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ジョン・ウィック コンセクエンスに日本が与えた多大な影響とは?

9月22日、本国から遅れることおよそ半年。
ついにガン・フーアクションシリーズ、「ジョン・ウィック」シリーズ待望の四作目、

『ジョン・ウィック:コンセクエンス』

が公開された。

相変わらずどころかさらに磨きがかかりスケールアップしたアクション、リベンジに焦点を当てたこれまで以上にスリリングなストーリーが見どころの本作だが、すでに見たという人も多いだろう。

もちろんこれから見る予定だ、という人にも安心してほしい。当記事では大まかなシチュエーション、シーンの示唆こそするが、直接的な明言やネタバレととられる記述はしていない。

ただシーンを解説する特質上、舞台の背景やキャラ同士の対決シーンといったものには触れざるを得ないので、一場面たりとも情報を入れずに臨みたい、という人はブラウザバックをおすすめする。

では早速本題に入っていこう。


大阪と真田広之という漢

真田広之演じるコウジ

本作の主軸となる舞台の一つに日本、大阪がある。
場所は大阪コンチネンタル(シリーズ恒例のコンチネンタルホテルの大阪店だ)と梅田。
梅田は超高層ビルがひしめき合う大阪の中枢部であり、日本でも有数の都市の一つでもある。
まず本作における日本の描かれ方についてだが、9割型ファンタジージャパンである。
道頓堀やカニ道楽と言ったお約束とも言える名物スポットはそのまま映し出されるのだが、それ以外の部分についてはほとんどが欧米的なイメージによる日本。
ネオンと漢字が入り乱れるサイバーパンク的な世界として描かれている。

そして登場する大阪コンチネンタルだが、まさになんちゃってジャパンの巣窟である。

一種の清々しさを感じるほどのビジュアルとぶっ飛び具合満載だ。従業員は皆ヤクザか忍者か力士なのだ。彼らは大体裏の厨房で飯を食っており、有事の際には冷蔵庫に見せかけた武器庫から手裏剣やら刀を取り出して対処にあたる……

2023年にもなってここまでやるとはもはや確信犯としか言いようがない。近年では2013年の『ウルヴァリン:SAMURAI』や2003年の『キルビル』、過去には1967年の『007は二度死ぬ』を連想することができる(ちなみに『ウルヴァリン〜』には本作出演の真田浩之が出演、さらに第二班監督をジョンウィックシリーズの監督や制作総指揮を担ったデヴィッド・リーチが務めていた)。要はこれらに並ぶバカさ加減ということだ。ここまで振り切っていたらもはや怒る気にもなれず、気がつけば次にどんなねじ曲げられた日本像が降臨するのか待ち遠しい気持ちになっていた。

大阪コンチネンタルの外観に用いられた新国立美術館。  東京都港区  (余談だが本作鑑賞の前日に筆者はここを訪れていた為、登場時ひっくり返った)。

さて、本作に登場する大阪コンチネンタル。そこの支配人として登場するのが我らが真田広之である。
ハリウッドでは特に近年の活躍が目覚ましく、『ラストサムライ』に始まり、近年でも『アベンジャーズ:エンドゲーム』、『モータルコンバット』、『ブレットトレイン(これも上述のデヴィットリーチ監督作ということもあってか日本描写がぶっ飛んでいる)』などなど引っ張りだこ。
彼が演じるコウジはホテルの支配人でありながらジョンたちの旧友として、刀での戦闘を得意とする、そして情に厚い武士然とした漢(オトコ)だ。
彼の精神性はまさしく武士であり、時代劇に出てくる侍そのもの。

ジョン・ウィックと交わす酒が日本の『山崎』というのも、監督のチャド・スタエルスキと主演のキアヌ・リーブスがプロモーションで来日時、毎回ホテルで山崎を酌み交わしながら次回作の構想を練る、との逸話を思い起こさせて微笑ましい。

最後の決斗 なぜ西部劇だったのか?

ここからは物語のクライマックスに触れていく。
冒頭でも述べた通りネタバレを極力回避するが、シチュエーションやどういう構図でどういう状況が作り出されるか、については触れていくのでご了承願いたい。

さて、クライマックスシーン。
様々な障害を乗り越えたジョンは遂に最後の決戦へと挑む。
そこで待ち受けるのは最大の強敵と、一対一の、一発勝負の早打ち対決だ。
その対決、決闘にジョンが臨む時、以下の曲がかかる。

曲全体を聴くと、場面のシチュエーションも相まってどうしても西部劇、それもセルジオ・レオーネとエンニオ・モリコーネの組み合わせが隆盛を誇ったマカロニ・ウエスタンの文脈を感じずにはいられない。
事実、この曲の構成や帯びた雰囲気は非常にエンニオ・モリコーネ作曲のスコアと近しいものがある。

『Once upon a time in the west(邦題:ウエスタン)』の決戦時に流れる曲。

上記と同じくエンニオ・モリコーネ作曲の『続・夕陽のガンマン』、決戦のテーマ。
全編を聞いて頂ければわかると思うが、構成としてもゆったりとしたイントロからじわりじわりと楽器が増えていき、壮大さと緊迫感を増していくものになっている。

そしてマカロニ・ウエスタンという一大潮流の源泉には監督・黒澤明の存在がある。
なぜなら黒澤明の『用心棒』こそがマカロニ・ウエスタンブームの端緒を切った『荒野の用心棒』の原作であり、『用心棒』があったからこそセルジオ・レオーネは名監督として、クリント・イーストウッドはスター俳優そしてやはり名監督として、エンニオ・モリコーネは西部劇の音楽を発明し絶対的な影響を後世に残すことになったのである。
ジョン・ウィック:コンセクエンスがこの系譜を知らずに作られたとは到底考えにくい。

実に西部劇風、と言えるこの終盤の見せ場の源流は実は日本映画にあったのである。


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