について触れたが、そもそも美しいって何?と思い至った方は、ぜひ読んでみてほしい。
7. デザイニング・インタフェース パターンによる実践的インタラクションデザイン
デザインパターンという用語は、システム開発の文脈でよく使われる。よく起こる問題とその解決策を型化して、インデックスしたものである。UIデザインでも、パターンを知ることは、遭遇しうる問題に対する準備であり、車輪の再発明を防ぎ、本質的な問題解決に向かうための手助けになる。
普段見かけるWebアプリケーションのパーツも、こういう場面ではどちらを使うべきなのか、ハッキリと言語化できる人は意外と少ない。例えば、複数の選択肢から1つを選ばせたい時、セレクトボックスとラジオボタン、それにチェックボックス。どれを使っても仕様は満たせるが、あなたならどうするだろうか。もし悩むようなら、この一冊を読んでみよう。
8. オブジェクト志向UIデザイン 使いやすいソフトウェアの原理
誰しもが、普段インターネットを利用していて、何かの入力フォームで怒りを覚えた経験を持っているだろう。ただこの操作をしたいだけなのに、どうしてたらい回しにされたり、何度も同じ操作を要求されるのか。ああ、イライラする、とそんな具合に。
多くの場合、そこには作り手だけの側の都合を無意識に反映した「タスク指向」の特徴を見つけられる。この本では、ユーザーに行わせたい操作(アクション)ではなく、対象(オブジェクト)を中心にデザインするパラダイムが紹介されており、その明瞭さと再現性の高さは、まさに銀の弾丸といっても差し支えない。
デザイナーはもちろんだが、オブジェクト指向というワードにもあるように、エンジニアから見ても、非常に面白く読めるはずだ。
9. 情報アーキテクチャ 見つけやすく理解しやすい情報設計
情報アーキテクチャと聞いただけでは、どこか捉えどころがない。ワイヤーフレームを書いてみたり、ナビゲーションを考えたり、Webディレクターのような仕事を連想する人も多いだろう。
しかし、情報アーキテクチャを学ぶことで、ユーザーの快適な情報探索行動の設計に役立てられる。なぜなら、情報アーキテクチャのアプローチは全て「どうすれば、ユーザーに分かりやすく伝えられるか」という問いにつながるからだ。
デザインする上では、常に「この情報は詰まるところ何を示しているのか」「ユーザーは、どんな情報ニーズを持って訪れているのか」というメタな視点で、コンテンツの見せ方を検討できる武器として活用できるだろう。
10. みんなではじめるデザイン批評
デザイナーは、批評にさらされることが多いロールである。アウトプットが視覚的であり、かつ文脈によって正解も変わるからだ。言ってしまえば、誰にでも簡単に批判できてしまう。
誰しも、新人デザイナー時代には、ステークホルダーの個人的な好みで否定されたり、議論が発散していつまでも意思決定につながらず、強い挫折感を味わった経験を持っているだろう。特に、デザインリテラシーが根付いていない組織であればなおさらである。
この本では、デザインレビューを、本来の役割である「目的を達成するために、建設的な批評を通して、アウトプットをブラッシュアップする」という方向へ向かえるよう、ファシリテーションの手助けをしてくれる。